彼が作品の中で最初に言及したクラシック音楽はベートーベンのピアノ協奏曲第3番だ。1979年デビュー作『風の歌を聞け』に登場する。『1973年のピンボール』にはヴィヴァルディ『調和の霊感』が流れた。『羊をめぐる冒険』にはスクリャービンのピアノソナタ第2番とバッハの無伴奏チェロ組曲が、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』にはバッハのブランデンブルク協奏曲が流れている。『ノルウェーの森』ではブラームスのピアノ協奏曲第2番、『ダンス・ダンス・ダンス』ではモーツァルト『フィガロの結婚』序曲、『ねじまき鳥クロニクル』ではロッシーニの『泥棒かささぎ』序曲とバッハの『音楽の捧げもの』、『海辺のカフカ』ではベートーベンのピアノ三重奏曲『大公』、『1Q84』ではヤナーチェク『シンフォニエッタ』、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』ではリスト『巡礼の年』、『騎士団長殺し』ではモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』などさまざまな作品が紹介されている。米翻訳家ジェイ・ルービンの言葉のように、村上春樹はこれらの音楽を「精神の中に存在する時間とは関係がない別世界、深い無意識に入る最適な手段」として使ったり、バックミュージックとして使ったりして読者の脳裏に絶えず再生させる。見えない「風」の「歌」を聞いて感じれば一つの世界が形成されるため村上作品において音楽は重要だ。
そのため彼が新作でどのような音楽を使っているのかも出版前から関心事だった。実際に読んでみると前作に比べて音楽が占める比重と存在感はなぜか薄い。400ページ近く沈黙の中でページが繰られていく。読者の聴覚は雪の降る音も聞こえそうなほど鋭敏に鍛えられる。
そのため彼が新作でどのような音楽を使っているのかも出版前から関心事だった。実際に読んでみると前作に比べて音楽が占める比重と存在感はなぜか薄い。400ページ近く沈黙の中でページが繰られていく。読者の聴覚は雪の降る音も聞こえそうなほど鋭敏に鍛えられる。
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