大学の友人Kはおとなしかった。反政府デモがある日も図書館で読書に取り組んだ。行政考試に何度も落第したが就職は特に問題なかった。1980年代後半はドル安、低金利、原油安の3低による好況で働き口はあふれていた。試験も受けずに企業を選んで行けた時期だった。
Kは屈指の大企業に入った。友人と会えばいつも会社の自慢をした。競争が激しかったのか2008年に部長を最後に会社を辞めた。小さな企業に入りすぐまた別の会社に移ったという知らせが最後だった。連絡が途切れて5年ぶりに彼に会った。
「新都市でクッパ屋をしている。飲食店を何度か失敗して借金が少しあるが、それなりにやっていける。自分と妻の人件費は出せる。息子は安山にある小さなベンチャー企業に就職した。正社員なのに普通の企業の非正規職より月給が少ない。悩みが多いよ。(中略)大企業から出てみたら完全に違う世の中だ。大変だった。政治家、公務員、教授は世間知らずに騒ぐもの。あなたのような記者も同じだ。企業が生きてこそ雇用ができ、国も富強になると信じていたのに…。正直なところいまは私となんの関係があるのかわからない。大企業がうまく行けばその会社の社員だけ良いのではないか」。
波風を体験したせいなのかKは冷笑的だった。なにも言えなかった。複雑だった。彼だけの問題でない。リタイアの隊列に入る720万人のベビーブーマー(1955~63年生まれ)がKの前轍を踏んでいたり踏むことになるだろう。第2次ベビーブーマー(68~74年生まれ)600万人がその後に続く。生きていくための競争はますます激しくなる。「鞭も先に打たれる方が良い」と彼らはKより苦労する可能性が大きい。そうなるほど大企業に対するねたみと憎しみが大きくなるだろう。就職に挫折した若者まで加勢すれば反企業感情の土壌は四方に広まっていることになる。
以前は大企業が成長の牽引車と認められた。「国民とともに進む」という感じがあった。いまは変わった。大企業が雇用をたくさん作ることができない。全労働者のうち大企業正規職は10%にとどまる。大企業の成長が中小企業に波及するいわゆる落水効果も大きく減った。格差はますます広がる。大企業正規職の賃金を100とすれば中小企業の正規職は53、非正規職は36だ。
大企業は危機だ。「国家代表企業を育てよう」というスローガンはあまり受け入れられない。「国家代表企業が私と何の関係がある」という冷笑がある。李明博(イ・ミョンバク)政権は民心のこうした変化を読めず執権中は苦戦し続けた。実用を重視し、企業親和を叫んだが国民は冷ややかだった。執権中盤期にあたふたと同伴成長を持ち出したが民心を取り戻すことはできなかった。
これを見守った朴槿恵(パク・クネ)候補陣営は2012年の大統領選挙当時に経済民主化公約を持ち出した。一気に国民の味方というイメージを与えた。得票につながった。2017年の大統領選挙では与野党を問わず企業に対する圧迫を増やすことは間違いない。「経済は中道」が流行のように広がる可能性がある。与党セヌリ党のユ・スンミン院内代表が最近「持てる者、大企業の側ではなく、苦痛を受ける庶民と中産層の側に立つ」と話したのも同じ脈絡だ。
当事者である大企業は危機を感じられないようだ。主張する論理は旧態依然だ。「企業があってこそ労働者もある」「起業しやすい環境を作ってこそ雇用ができる」「反企業感情のために企業が海外に抜けていく」…。もっともな言葉だが、疎外された国民の心はつかみにくい。既得権を強固に守ろうとしているという印象を与える。
さらに法律違反行為をしておきながら、対外信用度が下落して海外受注が減少するという主張をする所もある。事態解決に役立たない論理だ。京南企業のような政経癒着が国民をみじめにするのは言うまでもなく。いまも熱心にクッパを運ぶKは「成完鍾(ソン・ワンジョン)波紋」を見て何を思うだろうか。
全国経済人連合会関係者は、「企業は熱心にするが、国民の誤解が多い。政府と政治家は人気に迎合した反企業政策を使う。国民向け広報と経済教育を強化しなければならない」と話す。こうした形では反企業感情を和らげることはできない。大企業の利益を代弁するような団体や学者はいっそ静かにしている方が良い。世の中は大きく変わった。
コ・ヒョンゴン編集局長代理
Kは屈指の大企業に入った。友人と会えばいつも会社の自慢をした。競争が激しかったのか2008年に部長を最後に会社を辞めた。小さな企業に入りすぐまた別の会社に移ったという知らせが最後だった。連絡が途切れて5年ぶりに彼に会った。
「新都市でクッパ屋をしている。飲食店を何度か失敗して借金が少しあるが、それなりにやっていける。自分と妻の人件費は出せる。息子は安山にある小さなベンチャー企業に就職した。正社員なのに普通の企業の非正規職より月給が少ない。悩みが多いよ。(中略)大企業から出てみたら完全に違う世の中だ。大変だった。政治家、公務員、教授は世間知らずに騒ぐもの。あなたのような記者も同じだ。企業が生きてこそ雇用ができ、国も富強になると信じていたのに…。正直なところいまは私となんの関係があるのかわからない。大企業がうまく行けばその会社の社員だけ良いのではないか」。
波風を体験したせいなのかKは冷笑的だった。なにも言えなかった。複雑だった。彼だけの問題でない。リタイアの隊列に入る720万人のベビーブーマー(1955~63年生まれ)がKの前轍を踏んでいたり踏むことになるだろう。第2次ベビーブーマー(68~74年生まれ)600万人がその後に続く。生きていくための競争はますます激しくなる。「鞭も先に打たれる方が良い」と彼らはKより苦労する可能性が大きい。そうなるほど大企業に対するねたみと憎しみが大きくなるだろう。就職に挫折した若者まで加勢すれば反企業感情の土壌は四方に広まっていることになる。
以前は大企業が成長の牽引車と認められた。「国民とともに進む」という感じがあった。いまは変わった。大企業が雇用をたくさん作ることができない。全労働者のうち大企業正規職は10%にとどまる。大企業の成長が中小企業に波及するいわゆる落水効果も大きく減った。格差はますます広がる。大企業正規職の賃金を100とすれば中小企業の正規職は53、非正規職は36だ。
大企業は危機だ。「国家代表企業を育てよう」というスローガンはあまり受け入れられない。「国家代表企業が私と何の関係がある」という冷笑がある。李明博(イ・ミョンバク)政権は民心のこうした変化を読めず執権中は苦戦し続けた。実用を重視し、企業親和を叫んだが国民は冷ややかだった。執権中盤期にあたふたと同伴成長を持ち出したが民心を取り戻すことはできなかった。
これを見守った朴槿恵(パク・クネ)候補陣営は2012年の大統領選挙当時に経済民主化公約を持ち出した。一気に国民の味方というイメージを与えた。得票につながった。2017年の大統領選挙では与野党を問わず企業に対する圧迫を増やすことは間違いない。「経済は中道」が流行のように広がる可能性がある。与党セヌリ党のユ・スンミン院内代表が最近「持てる者、大企業の側ではなく、苦痛を受ける庶民と中産層の側に立つ」と話したのも同じ脈絡だ。
当事者である大企業は危機を感じられないようだ。主張する論理は旧態依然だ。「企業があってこそ労働者もある」「起業しやすい環境を作ってこそ雇用ができる」「反企業感情のために企業が海外に抜けていく」…。もっともな言葉だが、疎外された国民の心はつかみにくい。既得権を強固に守ろうとしているという印象を与える。
さらに法律違反行為をしておきながら、対外信用度が下落して海外受注が減少するという主張をする所もある。事態解決に役立たない論理だ。京南企業のような政経癒着が国民をみじめにするのは言うまでもなく。いまも熱心にクッパを運ぶKは「成完鍾(ソン・ワンジョン)波紋」を見て何を思うだろうか。
全国経済人連合会関係者は、「企業は熱心にするが、国民の誤解が多い。政府と政治家は人気に迎合した反企業政策を使う。国民向け広報と経済教育を強化しなければならない」と話す。こうした形では反企業感情を和らげることはできない。大企業の利益を代弁するような団体や学者はいっそ静かにしている方が良い。世の中は大きく変わった。
コ・ヒョンゴン編集局長代理
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