安倍晋三元首相銃撃のニュースに接した時、「2015年韓日慰安婦合意」が思い浮かんだ。1991年8月11日に朝日新聞が慰安婦問題を初めて提起して以降、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)など韓国の慰安婦活動家が粘り強く要求してきた日本の国家責任を安倍首相時代に日本が受け入れたからだ。それ以前まで日本は1965年の韓日請求権協定でこの問題がすでに終結したと主張していた。
当時、安倍首相は中国の戦略的脅威を予想し、韓国と日本を中心に大きな枠組みの安全保障協力体を構想した。慰安婦問題などが作用して朴槿恵(パク・クネ)大統領の韓国政府を説得できない中、日本は韓国の代わりにインドを引き込んで結局、2017年にクアッド(日米豪印)を結成した。
朴槿恵政権の強い圧力のおかげで2015年末に劇的に実現した韓日慰安婦合意は、両国が過去を拭って未来へ向かうために作った成果だった。しかし弾劾で政権が交代すると、文在寅(ムン・ジェイン)政権の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は日本政府が拠出した10億円を韓国政府の予算で充当すると宣言した。女性家族部は2015年の韓日慰安婦合意の執行機構である「和解・癒やし財団」を突然解散した。
ところが2021年1月の新年記者会見で文在寅大統領は突然「2015年の韓日慰安婦合意は両国政府の公式合意」と公表した。数日後、姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使は日本に赴任し、「和解・癒やし財団」解散は理事長と理事の辞任のためだと責任を転嫁した。
韓日間の葛藤をさらに深めたのは徴用賠償判決だった。2012年5月に大法院(最高裁)は、1965年の韓日請求権協定が「植民地支配の不法性」を指摘しなかったため、徴用勤労者の日本企業に対する請求権は生きているとし、徴用被害者の主張を認めた。当時の金能煥(キム・ヌンファン)大法院裁判官は「建国する心情で」という政治的修辞を使って論議を呼んだ。
三菱と新日本製鉄は大法院に再上告し、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)に提訴するとして抗議した。梁承泰(ヤン・スンテ)大法院長が率いた大法院は一歩遅れて深刻性を悟り、新たな争点でまた破棄差し戻しする余地までも検討し、解決策に没頭した。
ところが再上告判決が遅れた点を後に文在寅政権は「司法壟断」というフレームをかけて問題にした。文政権に入って金命洙(キム・ミョンス)大法院長体制で2018年10月、大法院全員合議体が再上告事件を棄却して韓日関係は「ジェットコースター」に乗った。
2005年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の「韓日会談文書公開対策官民委員会」は、慰安婦の争点が1965年の韓日請求権協定の「範囲外」と主張した。しかし1965年の会談で韓国側代表が旧日本軍慰安婦の請求権に言及した事実が日本側の会議録に残っている。
徴用勤労者の請求権は請求権協定に明確に含まれたが、文前大統領は三権分立を前に出して大法院の徴用賠償判決を擁護した。しかし三権分立という憲法の原理が国際条約を違反した国内判決を正当化する根拠にはならない。「条約法に関するウィーン条約」の序文には、加盟国が各国の憲法を理由に国家間の約束を破ってはならないと明示している。
日本の敗戦後、連合軍最高司令部(GHQ)は韓国にある日本資産22億8000万ドルを没収し、そのまま大韓民国政府に移譲した。1965年の韓日請求権協定で日本は無償3億ドル、長期低利借款2億ドルを10年間に分けて韓国に提供した。植民地支配がなかったとすれば与える理由がない資金だったうえ、請求権資金は10年間の韓国経済成長に寄与した。
なら尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の選択は簡明だ。「和解・癒やし財団」を復旧し、当初予定していた財団事業を継続しなければいけない。韓国政府が徴用被害者に先に賠償し、その次にポスコなど関連企業から補填を受けるのが現実的な解決法だ。日本企業を引き込もうとすれば問題を解決するどころが、葛藤が深まるしかない。
在韓日本大使館前の慰安婦少女像もウィーン条約を遵守するレベルで移転を前向きに検討するのがよい。日帝の韓半島(朝鮮半島)侵奪の中心地だったソウル南山(ナムサン)統監府の場所に慰安婦少女像を移転するのが適切な代案に挙げられる。
洪承祺(ホン・スンギ)/仁荷大法学専門大学院教授
◇外部執筆者のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。
当時、安倍首相は中国の戦略的脅威を予想し、韓国と日本を中心に大きな枠組みの安全保障協力体を構想した。慰安婦問題などが作用して朴槿恵(パク・クネ)大統領の韓国政府を説得できない中、日本は韓国の代わりにインドを引き込んで結局、2017年にクアッド(日米豪印)を結成した。
朴槿恵政権の強い圧力のおかげで2015年末に劇的に実現した韓日慰安婦合意は、両国が過去を拭って未来へ向かうために作った成果だった。しかし弾劾で政権が交代すると、文在寅(ムン・ジェイン)政権の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は日本政府が拠出した10億円を韓国政府の予算で充当すると宣言した。女性家族部は2015年の韓日慰安婦合意の執行機構である「和解・癒やし財団」を突然解散した。
ところが2021年1月の新年記者会見で文在寅大統領は突然「2015年の韓日慰安婦合意は両国政府の公式合意」と公表した。数日後、姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使は日本に赴任し、「和解・癒やし財団」解散は理事長と理事の辞任のためだと責任を転嫁した。
韓日間の葛藤をさらに深めたのは徴用賠償判決だった。2012年5月に大法院(最高裁)は、1965年の韓日請求権協定が「植民地支配の不法性」を指摘しなかったため、徴用勤労者の日本企業に対する請求権は生きているとし、徴用被害者の主張を認めた。当時の金能煥(キム・ヌンファン)大法院裁判官は「建国する心情で」という政治的修辞を使って論議を呼んだ。
三菱と新日本製鉄は大法院に再上告し、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)に提訴するとして抗議した。梁承泰(ヤン・スンテ)大法院長が率いた大法院は一歩遅れて深刻性を悟り、新たな争点でまた破棄差し戻しする余地までも検討し、解決策に没頭した。
ところが再上告判決が遅れた点を後に文在寅政権は「司法壟断」というフレームをかけて問題にした。文政権に入って金命洙(キム・ミョンス)大法院長体制で2018年10月、大法院全員合議体が再上告事件を棄却して韓日関係は「ジェットコースター」に乗った。
2005年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の「韓日会談文書公開対策官民委員会」は、慰安婦の争点が1965年の韓日請求権協定の「範囲外」と主張した。しかし1965年の会談で韓国側代表が旧日本軍慰安婦の請求権に言及した事実が日本側の会議録に残っている。
徴用勤労者の請求権は請求権協定に明確に含まれたが、文前大統領は三権分立を前に出して大法院の徴用賠償判決を擁護した。しかし三権分立という憲法の原理が国際条約を違反した国内判決を正当化する根拠にはならない。「条約法に関するウィーン条約」の序文には、加盟国が各国の憲法を理由に国家間の約束を破ってはならないと明示している。
日本の敗戦後、連合軍最高司令部(GHQ)は韓国にある日本資産22億8000万ドルを没収し、そのまま大韓民国政府に移譲した。1965年の韓日請求権協定で日本は無償3億ドル、長期低利借款2億ドルを10年間に分けて韓国に提供した。植民地支配がなかったとすれば与える理由がない資金だったうえ、請求権資金は10年間の韓国経済成長に寄与した。
なら尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の選択は簡明だ。「和解・癒やし財団」を復旧し、当初予定していた財団事業を継続しなければいけない。韓国政府が徴用被害者に先に賠償し、その次にポスコなど関連企業から補填を受けるのが現実的な解決法だ。日本企業を引き込もうとすれば問題を解決するどころが、葛藤が深まるしかない。
在韓日本大使館前の慰安婦少女像もウィーン条約を遵守するレベルで移転を前向きに検討するのがよい。日帝の韓半島(朝鮮半島)侵奪の中心地だったソウル南山(ナムサン)統監府の場所に慰安婦少女像を移転するのが適切な代案に挙げられる。
洪承祺(ホン・スンギ)/仁荷大法学専門大学院教授
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