大統領選挙は３週前に終わったが、この問題は問いただしておきたい。今回の大統領選挙で共に民主党と進歩陣営が暗黙的に依存した方式が「侮辱キャンペーン」だった。公式的には「私がもっとうまくできる」というポジティブ選挙戦と徹底的な検証を掲げたが、選挙に登場して有権者に印象づけたものは侮辱キャンペーンだった。得票につながると思えば人間的な侮辱や侮蔑も辞さないマーケティングだ。

（尹錫悦次期大統領夫人を誹謗する）いわゆる「ジュリー壁画」がソウル市内に登場した直後、民主党は黙っていた。壁画を通じて末梢的好奇心を刺激し、確認されていないスキャンダルが拡大再生産されることを内心期待するようだった。民主党は世論が沈黙を問題視してから口を開いた。ＳＮＳに「瞳がすごく大きくなった」として顔を評価する与党元議員もいた。元法務長官は自分が尹錫悦次期大統領を鞭打つ合成写真をＳＮＳに載せた。

上の事例はすべて集団や理念、政策でなく個人を狙ったという共通点がある。また、主に匿名性に依存してオンライン空間で自分たち同士が交わした一種のイメージを、堂々と公開的な領域に引き出したという点でも性格が同じだ。


侮辱キャンペーンはただ眉をひそめる程度の逸脱として済ませるにはその深さが大きい。社会的タブーを越えて侮辱を与えてこそ自分の恨みを晴らせるという怒りが裏に隠れている。こらえられない怒りを侮辱と嘲弄という形で表す。したがって侮辱キャンペーンを作る動力は怒りであり、怒りを公開的に表して支持層を結集させるのが、こうした部所の効果だ。メビウスの帯のように「相手を拒否→怒り→怒り発散（侮辱）→同調者の結集→相手をさらに強く拒否」と無限に繰り返されかねない。

「悪貨は良貨を駆逐する」のか。民主党にも死去した金槿泰（キム・グンテ）元議員のように自身の信念を守りながらも相手に対する礼儀を失わない政治家がいた。しかし最近の民主党にはこのような人物がほとんど見えない。むしろ文在寅（ムン・ジェイン）政権の５年間を経て、韓国社会は侮辱と怒りをむやみに表すようになった。今の韓国社会は「赤い服の人」と「青い服の人」に明確に分かれているため、侮辱と嘲弄をめぐり適切性を問いただす常識的基準は後回しにされ、陣営間の争いになってしまう。侮辱と怒りを沈める社会的な抵抗力が消えているということだ。

侮辱よりも深い含意は、民主党と進歩陣営が国を一つに導いていく動力を探せていない点にある。国民の多数を結集させるほどのポジティブなエンジンを見いだせず、結局、侮辱キャンペーンと怒りの結集に手を広げる。過去の進歩勢力は軍事独裁の解体と権威主義の脱皮という目標を掲げて国民の同意を引き出しながら社会を変えた。軍事政府という外皮は経済・社会・文化すべての面で大きくなった韓国社会の体をこれ以上支えられず、この矛盾を解決したのが民主化であった。

しかし今の民主党と進歩陣営のビジョンは何か。思いつくのは積弊清算と反日ほどだ。弾劾で執権した民主党政権は積弊清算で政権の動力を作ってきたし、今回の大統領選挙も弾劾と積弊清算の延長線で臨もうとし、こうした中で出てきたものが侮辱キャンペーンだった。

いま民主党と進歩陣営が頼っているパラダイムは３０余年前とほとんど変わっていない。軍部独裁の位置に積弊が、反米の位置に反日が代入されただけだ。３０年前は韓国社会の拡張を妨げる外皮を破る動力だったが、その段階をかなり以前に過ぎた今、民主党と進歩陣営の積弊清算ドグマは自分たちの既得権を守ることに動員される万能の論理になっている。このため現在の韓国の青年失業、南北関係、米中との外交などで、依然として３０年前の、今では体に合わない服を解決法として出している。

しかし仁川国際空港公社事態に見られるように、非正規職の正規職化は、いま鷺梁津（ノリャンジン）の予備校で黙々と公務員試験を準備する青年が共感する解決法とは全く違う。南北が共に交わる感性に満ちた「わが民族同士」を描くが、北朝鮮のＩＣＢＭが空を飛ぶ。中国の国益と大韓民国の国益の衝突が激しくなっているが、民主党と進歩陣営はどこかに米国嫌悪と米国の代案勢力中国という希望を依然として持っている。

１０余年前にも保守が変わってこそ国が生きるという声が続いた。腐敗に鈍感な保守、過去に回帰しようとする保守に対する警告だった。ところが今は進歩が骨の髄まで変わらなければ国が限界に到達する時代になった。大韓民国の運はここまでなのか、それとも続くのかは、民主党と進歩の変化にかかっている。

チェ・ビョンゴン／国際外交安保ディレクター