数年前までは1000万人の観客が劇場に詰めかけ、映画シーズンと言われていた秋夕(チュソク、中秋)。今年の秋夕の勝者はなんといってもNetflix(ネットフリックス)のドラマ『イカゲーム』だった。映画『モガディシュ』が350万人を動員してコロナ禍で久しぶりに善戦を見せていたが、韓国ドラマとして初めてNetflix全世界1位にランクインした『イカゲーム』とは比べ物にならなかった。OTTチャートである「FlixPatrol」によると、『イカゲーム』は28日現在、ドラマが配信されている83カ国のうち76カ国で1位となっている。米国・英国・フランス・ドイツ・日本などでヒットを飛ばした。ワールドランキング点数は830点満点中822点でこちらも今年1位だ。今年に入って800点を超えたドラマは『ペーパー・ハウス』(スペイン)、『セックス・エデュケーション』(英国)の2本だった。
『イカゲーム』は人生の奈落の底に落ちた人々が巨額の賞金を獲得するために命をかけて生存ゲームを繰り広げる。デスゲームジャンルに、物神主義と極端的な生存競争という社会的メッセージ、特有の新派コード、「ムクゲの花が咲きました」(「だるまさんが転んだ」に似た遊び)などの伝統的遊び文化を組み合わせている。国内よりも海外の好評のほうが多い。海外ファンの間で「タルゴナ(カルメ焼き)作り」SNSチャレンジが起こり、米国10代にはYouTubeより人気だというゲームサイト「ROBLOX(ロブロックス)」には「ムクゲの花が咲きました」など『イカゲーム』関連の遊びゲームが相次いで取り入れられている。グローバルオンラインショッピングモール「eBay」にはタルゴナセットや洋銀(ヤンウン)弁当(昔のアルミ弁当箱のようなもの)、ジャージ(運動服)など非公式グッズまで登場した。
『イカゲーム』は「Netflixニューノーマル」時代の産物でもある。Netflixは今年、韓国コンテンツ製作に5500億ウォン(約517億円)の投資を約束し、全9話『イカゲーム』の製作費は200億ウォンにのぼる。全16話の国内最高製作費150億~200億ウォンをはるかに上回る。OTT特性上、素材に対する制限がなく、Netflixの武器である「創作の自由保障」も功を奏した。軍隊文化を鋭く暴いた『D.P.-脱走兵追跡官-』をはじめ『人間レッスン』『キングダム』『Sweet Home -俺と世界の絶望-』『保健教師アン・ウニョン』など、これまで韓国ドラマにはなかった秀作が次々と登場している背景だ。
事実、韓国ドラマはK-POPの先を行く韓流の主役だった。2000年代中盤『冬のソナタ』を筆頭にロマンチックな幻想のパッケージ商品ともいえる美男ロマンス物が、高いジェンダー感受性で伝統的ロマンス物が消えた西欧市場の空白を食い込んだ。今や韓国ドラマが得意のロマンス以外にジャンル物の強者であることを世界に立証しているところだが、そのパートナーがNetflixである点は奇妙な感情を呼び起こす。
ここ数日間、BTSは国連の舞台に立ち、世界的なバンド「コールドプレイ」とコラボレーションした新曲で再び旋風を巻き起こした。BTSのビルボード記録更新はこれ以上ニュースにはならないほどだ。映画『パラサイト 半地下の家族』と『ミナリ』も記憶に新しい。先日、米国NBCの人気オーディション『アメリカズ・ゴット・タレント(America's Got Talent)』に出演した韓国ボーカルチーム「コリアン・ソウル」に対して、ある審査委員は「このように才能ある人々が次々と出てくるが、韓国文化にはどんな秘訣があるのか」と聞いた。いくら国ポン(盲目的な愛国主義)を自制したとしても、Kカルチャーが世界文化の中心に立ったという自負心をあえて否定する必要はないようだ。
今年5月、日本経済新聞は「韓国エンタメなぜ強い」と題する記事を通じて「批判できる文化」「政権や財閥の腐敗、競争社会の否定的な面を表現してきた点」「エンタメ市場によく合った企業文化」「ファンが大衆文化の主体として参加する風土」などを理由として挙げた。当時、ある専門家はこの記事を引用して1990年代の検閲撤廃に言及したが、共感する。文化人の至難の戦いで創作の自由が開かれ、おりしも大企業とエリート人材が文化産業に参入して90年代の文化の時代が完成された。2000年代は韓流の土台だ。
来月は1996年映画・音盤事前審議に対する憲法裁判所の違憲決定で検閲が廃止されてちょうど25周年になる。「最大支援・最小干渉」が常に文化繁栄を後押しする第一法則であることを改めて確認させる。類例がない「言論懲罰法」への未練を捨てられず、「歴史」に対する他の声を許さず、表現の自由に簡単にブレーキをかけようとするこの政府に聞かせたい話だ。
ヤン・ソンヒ/中央日報コラムニスト
『イカゲーム』は人生の奈落の底に落ちた人々が巨額の賞金を獲得するために命をかけて生存ゲームを繰り広げる。デスゲームジャンルに、物神主義と極端的な生存競争という社会的メッセージ、特有の新派コード、「ムクゲの花が咲きました」(「だるまさんが転んだ」に似た遊び)などの伝統的遊び文化を組み合わせている。国内よりも海外の好評のほうが多い。海外ファンの間で「タルゴナ(カルメ焼き)作り」SNSチャレンジが起こり、米国10代にはYouTubeより人気だというゲームサイト「ROBLOX(ロブロックス)」には「ムクゲの花が咲きました」など『イカゲーム』関連の遊びゲームが相次いで取り入れられている。グローバルオンラインショッピングモール「eBay」にはタルゴナセットや洋銀(ヤンウン)弁当(昔のアルミ弁当箱のようなもの)、ジャージ(運動服)など非公式グッズまで登場した。
『イカゲーム』は「Netflixニューノーマル」時代の産物でもある。Netflixは今年、韓国コンテンツ製作に5500億ウォン(約517億円)の投資を約束し、全9話『イカゲーム』の製作費は200億ウォンにのぼる。全16話の国内最高製作費150億~200億ウォンをはるかに上回る。OTT特性上、素材に対する制限がなく、Netflixの武器である「創作の自由保障」も功を奏した。軍隊文化を鋭く暴いた『D.P.-脱走兵追跡官-』をはじめ『人間レッスン』『キングダム』『Sweet Home -俺と世界の絶望-』『保健教師アン・ウニョン』など、これまで韓国ドラマにはなかった秀作が次々と登場している背景だ。
事実、韓国ドラマはK-POPの先を行く韓流の主役だった。2000年代中盤『冬のソナタ』を筆頭にロマンチックな幻想のパッケージ商品ともいえる美男ロマンス物が、高いジェンダー感受性で伝統的ロマンス物が消えた西欧市場の空白を食い込んだ。今や韓国ドラマが得意のロマンス以外にジャンル物の強者であることを世界に立証しているところだが、そのパートナーがNetflixである点は奇妙な感情を呼び起こす。
ここ数日間、BTSは国連の舞台に立ち、世界的なバンド「コールドプレイ」とコラボレーションした新曲で再び旋風を巻き起こした。BTSのビルボード記録更新はこれ以上ニュースにはならないほどだ。映画『パラサイト 半地下の家族』と『ミナリ』も記憶に新しい。先日、米国NBCの人気オーディション『アメリカズ・ゴット・タレント(America's Got Talent)』に出演した韓国ボーカルチーム「コリアン・ソウル」に対して、ある審査委員は「このように才能ある人々が次々と出てくるが、韓国文化にはどんな秘訣があるのか」と聞いた。いくら国ポン(盲目的な愛国主義)を自制したとしても、Kカルチャーが世界文化の中心に立ったという自負心をあえて否定する必要はないようだ。
今年5月、日本経済新聞は「韓国エンタメなぜ強い」と題する記事を通じて「批判できる文化」「政権や財閥の腐敗、競争社会の否定的な面を表現してきた点」「エンタメ市場によく合った企業文化」「ファンが大衆文化の主体として参加する風土」などを理由として挙げた。当時、ある専門家はこの記事を引用して1990年代の検閲撤廃に言及したが、共感する。文化人の至難の戦いで創作の自由が開かれ、おりしも大企業とエリート人材が文化産業に参入して90年代の文化の時代が完成された。2000年代は韓流の土台だ。
来月は1996年映画・音盤事前審議に対する憲法裁判所の違憲決定で検閲が廃止されてちょうど25周年になる。「最大支援・最小干渉」が常に文化繁栄を後押しする第一法則であることを改めて確認させる。類例がない「言論懲罰法」への未練を捨てられず、「歴史」に対する他の声を許さず、表現の自由に簡単にブレーキをかけようとするこの政府に聞かせたい話だ。
ヤン・ソンヒ/中央日報コラムニスト
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