韓国梨泰院(イテウォン)惨事現場の近くに用意された追慕空間。犠牲者を追慕する市民の足が今も絶えない。[写真 中央フォト]
韓国が世界の舞台で文化国家として飛躍している時点、信じられない悲劇だった。外信〔ワシントン・ポスト(WP)〕さえ「三豊(サンプン)惨事以降、27年間、韓国は何も学んでいないのか疑問」と叱責した。当然予想される人波に対する備えはなかったし、事故発生以降の対応もまた総体的に不十分だった。権力者のうち誰も先に「私の責任だ。申し訳ない」と頭を下げる者がいなかった。大統領などの謝罪が出てきたのも惨事から数日後、批判世論が沸き起こった後だった。犠牲者ではなく死亡者、惨事ではなく事故という用語に固執して遺族と国民にさらなる傷を負わせた。
若者が遊びに行って起きたことでも、行事の主催者がいてもいなくても国民の安全と生命を守るのは国家の基本責務だ。龍山(ヨンサン)警察署長は官用車量に固執するあまり歩いて10分の距離の事故現場に50分後に到着した。大規模な人波に伴う安全事故を憂慮した一線の報告書は無視され、惨事後に削除を指示した情況まで明るみになった。龍山区庁長は7日、国会行安委で「責任を回避しない」としつつも「心の責任」と一言付け加えた。李祥敏(イ・サンミン)行安部長官は同じ席で「無限の責任を感じる」とし、基本所得党の龍慧仁(ヨン・ヘイン)議員から「長官は具体的責任を負う席だ。無限の責任などという抽象的な言葉で逃げるな」と批判された。李長官は辞退の意思はないと述べた。
オンラインにはフェイクニュース、陰謀説が出回っている。政治攻勢の好機と考えている一部の野党圏スピーカーたちは未確認のフェイクニュース、論理の飛躍も辞さない。逆に少数ではあるが、政権批判勢力が今回の惨事を誘導したという荒唐無けいな主張もある。セウォル号という悲劇を体験しても、韓国社会の公的危機対応システムがこのような有り様で、再び政派争いに突き進むなら、それはただの分裂の無限ループだ。真相を糾明し、妥当な法的・政治的責任を問い、再発防止策を用意することが最優先でなければならない。
梨泰院惨事の衝撃がまだ残る中で京畿道義王市(キョンギド・ウィワンシ)の五鳳(オボン)駅では5日、韓国鉄道公社(KORAIL)所属の30代労働者が貨物列車の夜間作業中に死亡した。先月SPC系列の製パン工場で20代女性労働者がソース配合機に挟まって死亡してからまだ1カ月も経過していない。雇用労働部によると、今年1~8月に産業災害で亡くなった労働者は432人。一日に2人の割合で死亡しているといえる。重大災害処罰法があるものの、KORAILだけでも今年4人目の産業災害死亡事故だ。梨泰院惨事直後、誰かが「韓国の若者は職場であろうと、遊びに行った先であろうと死ぬ」と悲しんでいた様子が思い浮かぶ。弱り目にたたり目で、6日にはソウル永登浦(ヨンドンポ)駅付近ではムグンファ号列車の脱線事故まで起きた。
幸いだったのは慶尚北道奉化郡(キョンサンブクド・ホンファグン)の鉱山で生き埋めになってから221時間ぶりに奇跡的に救出された2人の鉱夫だ。コーヒーミックス30袋を分け合いながら持ちこたえた。甘いコーヒーミックスは最近「Kコーヒー」と呼ばれて海外でも人気だと言うが、体力を消耗する作業現場ではエネルギーを回復してカフェイン覚醒効果で労働の集中度を高める「労働飲料」の役割も果たしている。労働飲料が命綱になった状況だ。救出された鉱夫のパク・ジョンハさんはあるラジオのインタビューで「鉱夫にはいない者同士、とても強くて格別な仲間愛がある」とし「仲間が救助を諦めるだろうとは一度も思わなかった」と話した。仲間が唯一の希望だったということだ。パクさんはまた「事故がおきる一日前の安全点検で何の問題もなかった」とし、表面的な安全点検の問題も指摘した。ラジオ進行者はパクさんに「生きていてくださって感謝する」と言ったが、私も同感だ。職場でも、街頭でも、遊びの空間でも、これ以上残念な死がない安全な世の中はいつになったら来るのか。今回も韓国社会が学ぶことができないなら希望はない。
ヤン・ソンヒ/中央日報コラムニスト
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