就任2日目の11日、首席秘書官会議で大統領室の参謀が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の冒頭発言を聞いている。 大統領室写真記者団
人事問題より深刻な問題はアイデンティティーだ。任期の最初に何をしようとするのか、文在寅(ムン・ジェイン)政権のどの部分を改善するのか、盧武鉉(ノ・ムヒョン)精神を継承するのか、保守を再建するのか、よく分からない。就任演説も「自由」ばかり話し、自由を享受するための実践方法がない。いくら意思疎通の過程に問題があったとしても、自身が重大視した検捜完剥(検察捜査権完全剥奪)を徹底して扱わず「ゴーサイン」を出したのも理解しがたい。
人事・検捜完剥は挽回や白紙化が可能かもしれないが、外交・安全保障は退くことができない。就任10日目に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がする韓米首脳会談は、同盟国の指導者が最初に関係を築く社交場のようだが、決してそうではない。国家間の戦場だ。バイデン米大統領は11月の中間選挙を控えて対ロシア・中国共同戦線を促し、対米投資の圧力を加え始めるだろう。これに対抗して徹底的に我々の国益を優先し、場合によっては韓半島(朝鮮半島)核問題でバイデン大統領を説得する必要がある。尹大統領はスーツをを着たグラディエーター(剣闘士)にならなければいけない。我々が選んだ大統領の能力はどうか、全国民、全世界が注目している。
度胸がある強い性格として知られた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が2003年、就任79日目に韓米首脳会談のため米国を訪問した当時のことだ。盧大統領はブッシュ大統領との夕食会の前、チェイニー副大統領と昼食会をした。記者が席を外すと、チェイニー副大統領は「大統領、それで北朝鮮問題はどうするのですか」と問いただし始めた。盧大統領は昼食会の3つのコース料理にほとんど手を付けられなかった。会談が終わった直後、出席者がリムジンに別れて乗り、次の行事場所に移動しようとする時、盧大統領は同席した参謀を突然呼んだ。そしてこう尋ねたという。「首脳会談の経験が多いと話していたでしょう。さっき私はうまくできていたのだろうか」。どれほど緊張していたのだろうか。大統領というものはそのような地位だ。夜を徹しても準備をし、また準備しなければいけない。新政府の大統領外交・儀典参謀に実力派がそろったのはまだ幸いだ。
もう一つは国家情報院。2018年5月28日の朝鮮日報は「金相均(キム・サンギュン)国家情報院第2次長を含む国家情報院要員3人が23日に平壌(ピョンヤン)を訪問して北側と非公式面談をした」と伝えた。青瓦台は直ちに否認した。後に聞いた話だが、国家情報院がアンドリュー・キム氏ら米CIAチームを北朝鮮に送るために金次長ら3人の名前を借りて申告したという。誤報でない誤報が出た理由だ。こうした形で文在寅政権当時の国家情報院は北朝鮮の件なら一肌脱いで助けた。北朝鮮の工作を防ぐべき国家情報院の前の庭には、北朝鮮スパイと疑われる申栄福(シン・ヨンボク)の書体で院訓を刻んだ石を置いた。元・現国家情報院の職員の自負心は墜落した。この院訓石を直ちに入れ替える必要がある。尹錫悦政府、さらに大韓民国のアイデンティティ、正統性を立て直す象徴石だ。政治色を排除した海外情報中心の新しい情報機関に変わるのはその後だ。
金玄基(キム・ヒョンギ)/巡回特派員/東京総局長
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