2月13日(現地時間)、米ホワイトハウスで会談したインドのモディ首相とトランプ大統領 [AFP=聯合ニュース]
米国は最近の関税交渉過程で、市場の開放やロシア産原油の輸入中断などの要求を受け入れなかったインドに中国(30%暫定合意)より高い50%(相互関税25%含む)の関税を課し、インドの敵であるパキスタンとの協力を強化した。これに対しインドは中国・ロシアとの協力強化側に重心を移し始めた。米国のインド太平洋戦略でインド洋の制海権をめぐり中国と競争中のインドが抜ける状況を迎える兆候が表れている。
◆米国の揺れる「戦略的利他主義」
「戦略的利他主義」は、中国が米国の戦略的ライバルに浮上する中、インドの発展を経済・軍事的に支援することが中長期的に米国の国益につながるという考えを基盤とする。インドが繁栄すればするほど米国企業に市場を開き、中国に対する抑止力を強化し、アジア権威主義国家に対する民主主義の拡散効果を及ぼすということだ。こうした原則は民主・共和党政権を問わず確立されてきたし、トランプ大統領の1期目も有効だった。
インドは1947年の独立以降、非同盟政策を堅持してきたが、これは冷戦時代のインド外交の基本原則だった。ソ連の崩壊後、インドはパートナーシップ多角化、特定軍事同盟への参加拒否などを核心とする多国間同盟原則に発展させた。米国と緊密に協力しながらもロシアと関係を維持し、ブラジルや南アフリカのような南半球の国家と連帯する形だ。インドはインド太平洋地域に占める地政学的な重要性を根拠にこうした政策を採択し、実際、米国はこうしたインドの外交政策を容認してきた。
ところがトランプ大統領のホワイトハウス復帰後、こうした原則が根本から揺れている。インドは伝統的に国内の製造業と農業を保護し、貿易収支を管理するために高い関税体系を維持してきた。これに対し米国は関税交渉で持続的な貿易赤字(2024年、約500億ドル)を減らすため、インドに関税率を低めて米国産武器・エネルギーの購買を増やし、農産物市場を開放するよう要求した。両国間の交渉は序盤は順調に進行するようだったが、インドが農産物市場の開放に微温的であり、ウクライナ戦争後に大幅に増えたロシア産原油購買の縮小要求を拒否しながら膠着状態となった。
さらにトランプ大統領は5月、インド・パキスタン軍事衝突に介入して両国間の停戦を仲裁したと発表した。インドは長い間、パキスタンとの紛争に対する外部の仲裁を拒否してきたが、トランプ大統領はインドの立場を無視して停戦要求を受け入れたパキスタンをかばい、7月にはパキスタン石油開発に協力する協定を締結した。
◆「トランプ大統領、伝統的な同盟と友好国に圧力」
トランプ大統領のこうした「急変」の原因について、カーネギー国際平和財団のバイシュナブ研究員は7月、フォーリン・アフェアーズへの寄稿で「1期目とは違ってトランプ大統領と彼の側近は米国が同盟と友好国に不当に利用されたという確固たる信念に基づいて動いている」とし「インドが中国に対抗するうえで有用と考える当局者が不足する」と分析した。
「インドの世界(India’s world)」編集者のジェイコブ氏は8月の寄稿で「トランプ大統領は中国・ロシアと交渉し、伝統的な同盟と友好国に圧力を加え、米国と中国が主導するG2体制の出現を操り上げるのに満足するようだ」とし「そのような世界でインドの地政学的な重要性は急激に低下するしかない」と評価した。続いて「歴代の米国指導者とは違い、トランプ政権は『インドが果たして米国のために何ができるのか』という質問をしている」と付け加えた。
ワシントンの戦略的利他主義が揺らぐ兆候が表れると、混乱に陥ったインドは多国間同盟の枠組みを管理する方向に動き始めた。ロシアとの協力を強化する一方、米国の戦略的競争国である中国との関係改善にも積極的に動いている。中国は当然そのインドの手を握った。
インドと中国は1962年に国境問題で戦争をし、依然として国境を確定できず、3488キロにのぼる実質統制線(LAC)を間に挟んでいる。2020年のヒマラヤ国境地域で両国の軍隊が流血衝突して以降、両国の関係は最悪の局面に入ったが、逆説的にトランプ大統領の関税圧力が両国関係の改善に動力を提供している。
◆モディ首相、今月7年ぶり中国訪問
実際、インドのモディ首相は今月31日に開幕する上海協力機構(SCO)首脳会議に出席するため7年ぶりに中国を訪問する予定だ。訪中期間に習近平国家主席のほか、ロシアのプーチン大統領との会談も予定されている。モディ首相とプーチン大統領は9月3日に開催される第2次世界大戦勝利80周年軍事パレードにも出席する予定だ。
これと関連して18-20日にインドを訪問した中国の王毅外相はモディ首相と会い、5年ぶりの直航機運航再開と貿易および投資拡大に合意した。モディ首相は「今年は両国修交75周年で『アジアの世紀』到来と両国の協力は切り離せない」とし「世界が両国の協力の巨大な潜在力と明るい未来を感じられるようにしなければいけない」と述べたと、中国外務省は伝えた。関税爆弾を浴びせる米国に向けたインドのメッセージを中国が伝えたのだ。
駐印中国大使は21日、あるシンクタンクの行事で「中国はインドに最大50%の関税を課すという米国の脅迫に断固反対する」とし「そのような行為に沈黙したり妥協したりすれば乱暴者(bully)をさらに大胆にさせるだけだ」とインドを支持した。
チャ・セヒョン/論説委員
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