バイデン米大統領
◇「グータッチだけして頬を打たれた」
2022年7月15日、バイデン氏はサウジアラビア第2の都市ジッダにいた。出迎えに来たムハンマド・ビン・サルマン皇太子とグータッチで挨拶した。数カ月前ですら想像できなかった場面だ。バイデン氏は2018年トルコ(テュルキエ)・イスタンブールのサウジアラビア領事館で殺害されたサウジ系米国ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害背後にビン・サルマン氏を指定して強く批判してきた。「サウジを国際的にのけ者にする」と強い意志を見せていた。
そんなバイデン氏が就任後初めてサウジを直接訪れたのは原油価格のためだった。ウクライナ戦争で国際原油価格は1バレル当たり100ドルを上回り、米国内原油価格も急騰した。この余波で2022年6月米消費者物価の上昇率は過去41年で最高値である9.1%まで高騰した。足元の火を消そうとバイデン氏は「独裁者と手を握る」という米国国内の批判にも、石油輸出国機構(OPEC)の実質的リーダーであるビン・サルマン氏に石油増産をお願いした。
試みは失敗に終わった。2カ月後、OPECと主要産油国間の協議体であるOPEC+は9月の原油増産量を一日当たり10万バレルに決めて7~8月増産量(64万8000バレル)よりも減らした。「グータッチだけして頬を打たれた格好」(CNN)、「政治的侮辱」(ニューヨーク・タイムズ)などの指摘があふれた。「インフレも安定化させられず、戦争も終わらせられない」というバイデン氏に対する批判はこの時に始まった。
◇「ジェノサイド・ジョー」
昨年10月武装勢力ハマスの無差別虐殺で始まったイスラエル・ハマス戦争は9カ月以上続いている。3万 8000人を超えるガザ地区住民が亡くなり、飢餓など人道主義的危機も深刻だが、ハマス壊滅を公言したイスラエルは攻撃を止めないでいる。
休戦を要求する国際社会の声は高いがバイデン氏の態度は不明瞭だった。軍事作戦を中断して休戦協議に入るように要求しながらもイスラエルに対する武器の供給は続けている。11月大統領選挙のためだった。伝統支持層であるムスリム、反戦志向の有権者も重要だが、選挙資金の「大口」ユダヤ系有権者の表情も伺わなくてはならなかった。
バイデン氏の「危険な綱渡り」は逆風をむかえた。4月米国ニューヨークのコロンビア大学で始まった大学街の親パレスチナデモでは「バイデンは『ジェノサイド・ジョー』(大量虐殺者ジョー)」「バイデンとトランプの差を感じられない」という言葉も聞かれた。トランプ氏と共和党は「バイデンが弱気だから中東状況が悪化した」と批判した。核心支持層も失い、投票者の拡張にも失敗する最悪の状況に直面した。
◇また転倒…ゼレンスキーに対して「プーチン大統領」
昨年6月コロラド米空軍士官学校卒業式行事会場。卒業証書授与後に移動しようとしたバイデン氏が突然倒れた。警護員などの助けを借りて起き上がり、席についたバイデン氏は当惑を隠すことができなかった。
バイデン氏の転倒事態は初めてではない。2021年3月大統領専用機エアフォースワンのタラップを上がっているときに足を踏みはずして倒れたほか、2022年6月にも自転車に乗ってペダルのトゥクリップに足がつまずいた。
失言も増えた。2月フランスのマクロン大統領をミッテラン元大統領と呼んだ。5月には「韓国大統領金正恩(キム・ジョンウン)のための彼(トランプ)のラブレター」としながら北朝鮮国務委員長の金正恩氏を韓国大統領と称した。さらには11日北大西洋条約機構(NATO)首脳会議ではカマラ・ハリス副大統領を「トランプ副大統領」、ウクライナのゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と呼ぶ致命的ミスを犯した。
舞台で転倒、どもって別の話まで…バイデン氏の大統領候補辞退を決定づけた5場面(2)
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