中国は、戦後の国際経済体制を中国仕様へと変革することに関心を持ち始めている。富はパワーを求める。中国に限ってこの地政学的公理の例外であれと望むのは非現実的である。中国はその際、東南アジアを従える経済垂直統合――かつての朝貢貿易体制を彷彿とさせるような――を志向する可能性がある。そうした方向ではなく、中国もアジア太平洋の自由で開放的な通商ルールづくりに参画させ、パートナーとするのがこの地域の平和と安定にとって好ましい。そうした中国こそが日本の国益に適う。
気がかりなのは、このところ急速に肥大化し、増長している中国の国営企業である。WTO(世界貿易機構)のドーハラウンドが失速したのも、中国(とインド及びロシア)の国営企業が欧米の多国籍企業と裏で従来の貿易ルールとは異なる取り決めをし、ガット原則を虫食い状態にしてしまったことが指摘されている。(マッキンゼー報告書『次ぎに何が起こるのか 次代をつくる5つの革新の決定要素』、2010年)
いまの中国には、かつて江沢民・朱鎔基コンビが、中国の改革・開放を推し進めるため、中国をWTOに加盟させ、それを“外圧”として使ったようなダイナミックな戦略論は影を潜めている。
中国をTPPに組み込むことは、中国を再び、改革・開放に向かわせる機会でもある。
しかし、その前に、日本がTPP交渉に参加し、米国とともにそれを推進しなければならない。
ウルグアイアラウンドを最後に日本は長い間、本格的な貿易自由化交渉から遠ざかってしまった。その間に、韓国はEU(欧州連合)と米国とのFTA(自由貿易協定)を結び、経済を世界化させている。東レのようなグローバル企業は、欧州市場へのアクセスを確保するため韓国に生産拠点を移転しはじめている。日本の通商戦略にとって、グローバル・コリアは中国とともにこれまで以上に大きなファクターとなっていくだろう。日本は、TPPに参画するとともに、日中韓をはじめ東アジアの経済連携地域を築いていく必要がある。この2つを排他的ではなく相乗的に進めていくことが大切である。
農業自由化に賛成する産業界とそれに反対する農業団体の対立といった従来の図式だけでTPPを捉えるべきではない。ここからは、ネットで結ばれる供給者と消費者の新たな関係――楽天やオイシックス――や、グローバルに広がる「新世界」との日本のサービス産業――KUMONのような教育サービス企業――といった新たなきずなやフロンティアはすっぽり抜けてしまう。
TPPを国内の経済と社会の改革と開放の“外圧”として使うべきは、むしろ日本なのである。
日本の再生にとって不可欠なグローバル人材を育て、鍛え、機会を与えるために、TPPをバネとした改革、開放を進めなければならない。
日本企業の再建にとって不可欠なグローバル経営力を高めるために、TPPによる人材と知識産業の自由化を進めなければならない。
TPPの最大の効用は、モノとカネとサービスの自由化よりむしろ頭脳と知識とネットワークの自由化にある。
そしてそれこそが、21世紀のパワーの源泉なのである。
TPP立国論のススメである。
船橋洋一(日本再建イニシアティブ理事長)
【コラム】TPPは21世紀のブレトンウッズ体制(1)
気がかりなのは、このところ急速に肥大化し、増長している中国の国営企業である。WTO(世界貿易機構)のドーハラウンドが失速したのも、中国(とインド及びロシア)の国営企業が欧米の多国籍企業と裏で従来の貿易ルールとは異なる取り決めをし、ガット原則を虫食い状態にしてしまったことが指摘されている。(マッキンゼー報告書『次ぎに何が起こるのか 次代をつくる5つの革新の決定要素』、2010年)
いまの中国には、かつて江沢民・朱鎔基コンビが、中国の改革・開放を推し進めるため、中国をWTOに加盟させ、それを“外圧”として使ったようなダイナミックな戦略論は影を潜めている。
中国をTPPに組み込むことは、中国を再び、改革・開放に向かわせる機会でもある。
しかし、その前に、日本がTPP交渉に参加し、米国とともにそれを推進しなければならない。
ウルグアイアラウンドを最後に日本は長い間、本格的な貿易自由化交渉から遠ざかってしまった。その間に、韓国はEU(欧州連合)と米国とのFTA(自由貿易協定)を結び、経済を世界化させている。東レのようなグローバル企業は、欧州市場へのアクセスを確保するため韓国に生産拠点を移転しはじめている。日本の通商戦略にとって、グローバル・コリアは中国とともにこれまで以上に大きなファクターとなっていくだろう。日本は、TPPに参画するとともに、日中韓をはじめ東アジアの経済連携地域を築いていく必要がある。この2つを排他的ではなく相乗的に進めていくことが大切である。
農業自由化に賛成する産業界とそれに反対する農業団体の対立といった従来の図式だけでTPPを捉えるべきではない。ここからは、ネットで結ばれる供給者と消費者の新たな関係――楽天やオイシックス――や、グローバルに広がる「新世界」との日本のサービス産業――KUMONのような教育サービス企業――といった新たなきずなやフロンティアはすっぽり抜けてしまう。
TPPを国内の経済と社会の改革と開放の“外圧”として使うべきは、むしろ日本なのである。
日本の再生にとって不可欠なグローバル人材を育て、鍛え、機会を与えるために、TPPをバネとした改革、開放を進めなければならない。
日本企業の再建にとって不可欠なグローバル経営力を高めるために、TPPによる人材と知識産業の自由化を進めなければならない。
TPPの最大の効用は、モノとカネとサービスの自由化よりむしろ頭脳と知識とネットワークの自由化にある。
そしてそれこそが、21世紀のパワーの源泉なのである。
TPP立国論のススメである。
船橋洋一(日本再建イニシアティブ理事長)
【コラム】TPPは21世紀のブレトンウッズ体制(1)
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