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【時視各角】歴史的歪曲と想像の間=韓国

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版

1980年代を背景に北朝鮮工作員と女子大生の悲しいロマンスを描いたJTBCドラマ『スノードロップ』。事前に知らされた一部の情報が拡大解釈、伝播して歴史歪曲(わいきょく)というレッテルが張られてしまった。[写真 JTBC]

『日没』という日本の小説がある。性愛をテーマにしている小説家が「文化文芸倫理向上委員会」という政府機関に連れて行かれて精神教育を受ける。小説が強姦を美化していると告発されたためだ。政治的正しさと「キャンセルカルチャー」(SNSフォロワーを取り消すように人権感受性が低い文化人や作品・キャラクターをボイコットする文化)など、最近文化界の流れを反映した2020年の作品だ。政治的正しさが創作の自由の対称点にあるとは考えないが、「正しさに対する倫理的情熱を大切にしながらも、その情熱を『正しさ』自体を疑って相対化するところまで推し進める必要がある」という文学評論家ハン・ヨンインの言葉に共感する。

少し話はズレれるが、最近韓国社会は時代劇の歴史歪曲(わいきょく)論争の真っ只中だ。1980年代を背景に北朝鮮工作員と女子大生のロマンスを描いたJTBC『スノードロップ』のことだ。放送が始まった最初の週から、いや放送前から「民主化運動を蔑視」「安全企画部(安企部)の美化」などの烙印が押された。36万人余りがドラマ打ち切りを求めて請願に賛同した。裁判所はある市民団体のドラマ上映禁止仮処分申請を棄却した。

ドラマが進むにつれて安企部要員の美化やスパイが民主化運動を主導しない点が明らかになったが(主人公は南北の政略的裏取引の犠牲の羊になるようだ)、「歴史歪曲派」は不動の姿勢だ。


実際に始まってみると「安企部の美化」ではなく権力欲に翻弄される「安企部の嘲弄」ではないのかという意見にも、「物笑いの種」という人間的描写がまさに美化だとチクリと言う。「ドラマはドラマとして見ようじゃないか」という声や創作の萎縮を懸念するコメントに対しても安易な歴史意識を叱責する。ただの恋愛遊びに80年代を引き立て役にして、厳重な時代性を傷つけているという声だ。

以前までさまざまなフュージョン歴史劇を受け入れてきた大衆情緒の変化は2020年ドラマ『哲仁王后』(tvN)が基点だった。「男性の魂が宿った王侯」という大胆な設定を実存人物(哲宗)と組み合わせたことが歴史歪曲論争につながった。昨年『朝鮮駆魔師』〔SBS(ソウル放送)〕は2話を放送したところで電撃的に打ち切られた。太宗(テジョン)・世宗(セジョン)など実存人物をエクソシズムと連結したうえに中国風の小道具や衣装で反中感情に触れた結果だ。スポンサ-会社の圧迫、制作スタッフの思想検証、俳優ボイコット、ドラマ打ち切り請願など集団的不買運動に広がった。仮想の朝鮮王が男装した女性で、宮廷のあちこちで男の臣下とキスをする『恋慕』〔KBS(韓国放送公社)〕が成功したロマンス時代劇と受け入れられたのとは大きな違いだ。歴史にファンタジー的想像力を組み合わせるものの、それが今現実の時代的想像力とどのように符号するかが大衆の好き嫌いを決めているという分析もある。

おそらく『スノードロップ』の過ちを挙げるとするなら、韓国社会にとって80年代が今も深刻な問題であることを見逃したという点ではないだろうか。しかし放送1~2話でドラマ打ち切り請願を繰り返す暴力的方式は果たして穏当なのか。視聴者の主権と同じくらい創作の自律性も尊重されるべきだ。考えの異なる人々の見る権利もまた重要だ。ネット上にはすでに次の問題ドラマリストが出回っている。中国の小説が原作であったり、中国資本が入ったりして「親中・歴史歪曲」疑惑があるとしながらだ。

ドラマに対する評価は個人によりいくらでも違う場合がある。判断は作品をちゃんと見て、市場で視聴率で計ればいいだけのことだ。何よりも歴史的歪曲とドラマ的想像の境界は何か、表現の自由とその限界は何かなどの重要な議論が抜け落ちている。また、80年代に対して許されたドラマ的想像力がただ一つ(リアリズム)で残りは歪曲というなら、それこそまさしく80年代式暴力ではないのか。あるベテランのドラマPDが電話をしてきた。「80年代の韓国社会が戦って得たものが何か。民主化、言論と表現の自由ではないのか。その自由を無視するような恐ろしいことが起きている」。声が沈痛だった。知ってのとおり80年代の民主化は90年代の検閲撤廃につながり、90年代に文化の時代が開かれて韓流が芽生えた。表現の自由を養分として韓国社会の矛盾を批判的に描いた『パラサイト 半地下の家族』や『イカゲーム』、BTSが成し遂げたことについて、これ以上語る必要はなさそうだ。

ヤン・ソンヒ/中央日報コラムニスト



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