７８歳で帰還したＣＥＯはまず技術専門家に力を入れた。１００人ほどの投資家が集まった業績発表後に張氏は話した。「みんな４０ナノを懸念しているが、劉徳音副社長は生産ラインで働くのにとても忙しく来られないのでオンラインでつなげます」。画面の中で劉副社長は白い防塵服を着てクリーンルーム前に立ち専門的な技術を説明した。歩留まり正常化には数カ月かかったが、ＣＥＯの正面突破で内外の不安は徐々になくなった。

張氏はまた、前任ＣＥＯの８００人解雇計画を撤回し、「不況３大原則」を実践に移した。１番目に顧客と理解・調整を通じて協力を維持する。２番目に解雇しない。３番目に研究開発資金を増やす。彼は引退した蒋尚義博士を研究開発首席副社長に招き、研究開発予算を会社売り上げの５％から８％に引き上げた。

４０ナノ不良で被害を受けた顧客の中にエヌビディアもあった。張氏はエヌビディアのジェンスン・フアンＣＥＯの米国の自宅を訪ね、家族の食卓でピザで夕食を食べた後に書斎に行き２人だけの交渉を行った。「ＴＳＭＣの補償案を受け入れるか４８時間以内に答えなさい」という最終通告にファンＣＥＯが応じ、１年間にわたった両社の対立は劇的に結末を迎えた。これはファウンドリー企業に拒絶され続けていた草創期のエヌビディアに張氏が直接電話をかけて取引を始めた１９９７年からの関係があったので可能だった。


自叙伝で張氏は、２０１３年にフアンＣＥＯに２回も電話をかけＴＳＭＣの後任ＣＥＯを提案したというエピソードも公開した。フアンＣＥＯは「私はすでに職がある」として断ったという。

◇「アップルからの受注」は４年間準備した作品

現在のＴＳＭＣを作った一等功臣はアップルだ。ＴＳＭＣが現在のように大衆に知られているのはエヌビディアのおかげだが、昨年のＴＳＭＣの最大顧客は依然としてアップルだった。

張氏は２００７年からアップルをＴＳＭＣの潜在顧客として狙っていたと自叙伝で打ち明けた。スマートフォンは半導体集約的な製品のため、アップルの動向に神経を尖らせていたという。ＴＳＭＣはアップルがロジックチップ設計のためサムスンを訪ねたという話と、その後サムスンが独自にスマートフォン事業をするという情報を入手した。張氏は「私がスティーブ・ジョブズならば耐えられないだろう」と確信し、アップルからの受注にさらに力を入れた。

この時橋渡しをしたのは妻張淑芬氏のいとこであるフォックスコン創業者の郭台銘氏だった。フォックスコンはアップルの主要製造協力会社だ。ある日アップルのジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者（ＣＯＯ）が張氏の自宅に招待も受けずに訪ねてきて夕食をともにし、この時から両社のファウンドリー取引協議は始まった。中間にインテルとアップル間の取引議論があったが、２０１１年にアップルのティム・クックＣＥＯが張氏を招いて昼食をしながら「インテルは委託製造がうまくできない」と話したという。２０１４年にアップルはｉＰｈｏｎｅ６ｓ用チップをサムスンとＴＳＭＣから調達し、現在は全量をＴＳＭＣに任せている。


「私には不況３大原則がある」９３歳ＴＳＭＣ創業者が明らかにした成功秘訣（１）