韓国交渉団を前に発言するトランプ大統領[X キャプチャー]
たとえば米国が韓国にバイオエタノール「再生可能燃料基準(RFS)」導入を強く要求したという報道があったが、韓国政府は「米国は交渉過程でバイオエタノール用トウモロコシの輸入拡大に言及しなかった」と反論した。RFSとは輸送用燃料にバイオエタノールなど再生可能燃料を一定比率以上混合するよう義務化した政府の規制だ。
こうした相反する主張は「同床異夢」によるものだ。米国は完成品のバイオエタノールの輸出拡大に集中した半面、韓国は原料のトウモロコシの輸入だけを交渉の対象と認識したからだ。
バイオエタノールはトウモロコシなどを原料とし、特にトウモロコシ基盤の生産過程では乾燥蒸留穀物残渣(DDGS)という家畜飼料用副産物が出る。米国はトウモロコシよりエタノールの輸出が付加価値が大きい。反対に韓国はトウモロコシ輸入後に国内でエタノールと副産物を生産するのが食料安全保障にも有利だ。
韓国の立場で米国が望むバイオエタノールRFSの導入は容易でない。現在、国内RFSは軽油に4%のバイオディーゼル混合だけを規定している。2024年に推進されたガソリンバイオエタノール混合試験事業は精油業界の反対で実現しなかった。精油会社は輸入エタノールを混ぜればコスト上昇でガソリン価格が上がり、輸入混合方式では収益を出すのが難しいという立場だ。
しかしバイオエタノールが必ずしもガソリンだけに使われる必要はない。航空燃料分野で活用の可能性が高い。国際民間航空機関(ICAO)は2050年の炭素中立目標達成に向け、各国航空会社に持続可能な航空燃料(SAF)の使用を義務化する。エネルギー経済研究院によると、2050年の国内航空燃料需要は現在の1.6倍に増えるが、廃食用油・動物性脂肪を活用したSAFだけでは全体需要の5.4%にしかならない。結局、「アルコール-航空燃料転換工程(ATJ)」を通したバイオエタノール基盤の航空燃料が現実的な解決方法となる。これは国内の航空炭素中立と韓米通商交渉を同時に後押しするカードだ。
今回の妥結はまだ口頭の合意にすぎない。今後の交渉の文書化段階で、米国は非関税障壁の撤廃を口実にRFS導入と米国産エタノール輸入を強く要求する可能性がある。韓国は内部的論争を後回しにしてSAF導入という戦略的解決法を準備する必要がある。通商紛争の種となるバイオエタノールは炭素中立とエネルギー転換の未来を開くカギだ。この瞬間の対応が未来の韓国のエネルギー主権と産業競争力を左右することになるだろう。
キム・ジェギョン/エネルギー経済研究院研究委員
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