昨年9月、ハンファ・オーシャンの巨済造船所に入港した「ウォリー・シラー」号が整備されている様子。[写真 ハンファ・オーシャン]
ロシアのウクライナ侵攻は不幸なことだが、韓国の防衛産業が跳躍する契機になった。K9自走砲やK2戦車などが欧州に輸出された。コスパが良く、早く納品できる自由陣営国家が韓国しかなかったためだ。製造業の基盤を整えているということがどれほど重要なのか、改めて悟らせてくれる。
しかし、バラ色の未来ばかりあるわけではない。これまで軍縮を行い、生産ラインを減らしてきたドイツが再武装を宣言した。K9自走砲より性能が優れているというPzH2000を作る防衛産業メーカー「ラインメタル」が、業績悪化に苦しんでいるフォルクスワーゲン工場を買収する可能性があるという報道も出ている。フォルクスワーゲンも防衛産業事業を強化するという。欧州が独自の防衛産業の力量を強化すれば、韓国の地位は狭くなりかねない。
チェコ事業の受注でうまくいきそうだった原発の輸出もブレーキがかかった状態だ。障害になった米国ウェスティングハウスとの知識財産権交渉が1月に終わったが、韓国水力原子力は最近オランダ原発受注戦から退いた。ウェスティングハウスとの交渉と無関係ではないという分析が出ている。来月2日、トランプ政権は相互関税を課す国を発表する予定だ。結果次第で韓国経済にも台風が吹き荒れる恐れがある。
平和と繁栄が長引けば、人々はこれを当然のことと考える。これまで韓国は、米国中心の世界秩序で経済発展してきた。しかし、ドナルド・トランプ大統領の登場後、このような環境がもう持続できないということを目撃している。
中国の浮上はさらに脅威的だ。ドイツ1位の自動車メーカー・フォルクスワーゲンも、中国の電気自動車攻勢に揺れるほどだ。電気自動車への転換が遅すぎたし、BYDのような中国の電気自動車メーカーが成長し続け、中国市場でのシェアが落ちたために生じたことだ。昨年3月、ドイツのシュピーゲルが記事を出したが、見出しが「ドイツ自動車産業の実存的危機」だ。
韓国は主力産業の相当数が中国と競争関係にある。ドイツより深刻だ。製造業全体が実存的危機を迎えたと見ることができる。BYDは5分の充電で400キロメートル走ることができる技術を披露した。半導体などを除けば、中国市場で売られている韓国製品は、いまや指折り数えることができるほどだ。米国の牽制の中でも、ディープシークという人工知能(AI)まで開発した中国との競争は、本当に容易ではないだろう。核心製造業は良い働き口とも直結する。韓国は一体どんな戦略で今の製造業基盤を守るのか。
サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長は最近、役員セミナーで「サムスンは生き残るかどうかという生存の問題に直面した。経営陣から徹底的に反省し、「死即生(死ぬ気になって生き残る)」の覚悟で果敢に行動する時」というメッセージを伝えた。韓国1位の企業がこのような状況なら、他の企業も例外ではない。しかし、一部労組の現実認識は大きく異なるようだ。現代(ヒョンデ)製鉄は営業利益が急減したが、労組が現代自動車水準の成果給を要求し、労使の摩擦が続いている。35万台の生産まで物価上昇率水準の賃金引き上げだけに合意して始めた光州(クァンジュ)型雇用事業もストライキが始まり、存廃の岐路に立たされた。労組の無理な要求は共倒れを招きかねない。
政府と政界はどうか。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代は無謀な脱原発を敢行し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は研究・開発(R&D)予算をむやみに削減して大きな混乱を与えた。共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は20日に李在鎔会長に会い、「企業がうまくいってこそ国がうまくいき、サムスンがうまくいってこそ投資家も豊かになる」と述べた。しかし、半導体分野の週52時間例外問題は議論されなかったという。激励の言葉だけでは問題は解決しない。
民主党は株主充実義務を拡大した商法改正案を一方的に通過させた。不法ストライキや損害賠償訴訟を制限する黄色い封筒法と週4日制の導入も推進している。このような法や政策が韓国の製造業に及ぼす影響を綿密に分析して推進しているのかも知れない。韓国企業の核心技術の流出を防ぐことも急がれるが、北朝鮮だけを対象にする現行のスパイ法を改正することも滞っている。政界、企業、労組が同床異夢(同じ立場にありながら、考えや目的が異なる)に陥っているのに、どうして競争力を維持できるだろうか。危機を克服するためには、切迫した現実の認識から共有しなければならない。
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