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【時論】心を病んでいるときに寄りかかれる国=韓国

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版

精神疾患者のための弁論。[イラスト=キム・ジユン]

「複雑骨折した足がドアに挟まったことがあった。うつ病も過去にその病を患ったことがある者として、その苦痛は複雑骨折の物理的な痛み以上だったと確言することができる」。事業家であり長年英国上院議員としても奉職したデニス・スティーブンソン氏の証言だ。権利主張があふれる世の中だが、韓国の精神疾患患者とその家族は人知れず苦痛に耐えている。

2021年に実施された精神健康実態調査で、韓国成人の1.7%がうつ病、3.1%が不安障害という結果が出た。欧州でうつ病の有病率が概略8%、不安障害は8%と言われていることに比べれば韓国人の精神健康は相対的に良好なのだろうか。真実はそうではない可能性が高い。韓国内のうつ病有病率を6.7%と推定する研究結果もあるうえ、憂鬱な気持ち、慢性的疲労、不眠、興味喪失などうつ病に伴う症状の水準が西欧国家に比べて高いという調査結果もある。精神疾患という「緋文字」の烙印に対する恐怖がアンケート調査ですら正直な回答を邪魔しているのではないのかと思わずにはいられない。

政府が「全国民心投資支援事業」という名称で提案した539億ウォン(約62億円)規模の予算案を13日、国会保健福祉委員会は与野党合意で予算決算委員会に伝えた。憂鬱や不安など心に困難がある国民のための心理相談サービスの提供を拡大し、今後5年間で関連事業がより良い方向に発展することができるように基礎システムの構築にも投資するとしている。


韓国内では広く知られていないが、世界心理学会は多様な精神健康問題に対する臨床試験を通じて効果性が立証されたエビデンスに基づく心理療法を蓄積してきた。来談者を捉えている心と体のしくみを自ら学習して、脱出することができるように助ける認知行動療法(CBT)が代表的事例といえるだろう。

認知行動療法は1週1回のセッションを1単位として行われる。日常が苦痛なほどの憂鬱と不安がある事例の50%以上が10回未満のセッションで精神健康を取り戻すという結果がある。このような認知行動療法の結果に驚く人々も多いことだろう。

さらに驚く点は、エビデンスに基づく心理療法の恩恵を一国全体で体系的に享受することが可能だという事実だ。すでに2010年以降英国の経験を通じてエビデンスに基づく心理療法が全国規模の実際事業でもそのまま具現することができることが実証された。英国はIAPT(Improving Access to Psychotherapy)というプログラムを導入した。

このプログラムにより、エビデンスに基づく心理療法を施行することができるようにトレーニングを受けた専門相談者1万1000人を全国のセンターに配置し、苦痛を受ける国民が無料で恩恵を受けられるように財政で支援している。個人情報を保護しながらもセッションごとに来談者の改善程度を測定し、地域センター単位の成果をリアルタイムで公開している。こうすることでプログラムの透明性と責任性を高めたという点も注目に値する。

韓国保健福祉部が提案した「全国民心投資支援事業」は来年から2028年までの5年間、国民の心の健康を支援するための中長期計画を想定している。心の病気で苦痛を受けている国民が国に寄りかかることができるようになるのは幸いなことではあるが、大切な予算は有意義に使われなければならず、国民が結果を確認できる方法で実効性を持った事業を推進しなければならない。

精神健康の改善のための投資は最高水準の自殺率と最低水準の出生率、失業による労働力損失、就業者の生産性減少、医療および福祉支出の増加を緩和して韓国社会の厚生を改善することができる。英国から刺激を受けて後発でエビデンスに基づく心理療法を制度化したノルウェーの評価結果によると、B/Cすなわち費用便益比の比率が1:3.6にもなる。

誰も精神健康問題を他人事だと片付けることはできない。欧州諸国の場合、各種精神疾患をあわせて考慮した場合、生涯有病率が平均60%にもなることが知られている。自殺率が世界最高の韓国の生涯有病率はどの程度になるだろうか。ようやく始まる意味ある事業が、国会審議を順調に通過して良い実を結ぶように、苦痛を受けている多くの声なき人々と共に見守りたい。

キム・テジョン/KDI国際政策大学院教授

◇外部者執筆のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。



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