国民の党の安哲秀（アン・チョルス）大統領候補は「新しい政治」を主張してきた。「政治に参加して１０年が過ぎたが、まだ新しい政治が何かを示せずにいる」という評価を受けてきた安候補が最近、鋭い論評をしながら政治評論家の資質を表している。

安候補は７日、「安哲秀ｘ陳重権（チン・ジュングォン）大韓民国革新論争のラインを越える」というブックコンサートで「いま国民は飲酒運転者と初心運転者のうちどちらかを選べという選択を強要されている」とし「（このような候補に）大韓民国の５年を任せてほしいというのはあり得ないこと」と直撃弾を飛ばした。


与党・共に民主党の李在明（イ・ジェミョン）候補と最大野党・国民の力の尹錫悦（ユン・ソクヨル）候補の弱点を狙った発言だった。李候補は２００４年５月、免許取り消し水準の血中アルコール濃度０．１５８％の泥酔状態で運転して摘発され、罰金１５０万ウォンを支払った。尹候補は検察総長だった６月２９日に大統領選出馬を宣言し、わずか４カ月後に最大野党の大統領選候補に選出された政治の初心者だ。


安候補の言葉は１０日の寛勲（クァンフン）クラブ招請討論会でも引用された。安候補が表現したように、次の大統領選挙は飲酒運転者と初心運転者のうちどちらかを選ばなければいけないほど有権者が悩んでいる状況だが、「治国平天下」をするとして出馬した李候補は「修身斉家」を十分に準備したのか尋ねた。李候補は飲酒運転経歴と暴言の前歴を謝罪することもなく、尹候補が初心運転者なので不安だと攻撃した。

李候補の支持者は守勢を攻勢に変えた瞬発力を称えたようだ。しかし飲酒運転者より初心運転者が危険だという趣旨の比較発言がさら批判を呼んだ。関連報道には「事実上殺人のような飲酒運転の危険性を看過した」「飲酒運転は違法だが初心運転は合法」というコメントが書き込まれた。

では、「交通事故加害運転者の運転免許取得経過年数と事故件数および死亡者数」を分析した道路交通公団の昨年の統計を見てみよう。１年未満の初心運転者が起こした事故は５５３６件で死亡者は７６人だった。１年以上～２年未満は４２８４件で４３人が死亡した。ところが運転が熟達した４年以上～５年未満の経歴者も事故を５１４７件も起こし、７５人が死亡した。さらに９年以上～１０年未満は２万３４３７件で、２９９人も死亡している。

飲酒運転処罰を大幅に強化した「ユン・チャンホ法」を制定する際に諮問した交通専門家のチャン・テギョン交通安全環境研究所長は「免許取得から２年までを初心運転者と見なすが、自分が初心者であることを知るため無理な運転をしない傾向がある。半面、５年以上の運転経歴者は運転の実力を過信し、むしろ事故を起こす可能性が高まる」と分析した。

交通専門家たちが最も危険な運転に選ぶのは居眠り運転だ。外国では居眠り運転を「隠れた殺人者（ｈｉｄｄｅｎ　ｋｉｌｌｅｒ）」と呼ぶ。それで日本やオーストラリアなど先進国は連続運転時間を最長４～５時間、一日の最長運転時間を９～１２時間に規制している。

２０１６年７月に嶺東（ヨンドン）高速道路のトンネル入口で発生した５台追突事故で乗用車に乗っていた２０代の女性４人が死亡した事故は、観光バスの運転手の居眠り運転が原因と見なされた。チャン・テギョン所長は「飲酒運転者と初心運転者が起こした交通事故の現場には運転者が事故の直前にブレーキを踏んで道路にスキッドマーク（スリップあと）が残るが、居眠り運転の場合は目を閉じて運転するということでスキッドマークさえも残らないほど危険だ」と説明した。

居眠り運転のような政治と行政の代表的な失敗事例として文在寅（ムン・ジェイン）政権の尿素水不足が挙げられる。９月中旬に貿易業界がすでに中国政府の尿素輸出制限の可能性を在中韓国大使館に知らせ、中国は１０月１１日に輸出制限措置を告示した。大使館が１０月２１日になってから外交部に状況を報告したが、鄭義溶（チョン・ウィヨン）外交部長官は１０月２９日の中国の王毅外相と会った席で問題を提起しなかった。

居眠り運転のような無責任な政府の対応のため、中国の措置から１カ月後、尿素水配給制の状況が発生した。新型コロナ事態の中で慌ててマスク配給制が施行され、防疫を自画自賛してワクチン確保が遅れ、それだけ国民の苦痛が長くなったのと同じだ。

国民が望む次期大統領は超能力を持つメシアではない。基本的な道徳性と統治力量を備え、国家の安全と国民の幸福を守っていける信頼できる人物だ。何よりも執権後に居眠り運転をするように油断して大事故を起こす不安な候補なら、事前にカットしておきたいというのが最近の有権者の本音だろう。

チャン・セジョン／論説委員