消防士Aさんが遺体で発見された韓国京畿道始興市の高架橋の様子。[写真 ニュース1]
8月20日、梨泰院(イテウォン)雑踏事故の後、うつ病を患い失踪していた消防副士長パクさん(30)が死亡したというニュースが伝えられ、ともに働いていた消防隊員Aさんは深いため息をついて語った。
パク消防副士長は2017年11月、仁川消防本部に救急特別採用で入隊し、2023年からは松島(ソンド)消防署で勤務していた。出勤時には明るく笑顔で挨拶する人柄で、仕事にも真面目で同僚たちからも評判が良かったという。Aさんは「とても陽気で活発な人だったので、(うつ病の)症状があるとは全く気づかなかった。突然の失踪と死亡の知らせに職員全員が衝撃を受けている」と語った。
パク副士長は2022年、弥鄒忽(ミチュホル)消防署に勤務していた当時、梨泰院(イテウォン)事故の現場に出動して深刻な衝撃を受け、心に傷を負った。その後のメディアインタビューでは「本当に現実でなければよかった。信じられない気持ちがずっと続いた。現場で遺体を搬送しながら無力感を感じた。自分が直接救命措置をできなかったこともあって、虚しさを感じた」と語っていた。
同年末、病院でうつ病と診断され、仁川消防本部が実施する「訪問心理相談」のプログラムを通じて8回(2022年に5回、2023〜2025年に各1回ずつ)相談を受け、病院でも4回(2022年11月に3回、12月に1回)にわたって治療を受けていた。弟はSNSで「兄は梨泰院事故の際、現場で指揮を執り、深刻なトラウマを抱えた。消防士になると言ったときに止めるべきだったと後悔している」と書いた。
2023年、消防庁などが全国の消防職員5万2082人を対象に行った「メンタルヘルス調査」によると、43.9%(2万3060人)がPTSD・うつ病・睡眠障害・問題飲酒などのいずれかのリスク群に該当していた。外傷的な事件に年間平均5.9回露出しており、10人に1人(10.7%)は15回以上経験していたという。京畿(キョンギ)119メンタルケアセンターの責任カウンセラーであるパク・ゲスン氏は、「トラウマは早期に治療しなければ複雑性トラウマに移行し、治療が困難になる。消防職員はPTSDなどにさらされやすい環境にあるため、継続的な治療が必要だ」と警告した。
韓国公務員労働組合総連盟は声明を発表し、「消防職員が日々国民の代わりに体験しなければならない心理的衝撃は、決して個人の問題ではない。国家と社会が責任を果たす制度的支援と処遇改善を強く求める」と述べた。
また、「10・29梨泰院事故遺族協議会」と「市民対策会議」も声明を発表し、「今回の悲劇は、事故現場で命を救うために尽力した消防士、警察官を含む全ての救助者が背負った心理的なトラウマを放置し、回復支援を怠った前政権の責任が大きい」と指摘。「今からでも生存被害者、地元の住民、商人、救助者、目撃者を幅広く支援し、心の傷を癒すために政府の積極的な措置が必要だ」と強調した。
一方、パク消防副士長は今月10日午前2時30分ごろ、第2京仁(キョンイン)高速道路の南仁川(ナムインチョン)料金所を出て路肩に車を止め、携帯電話を捨てた後、行方不明になっていた。そして10日後の20日昼12時20分、京畿道始興市錦李洞(シフンシ・クミドン)の高架の下で遺体で発見された。
消防当局は、梨泰院事故、務安(ムアン)チェジュ航空事故などの大規模な災害現場に出動した約3300人の消防士・救急隊員に対して追加の心理相談を実施する予定だ。消防庁は現在、年1回の相談支援を行っているが、今後は心理的支援体制の拡充を検討中だという。消防庁関係者は「専門家の助言を踏まえ、事故の対応に出動した職員に対する支援を強化する方針だ」と述べた。
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