トランプ氏の二度目の就任式で最も奇異だった場面は宣誓だった。彼は歴代大統領と異なり聖書に手をのせなかった。異例の姿に論争は起こったが、法に明示されているわけではないという理由でうやむやになった。保守プロテスタント教界の大きな支持を受けた彼は、とりわけ親キリスト教的な発言を繰り返していたのは事実だ。トランプ氏は就任式でもどこかの預言者のように確信にみちた声で声高に声を上げた。「われわれは一つの国民、一つの家族、神の下に一つになった光栄な国家です」。そのような彼がどのような理由で聖書に手をのせる手続きは怠ったのか。

就任以降、彼の狂風のような様子を見て、私なりにその理由に対する仮設を立ててみようと思う。トランプ氏はあらゆる行政命令を矢継ぎ早に出して今回の第２期政府の統治原理「烙印押し」であることを明確にした。「神の下に一つの国民」であることを明らかにした彼は、まるでごみの分類するように「不適切な」米国をより分けているところだ。実際、忠誠心と効率性をものさしとして国際開発庁（ＵＳＡＩＤ）をはじめとする連邦公務員が大々的に首を切られているが、この解雇作業が「清掃」と比喩されている。自身に批判的なメディアは「フェイクニュース」の烙印を押してホワイトハウスの出入りを阻止してもいる。

出生と同時に与えられた子女市民権も今はトランプ氏が認証した「法律上米国人」でないなら考えることさえできない。まして不法移民者は言うまでもない。ここにバイデン政府当時にＤＥＩ（多様性・公平性・包容性）プログラムにより職業を持てるようになった者は理由不問、その専門性が疑われることになった。トランプ氏が就任式で「われわれは一つの国民（Ｗｅ　ａｒｅ　ｏｎｅ　ｐｅｏｐｌｅ）」と述べた時の「われわれ」はどう見ても全体米国人を意味するわけではなさそうだ。トランプ氏は特定理念と人種、性的趣向などに基づいて「“精製された”われわれ」を想定し、これに属することができない者に烙印を押して排除する方式で米国を組み立て直しているところだ。この無慈悲な統治方式と彼が話した「神の下に一つになった国家」との乖離感をどのように説明することができるだろうか。


旧約聖書イザヤ書第１１章は「狼は小羊と共に宿り　豹は子山羊と共に伏す」国を「神の国」のシンボルとして描写している。階級や人種、強者や弱者など、いかなる理由であろうとも差別を受けない国。もしかしたら彼は旧約聖書のこの部分が引っかかっていたのだろうか。聖書が提示した統治原理とはあまりにもかけ離れた「トランプの国」を思い出させるから、彼はとても聖書に手をのせることができなかったのではないだろうか。

チョン・ガンヒョン／ワシントン特派員