ナム・ジュヒョク、オク・ジュヒョン、ＰＳＹ（サイ）。最近１カ月間に各種「論争」で袋叩きに合った芸能人だ。タレントのナム・ジュヒョクは過去の校内暴力疑惑が出てきた。所属事務所は暴露内容を否定しながら一部で告訴を進めるなど真実攻防の真っ只中だ。敏感な事案なので何よりも事実かどうかを綿密に調べるべきだが、オンライン世論はすでに疑惑ではなく事実だと判断を下したようにみえる。

◆袋叩き合ったナム・ジュヒョク、オク・ジュヒョン、ＰＳＹ

ミュージカルスターのオク・ジュヒョンは甲質（カプチル、パワハラ）人脈キャスティング暴露があった。いわれのないことだとし暴露者を告訴すると声をあげたが、結局ひざまずいた。議論の余地があり、人脈キャスティングがオク・ジュヒョンだけの問題ではなかったが、やはりその是非を判断するよりも「悪い甲質芸能人」に罰を与えろというオンライン世論を克服することができなかった。


また、歌手ＰＳＹは夏トレード公演「びっしょりショー」が俎上に載せられた。先月、テレビのバラエティ番組を通じて水３００トンが使われるということが知らされながらだ。放送日が日照りの最中だったときだ。公演は梅雨期である７月に開催されるという事実は無視された。「環境問題に鈍感な、日照りの渦中の無概念水浪費」という非難がオンラインを熱くした。

ディテールは少しずつ違うが、疑惑・暴露・告発で世論裁判台に立った問題の芸能人（悪）に対する大衆（善）の叱責と報復という点では似ている。真実は豆腐を切るように簡単ではない、非常に複雑な問題という背景説明が入り込む余地がなかった。世論裁判で生命が切れた芸能人が一人や二人ではないため、私たちがスターの生死与奪権を握っているという大衆の自己効力感も一役買っている。

芸能界だけではない。「相手の悪魔化」と「争点の善悪化・道徳化」は剛性政治ファンダムの固定レパートリーでもある。社会的公憤を誘うイシューに対する態度も似ている。「正義という名の道徳的断罪」は韓国社会と政治を読むときの主要キーワードだ。

◆認定欲求増幅するソーシャルメディア

「グランドスタンディング（ｇｒａｎｄｓｔａｎｄｉｎｇ）」あるいは「グランドスタンダー（ｇｒａｎｄｓｔａｎｄｅｒ）」という言葉がある。他人に道徳的に見せたくて道徳的な話をすること、またはそのような人を意味する。自身の道徳性や道徳的争点に対する敏感性をアピールする「虚勢的道徳主義」だ。認定欲求を刺激するＳＮＳ時代の肖像でもある。「インスタ映え（ｉｎｓｔａｇｒａｍｍａｂｌｅ）」、すなわち「インスタに投稿するに値するか」が重要なように「道徳的に見えるかどうか」が重要になる。

米テキサス工科大学のＪｕｓｔｉｎ　Ｔｏｓｉ教授らが著した『Ｇｒａｎｄｓｔａｎｄｉｎｇ：　Ｔｈｅ　Ｕｓｅ　ａｎｄ　Ａｂｕｓｅ　ｏｆ　Ｍｏｒａｌ　Ｔａｌｋ』（以下、『Ｇｒａｎｄｓｔａｎｄｉｎｇ』）によると、ＳＮＳはこのように「自身が歴史の正しいほうに立っていることを証明しようと努める人であふれている。公的談論は道徳的優位を占めようとする戦場となる」。

このような「美徳誇示」が実際の行動につながるかどうかは別問題だ。『Ｔｒｉｃｋ　Ｍｉｒｒｏｒ：　Ｒｅｆｌｅｃｔｉｏｎｓ　ｏｎ　Ｓｅｌｆ－Ｄｅｌｕｓｉｏｎ』（以下、『Ｔｒｉｃｋ　Ｍｉｒｒｏｒ』）の著者Ｊｉａ　Ｔｏｌｅｎｔｉｎｏ氏は「オンラインリワード（報償）がオフラインリワードを上回る。ツイッターの多くの人々が正しい政治的発言をすること自体が政治的に正しいことのように振る舞う」と説明した。「インターネットは何か知る能力を劇的に増加させたが、何かを変える能力はその状態そのままだ。私はインターネットが私たちの手に握らせてくれたものは、次々とやってくる悲劇の前で悲痛に思ったり冷淡になったりを繰り返すサイクルにすぎないと感じ始めた。行き過ぎた参加が私たちを少しずつ無感な人間にしている」　（『Ｔｒｉｃｋ　Ｍｉｒｒｏｒ』）

『Ｇｒａｎｄｓｔａｎｄｉｎｇ』によると、このしくみの出発は「道徳的自己優越性の幻想」だ。一般的に人々は実際より自身をはるかに道徳的な人だと過大評価する。人々はまた「大衆的観点」から抜け出した者を否定的に評価し、たとえ自分がそれに同意しない時でも社会的圧力に同調する。

この２種類が重なると、過ちを犯してグランドスタンディングの対象に指定された人はもともと受けるべき水準よりもさらに過酷な処分を受ける可能性が高まる。いくらその人が非難と侮辱を受けて当然だったとしても、１万人の人々から類似の非難と侮辱を受ける必要はないにもかかわらず、だ。


【コラム】正義を前面に出して相手を悪魔化、政治両極をあおる＝韓国（２）