ニューヨークの今年の春はあまりにも静かで怖い。3月22日のニューヨーク州の自宅待機と非必須事業場の営業停止措置でマンハッタンの街には人影が少ない。救急車のサイレンが静寂を破る。マートには食料品と衛生用品を購入する市民が2メートルの距離を置いて列に並ぶ。筆者が年初から招聘教授として訪問したコロンビア大学は寮を閉鎖し、すべての授業をインターネットで行っている。
ニューヨーク市は米国内でも新型コロナウイルス感染症で最も大きな被害を受けた。公式感染者数が初めて出てきた3月1日以降、感染者は16万人を超え、1万2000人以上が命を失った。ニューヨーク市の人口は840万人と、米国の全体人口の2.5%だが、米国全体の新型コロナ死者数の20%以上を占める。人口1万人あたりの感染者は188人、死者は14人と、世界最高水準だ。無作為標本で抗体検査をした結果では、驚くことに市民全体の21%が感染したと推定される。
ニューヨーク市は米国社会の明るく暗い面を見せる。ニューヨークは世界の金融、通商の中心地であり、最先端都市だ。世帯の中位所得が6万4000ドルにのぼる。しかし不平等が激しい米国国内でも所得分配が最悪だ。所得分配指標のジニ係数が0.55(0と1の間の値で1が最も不公平。韓国は0.35)と非常に高い。貧困率は17%、ホームレスは8万人にのぼる。市民の半分は家庭で英語を話さず、全体の37%が外国で生まれた移民者だ。
米国式資本主義は個人の自由と市場の役割を尊重し、速い経済発展と技術革新に寄与するが、公共の問題を解決する機能は十分でない。新型コロナ対応でも公共医療体系が不十分で被害が大きかった。ニューヨーク市は医療従事者と施設が不足するが、入院患者が突然増えて医療システムがまひすると、緊急に臨時病院を確保して病床を増やした。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、米国は人口1000人あたりの病床数が2.8と、英国、イタリアと共に先進国の中で非常に低い水準だ。一方、韓国は12.3で、日本やドイツと共に世界最高水準だ。
米国は医療施設へのアクセスも良くない。韓国のような国民健康保険がない。医療費は高く、米国人は普段から病院に行こうとしない。ニューヨーク市の調査によると、65歳未満の市民の10%は医療保険がない。体調が悪くても病院に行かず、米国国民が1年間に医師に会う平均回数は4回と、韓国の16.5回を大きく下回る。糖尿、高血圧、癌、心臓病、肺疾患、肥満など基礎疾患がある高齢層も健康を管理するのが難しく、今回の新型コロナのように感染が速くて致死率が高い呼吸器疾患には非常に脆弱だった。ニューヨーク市の新型コロナによる死者の75%が65歳以上で、ほとんどが基礎疾患がある患者だった。低所得有色人種であるほど医療とは距離があり、新型コロナで深刻な被害を受けた。
経済状況は最悪だ。事業場の営業制限・閉鎖と社会的距離のため消費、投資、生産が急激に減少した。失業保険を請求した新規失業者は米国全体で5週間に2600万人を超えた。経済被害を減らすために米国の州政府は自宅待機と営業制限を緩和していく措置に着手した。まだ感染者と死者が出ているが、もう最悪は通過したという雰囲気だ。しかし米国が果たして早期に感染病拡大を防いで経済を回復できるかは不透明だ。新型コロナを経験し、国家リーダーシップと政府に対する国民の不信感が強まった。今年11月の大統領選挙を控え、保守と進歩勢力間、社会階層・人種間の葛藤はますます深まっている。
韓国は新型コロナ対応に成功したという評価を世界から受けている。公共医療体系を他国に比べてよく構築し、過去のMERS(中東呼吸器症候群 )の経験から今回は攻撃的な感染者追跡と自宅隔離で初期防疫に成功した。優秀な医療人材が献身的に奉仕し、政府の措置に市民が自発的に参加して犠牲者も少なかった。
今回は成功したが、次にまた大きな外部衝撃があればどうだろうか。まずは経済危機が心配だ。世界経済が深刻な不況を迎える状況で、韓国が財政・金融政策をすべて動員しても、当分は景気沈滞と大量失業から抜け出すのは難しい。韓国は昨年の合計特殊出生率が0.92と世界最下位で、65歳以上の高齢人口比率は世界で最も速いペースで増えている。医療保険と国民年金制度を今のように維持するのが容易でない。労働力の減少と生産性増加率の鈍化で潜在成長率が下落する中、非生産的な政府の支出は急速に増加している。政府の負債のこのまま増えれば、次の危機に財政が役割を果たせなくなる。
予測しがたい国家的な大災難や経済危機は個人が対応できるものではない。国民は有能な政治家、官僚に権力を委任して信頼する。すべての国民はより安全で、経済的に豊かで、尊重される生活を送ることを望む。新型コロナ以降、政府はやるべきことが多い。ニューヨークの現在の悲劇が韓国の未来の姿になってはいけない。
李鍾和(イ・ジョンファ)/高麗大学経済学科教授
ニューヨーク市は米国内でも新型コロナウイルス感染症で最も大きな被害を受けた。公式感染者数が初めて出てきた3月1日以降、感染者は16万人を超え、1万2000人以上が命を失った。ニューヨーク市の人口は840万人と、米国の全体人口の2.5%だが、米国全体の新型コロナ死者数の20%以上を占める。人口1万人あたりの感染者は188人、死者は14人と、世界最高水準だ。無作為標本で抗体検査をした結果では、驚くことに市民全体の21%が感染したと推定される。
ニューヨーク市は米国社会の明るく暗い面を見せる。ニューヨークは世界の金融、通商の中心地であり、最先端都市だ。世帯の中位所得が6万4000ドルにのぼる。しかし不平等が激しい米国国内でも所得分配が最悪だ。所得分配指標のジニ係数が0.55(0と1の間の値で1が最も不公平。韓国は0.35)と非常に高い。貧困率は17%、ホームレスは8万人にのぼる。市民の半分は家庭で英語を話さず、全体の37%が外国で生まれた移民者だ。
米国式資本主義は個人の自由と市場の役割を尊重し、速い経済発展と技術革新に寄与するが、公共の問題を解決する機能は十分でない。新型コロナ対応でも公共医療体系が不十分で被害が大きかった。ニューヨーク市は医療従事者と施設が不足するが、入院患者が突然増えて医療システムがまひすると、緊急に臨時病院を確保して病床を増やした。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、米国は人口1000人あたりの病床数が2.8と、英国、イタリアと共に先進国の中で非常に低い水準だ。一方、韓国は12.3で、日本やドイツと共に世界最高水準だ。
米国は医療施設へのアクセスも良くない。韓国のような国民健康保険がない。医療費は高く、米国人は普段から病院に行こうとしない。ニューヨーク市の調査によると、65歳未満の市民の10%は医療保険がない。体調が悪くても病院に行かず、米国国民が1年間に医師に会う平均回数は4回と、韓国の16.5回を大きく下回る。糖尿、高血圧、癌、心臓病、肺疾患、肥満など基礎疾患がある高齢層も健康を管理するのが難しく、今回の新型コロナのように感染が速くて致死率が高い呼吸器疾患には非常に脆弱だった。ニューヨーク市の新型コロナによる死者の75%が65歳以上で、ほとんどが基礎疾患がある患者だった。低所得有色人種であるほど医療とは距離があり、新型コロナで深刻な被害を受けた。
経済状況は最悪だ。事業場の営業制限・閉鎖と社会的距離のため消費、投資、生産が急激に減少した。失業保険を請求した新規失業者は米国全体で5週間に2600万人を超えた。経済被害を減らすために米国の州政府は自宅待機と営業制限を緩和していく措置に着手した。まだ感染者と死者が出ているが、もう最悪は通過したという雰囲気だ。しかし米国が果たして早期に感染病拡大を防いで経済を回復できるかは不透明だ。新型コロナを経験し、国家リーダーシップと政府に対する国民の不信感が強まった。今年11月の大統領選挙を控え、保守と進歩勢力間、社会階層・人種間の葛藤はますます深まっている。
韓国は新型コロナ対応に成功したという評価を世界から受けている。公共医療体系を他国に比べてよく構築し、過去のMERS(中東呼吸器症候群 )の経験から今回は攻撃的な感染者追跡と自宅隔離で初期防疫に成功した。優秀な医療人材が献身的に奉仕し、政府の措置に市民が自発的に参加して犠牲者も少なかった。
今回は成功したが、次にまた大きな外部衝撃があればどうだろうか。まずは経済危機が心配だ。世界経済が深刻な不況を迎える状況で、韓国が財政・金融政策をすべて動員しても、当分は景気沈滞と大量失業から抜け出すのは難しい。韓国は昨年の合計特殊出生率が0.92と世界最下位で、65歳以上の高齢人口比率は世界で最も速いペースで増えている。医療保険と国民年金制度を今のように維持するのが容易でない。労働力の減少と生産性増加率の鈍化で潜在成長率が下落する中、非生産的な政府の支出は急速に増加している。政府の負債のこのまま増えれば、次の危機に財政が役割を果たせなくなる。
予測しがたい国家的な大災難や経済危機は個人が対応できるものではない。国民は有能な政治家、官僚に権力を委任して信頼する。すべての国民はより安全で、経済的に豊かで、尊重される生活を送ることを望む。新型コロナ以降、政府はやるべきことが多い。ニューヨークの現在の悲劇が韓国の未来の姿になってはいけない。
李鍾和(イ・ジョンファ)/高麗大学経済学科教授
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