大学卒業後しばらく身を置いた広告会社の上司は、乙の“神”のような方である。広告主のどんな無理な要求にも楽しく柔軟に対処してやり遂げる姿に感服した新入社員に、彼はある日1枚のメモを渡した。“乙としての生き方”。詳しい内容は記憶から消えたが、忘れられない一節がある。「業務上、乙として生きていく自分と『本当の私』を混同しないこと」。
皆は甲を望むというが、時には乙として生きるのが気楽な人もいる。日本の作家・松山花子の漫画『やさしくしないで』(アニメブックス)の主人公・優一がそうだ。彼は持って生まれた気の弱さと優しさで、誰にでも親切をほどこす天使のような人間だ。もしや自分のせいで相手の心が痛むのではないかと悩んでまた悩む。ところで彼の行き過ぎた配慮は、不本意にも相手方に妙な“終わり”を残す。
業務での仕事が下手で叱られる後輩をかばおうとし、彼は後輩の代わりに皆に抗弁する。「モリが一生懸命やっているのは見れば分かるでしょう!意欲はあるけど能力が伴わないだけなの!」。プロジェクトの成功を職員の努力とチームワークの功績だという社長には丁寧に答える。「そんなはずはありません。私どもの原案は、跡かたもないんですから、何をおっしゃいます」。このような形だ。
韓国版単行本にはこのような解説がついた。「優一、彼が振りまくのは親切なのか迷惑なのか?」。優一はいつも乙の立場で皆に接しようとするが、結果的に彼の行動は度々“甲”的になってしまうわけだ。私たちの周囲にも1人ぐらいはいそうな、“限りなく優しいが、なぜか迷惑”なキャラを主人公にして小さなエピソードをつむいでいる作家のセンスに驚くばかりだ。漫画家・松山は男同士の愛を描いた“BL(Boy’s Love)もの”で有名な作家なのだが、これまでの作品で軽く見せてきたきついギャグ感覚を、この作品でしっかり展開してみせている。
乙としての生き方は多様だ。ドラマ『職場の神』のミス・キムのように実力で武装し堂々とした乙になるなら最高だろう。それができないならば過去の上司の助言のように“仕事場での私”と“私の人生の永遠の甲である私”を区別するバランス感覚を備える必要がある。だが2つとも容易ではない時、私たちの“迷惑男”優一君からヒントを得てみるのはどうだろうか。プロジェクトの失敗の責任を負って会社を離れようとする部長に、彼は走って行って哀願する。「部長!辞められるなんてとんでもないですよ。1人で会社を動かしてきたと考えられるならばそれは思い違いです!」。聞いている甲に「なぜか頭にくるが反論しにくいんだけど?」という感じを持たせるならば、そして「私にどうかやさしくしないで!」という反応を引き出せるならば、成功だ。
イ・ヨンヒ文化スポーツ部門記者
皆は甲を望むというが、時には乙として生きるのが気楽な人もいる。日本の作家・松山花子の漫画『やさしくしないで』(アニメブックス)の主人公・優一がそうだ。彼は持って生まれた気の弱さと優しさで、誰にでも親切をほどこす天使のような人間だ。もしや自分のせいで相手の心が痛むのではないかと悩んでまた悩む。ところで彼の行き過ぎた配慮は、不本意にも相手方に妙な“終わり”を残す。
業務での仕事が下手で叱られる後輩をかばおうとし、彼は後輩の代わりに皆に抗弁する。「モリが一生懸命やっているのは見れば分かるでしょう!意欲はあるけど能力が伴わないだけなの!」。プロジェクトの成功を職員の努力とチームワークの功績だという社長には丁寧に答える。「そんなはずはありません。私どもの原案は、跡かたもないんですから、何をおっしゃいます」。このような形だ。
韓国版単行本にはこのような解説がついた。「優一、彼が振りまくのは親切なのか迷惑なのか?」。優一はいつも乙の立場で皆に接しようとするが、結果的に彼の行動は度々“甲”的になってしまうわけだ。私たちの周囲にも1人ぐらいはいそうな、“限りなく優しいが、なぜか迷惑”なキャラを主人公にして小さなエピソードをつむいでいる作家のセンスに驚くばかりだ。漫画家・松山は男同士の愛を描いた“BL(Boy’s Love)もの”で有名な作家なのだが、これまでの作品で軽く見せてきたきついギャグ感覚を、この作品でしっかり展開してみせている。
乙としての生き方は多様だ。ドラマ『職場の神』のミス・キムのように実力で武装し堂々とした乙になるなら最高だろう。それができないならば過去の上司の助言のように“仕事場での私”と“私の人生の永遠の甲である私”を区別するバランス感覚を備える必要がある。だが2つとも容易ではない時、私たちの“迷惑男”優一君からヒントを得てみるのはどうだろうか。プロジェクトの失敗の責任を負って会社を離れようとする部長に、彼は走って行って哀願する。「部長!辞められるなんてとんでもないですよ。1人で会社を動かしてきたと考えられるならばそれは思い違いです!」。聞いている甲に「なぜか頭にくるが反論しにくいんだけど?」という感じを持たせるならば、そして「私にどうかやさしくしないで!」という反応を引き出せるならば、成功だ。
イ・ヨンヒ文化スポーツ部門記者
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