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【時視各角】大韓民国の法治を否定した罪

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版
自らを「平壌(ピョンヤン)市民キム・リョンヒ」と表現する韓国居住12年目の脱北民女性がいる。韓国に密航して2カ月間働けばお金を稼いで平壌に戻ることができるというブローカーの話にだまされて入国したが、韓国で住む意思がまったくないから家族が住んでいる平壌に送還してほしいというのがキム・リョンヒさんの一貫した要求事項だ。2016年にはソウルにあるベトナム大使館に飛び込んで亡命を求めたが、拒否されて韓国警察に逮捕された。キムさんはこのことで国家保安法上の潜入脱出の疑いが適用されて裁判にかけられた末に釈放された。北朝鮮外交官出身の太永浩(テ・ヨンホ)議員はキム・リョンヒさんのように北朝鮮に戻ることを希望する脱北民を送還し、代わりに国軍捕虜や韓国人抑留者などを返してもらうことを主張する。

今年初め、東部戦線警戒網を突き抜けて北朝鮮に行った体操選手出身のもう一人の脱北民キムさんは実に残念な場合だ。キムさんは高さ3メートルの鉄網を越えて亡命し、同じルートで再び北朝鮮に戻った。知人の証言によると、約1年余りの韓国生活に適応できず北朝鮮行きを選んだようだ。脱北民の中にはそのような人がたまに存在し、実際に中国を経て北朝鮮に戻った場合もある。競争社会に慣れない脱北民にとって韓国社会は決して容易いところでないだろう。体操選手キムさんを「残念な場合」と表現したのは、彼が北朝鮮に戻って生きようとしていた目標を成し遂げることができなかったという話を信頼できる対北朝鮮消息筋から聞いたためだ。それが脱北犯罪者に対する処刑だったのか、「新型コロナ汚染地域から越えてくるすべての動くものを射殺せよ」といった防疫指針によることなのかは分からないが、彼は越北後長い時間を生きることができなかったという。人道的動機から出された太永浩議員の提案が実現することが難しい理由をこのような事例が証明する。

送還を希望する人々の場合も簡単でない方だが、希望しない人を強制的に送りかえすのはどのような理由をつけても正当化することができない。2020年11月北朝鮮船員2人を北朝鮮に送還した理由に対して、文在寅(ムン・ジェイン)政府当局者は「亡命の真正性」がなかったためだと主張する。その時でも今でも変わりない主張だ。鄭義溶(チョン・ウィヨン)前安保室長の説明のように、韓国海軍に拿捕されてくる瞬間には亡命の意思がなかったかもしれない。だが、さらに明白な事実は北朝鮮に戻ろうとする意思もなかったという点だ。それはこの前公開された送還当日の写真と動画を通じて生々しく証明される。人の舌は危機を免れるために真正性のないことを言うことはできても、絶体絶命の瞬間に追い込まれた人の体は嘘をつけないものだ。眼帯が外された瞬間、体を後ろに抜く船員の行動は生存本能の発現で、それこそ「真正性」だった。国民は1年8カ月が過ぎた今になってやっとその動画を見て判断することになったが、文在寅政府の責任者は彼らが北朝鮮に送還されることを望まなかったという事実を最初から分かっていただろう。眼帯をつけて手を縛ったのが実にその証拠だ。それにもかかわらず、いまだに「亡命の真正性」がなかったので送りかえすしかなかったという論理を強弁するのは国民を相手に嘘をつくことだ。国民を欺くことができるという考えがなかったなら不可能なことだ。いっそ善良な国民を凶悪犯とともに生きる危険から保護するために亡命の意思を黙殺したとすれば、せめて国民を欺瞞したという非難からは免れることができただろう。


残念なことに、船員2人は板門店を通って北朝鮮に戻ってから数日後に処刑されたと政府当局が把握しているという報道があった。信じたくないが、西海(ソヘ)で殺害された海水部公務員事件などの前例からみると当局の判断が事実である可能性が高い。凶悪犯にも正当に裁判を受ける権利と弁護人の助力を受ける権利がある。それが法治国家とそうではない国、文明国家と野蛮国の違いだ。文在寅政府の責任者には大韓民国の法治主義を否定した疑惑が追加されなければならない。

イェ・ヨンジュン/論説委員



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