英国作家のマーセル・セロー氏の新作小説『The Sorcerer of Pyongyang(平壌の魔術師)』の表紙。韓国語版の翻訳はまだ未定だ。
セロー氏の名前はフランス式だが、生まれはウガンダ、育ちは英国と米国だ。著名な旅行作家であり小説家である父親のポール・セロー氏の影響だ。イェール大学で国際関係学を学びながら深く掘り下げたテーマはソ連。セロー氏にとって北朝鮮が特別な意味を持つ理由だ。セロー氏は「北朝鮮は失敗したマルキシズムを崇拝する地上最後のカルト政権」としながら「〔金日成(キム・イルソン)〕バッジから全体主義的ポスター、過酷な刑罰など、人間の心を政権が統制しようとする試みが依然として作動している」と話す。人の心を国家が統制するということの非人間性を魔法と幼い少年という装置を通じて心の奥深くまで訴えかける。英国ガーディアン紙は「全体主義政権の虚像を指摘した秀作」と評した。2009年には『極北』で全米図書賞の最終候補作に選ばれた。これに先立ち、セロー氏はサマセット・モーム賞とSF作品に与えられるジョン・W・キャンベル記念賞なども受賞している。
本の主人公はジュンスという名前の幼い少年だ。ジュンスは政権に忠実に服従する人物で、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の目に入って出世することを最高の野望としている少年だ。そのようなジュンスがある日、西欧旅行客が置いて行った魔法関連の本に接することになり、これまで自分が知っていた世界の虚像に気づくというのが主要なあらすじだ。次は一問一答の要旨。
--金正恩北朝鮮国務委員長がこの本を読んだらどう思うだろうか。
「さあ、どうだろうか。2018年平壌訪問中に私たちを担当してくれたガイドが金日成と金正恩に対して熱弁を振るっていたことが思い出される。ガイドは金日成がどれくらい金正恩を愛していたかを幾度となく強調したが、率直に(海外旅行客である)私たちには不思議に聞こえたものだ。だがその表情は真剣そのものだった。忠誠を尽くす住民たちにとって、金正恩は金日成の後に続く王だが、私には金正恩はただの太り過ぎで、ヘアスタイルが変なミレニアル、その以上でも以下でもない」
--小説の題名を『可能性の家(The House of Possibilities)』とつけようとしたそうだが。
「エミリー・ディキンソンの詩、『私は可能性の中に住んでいる(I Dwell in Possibility)』に着眼した。ジュンスにとって以前までは可能ではなかった可能性が開かれたという意味でもあった」
--ドキュメンタリー監督および作家としても活動中だ。韓国訪問の記憶は。
「2015年に訪韓して塩田で強制労働をする人々に対するドキュメンタリーを撮影したことがある。もちろん、そのようなことが発生したということは韓国社会の痛い部分でもあるが、角度を変えて考えてみると、そうした点を海外のドキュメンタリー製作者に見せることができるということ自体が韓国が持つ開放性を反証している。ソウルや木浦(モクポ)、釜山(プサン)などいくつかの都市を行き来して楽しい経験もたくさんしたし、何よりも韓国に行った経験が北朝鮮を訪問した時に多いに役立った。南北は二卵性双子のようだ。後れた北朝鮮の姿は韓国の発展の姿を直接目撃した後だったので、さらに心が痛んだ。北朝鮮の住民たちはもっと豊かに暮らせるにもかかわらず、その政権が知る権利を遮断して恐ろしい現実につながっている」
--北朝鮮にもその間変化はあった。
「もちろん過去10年間、北朝鮮も、北朝鮮に対する私の考えも一変した。それでも変わらない一つの謎がある。北朝鮮の住民たちは実際に政権を信じているのか。誰もこれに対して答えることができない。平壌旅行を始めながら私は『ここは一つの巨大な監獄のようだ』と考えたが、時間が経つにつれて平壌にもおいしいピザ屋がありデパートがあり地下鉄の駅がある現代社会だということを知った。もちろん、北朝鮮は我々に自分たちが見せたいものだけを選んで見せたのではあるが」
--主人公を北朝鮮少年に設定した理由は。
「北朝鮮の住民は洗脳されたロボットのようだと西欧では考えられているが、そのような住民の若者世代を代表する少年が変わっていく様子を描きたかった。北朝鮮住民はロボットではない。彼らにも愛する家族がいて、休日には子どもたちを連れて遠足に行き、未来に対する野望がある。北朝鮮住民も私たちも同じ人間だ。彼らが外には見せていない本当の生き方を描きたかった」
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