昨年１２月にバーレーンで開催されたフォーミュラワン（Ｆ１）サクヒールグランプリ（ＧＰ）に太極旗（テグッキ、韓国の国旗）が登場した。韓国人だけでなく韓国系も皆無だったＦ１に初めて出場したジャック・エイトケン（２６、韓国名ハン・セヨン）のおかげだ。韓国系英国人のエイトケンは腰に太極旗と英国の国旗が入ったレーシングスーツを着て、時速２００キロ以上の速度で疾走した。彼のＦ１デビューの場が太極旗にも最初の舞台となったのだ。

韓国人の母とスコットランド人の父の間に英国で生まれたエイトケンは、レースのたびに自身のアイデンティティを積極的に表した。太極旗や韓国名「ハン・セヨン」の文字が入ったレーシングスーツとヘルメットを着用している。エイトケンは最近２回にわたる中央日報とコリア中央デイリーのインタビューで、「幼い頃は年に１、２回ほど必ず韓国に行っていたし、韓国語も勉強した」と話した。

エイトケンがレーサーの道に入ったきっかけは７歳の誕生日だった。モータースポーツの歴史が長いスコットランド出身の父は誕生日のプレゼントにカートレースを教えた。カートは年齢の障壁が低く、自動車を運転できない少年にはレーシング入門コースと見なされている。エイトケンが興味を示すと、父はテストで良い成績を出せばまた連れて行くと約束した。５、６歳当時からＦ１レースを楽しむほど自動車が好きだった少年が勉強に没頭した理由だった。


翌年から本格的にレーシングの練習をしたが、当時はまだ専門的なレーサーになる考えはなかった。しかし１２歳になる頃、欧州の各種大会に参加した各チームがエイトケンについて知り始め、いくつかの大会に招待された。レーシングを趣味でなく潜在的な職業として考え始めた時期だった。学業を手放してはいけないと考えた親は「平日の学校生活をきちんとしてこそ週末にレースに出場できる」という条件を付けた。エイトケンは「他のレーサーと比べるとかなり遅い年齢の１８歳まで学校に通った」とし「レースがやりたかったのでテストも頑張るしかなかった」と振り返った。

レーシングの実力はレーシングカーほど速く向上した。２０１６年と１７にはＧＰ３シリーズに出場し、１８年にはＦ２に進出した。そして昨年、Ｆ１名門チームのウィリアムズに合流し、リザーブ（予備）ドライバーとなった。普通１チームあたり２人のドライバーがいて、うち１人が負傷などで出場できなくなればレースに投入されるメンバーだ。

チャンスは突然訪れた。メルセデス所属のルイス・ハミルトンが新型コロナで出場できなくなり、ウィリアムズのジョージ・ラッセルがハミルトンの代役を務めることになった。ラッセルの位置はエイトケンに与えられた。３年連続Ｆ２チャンピオンシップで活躍した経験とＦ１予備ドライバーとして準備した時間が評価された。

デビュー戦でエイトケンは２０人のドライバーのうち１６位だった。自分の期待に及ばない成績だった。コーナーで車体の前の部位が破損する事故が発生したからだ。途中で棄権するレーサーもいるが、エイトケンは完走した。エイトケンは「ミスをした自分に失望したが、振り返ると誇りに思うことも少なくない」とし「速度もかなり出たし、Ｆ１を経験したこと自体が楽しかった」と語った。

Ｆ１に出場した後、エイトケンは韓国でも人気が高まっている。特に若いレーサー志望者のロールモデルになったという点に喜んでいる。エイトケンは「バーレーンでのレースの後、多くの韓国の若者から助言を求められるようになった」とし「両国の国旗をレーシングスーツに付けて出場したことを誇りに思う」と話した。韓国料理が好きで、普段も家族と一緒によく食べるというエイトケンが選んだソウルフードの一つはクッパだ。