「２年前ぐらいと記憶しています。大韓サッカー協会最高位級関係者と会った席だったそうです。サッカー代表チームのベント監督が『単調な戦術』の指摘に強い語調で反論したという話を聞きました。ベント監督が話したそうです。『相手の戦術や選手構成に合わせてフォーメーションを容易に変える韓国の指導者をむしろ理解できない。確実な自分がないから相手を過度に意識するのではないのか』と。彼の主張に全て同意するのではないが、（ワールドカップ本戦行きという）結果を出した力だけは認めなければならないと思います」。

過去にサッカー韓国代表チームに身を置いたある指導者が明らかにしたベント監督関連のエピソードだ。ベント監督の運用哲学が鮮明にあらわれるエピソードでもある。単純だが明快なサッカー、これひとつでベント監督は韓国サッカーのワールドカップ１０回連続本戦行きの金字塔を打ち立てた。

サッカー韓国代表チームは２９日にアラブ首長国連邦（ＵＡＥ）のドバイで同国代表とワールドカップ・アジア最終予選第１０戦を行う。すでにワールドカップ本戦出場権を確保しているが、グループ１位を守るため、来月２日の組み合わせ抽選会でより良い位置を占めるために勝ち点３点を追加しなければならない。


韓国代表チームの雰囲気は明るい。２４日にソウルのワールドカップスタジアムで行われたイランとのホーム第９戦で６万４３７５人の満員の観衆が見守る中、２－０で完勝を決め咆哮した。２０１１年から１１年間続いたイラン戦での勝ちなし（７試合で４敗３分け）の記録も断ち切った。

ベント監督も注目された。過去韓国サッカー代表チームの指令塔をあわせて単一在任期間最多勝の２８勝の記録を作り、ホームでの連続無敗も２０試合（１６勝４分け）に増やした。２０１８年８月の就任から書き続けている最長在任記録の３年７カ月は依然として現在進行形だ。異変がない限りカタールワールドカップ本戦まで任期を継続する見通しだ。

ベント監督の成功の方程式の戦術的ルーツは４－２－３－１（４－３－３）フォーメーションを基にしたビルドアップサッカーだ。最後方からパスワーク中心に試合を進めてボール支配率を高めて流れを支配する。ベント監督がこれに先立ちスポルティング（ポルトガル）、クルゼイロ（ブラジル）、ポルトガル代表チーム、オリンピアコス（ギリシャ）で指導した時も同じサッカーをした。

代表チーム運用哲学は単純明快だ。選手選抜は徹底的に戦術に合わせる。早くから孫興民（ソン・フンミン）中心の先発ラインナップを固定した。ビルドアップサッカーの基盤である組織力を最大化するためだ。この４年間でフォーメーションと選手構成に変化がほとんどないためか「ベント監督の戦術は単調だ」という批判が絶えなかった。「プランＢがない」という指摘も続いた。昨年３月の韓日戦惨敗（０－３）直後には指令塔更迭説が飛び交った。

ベント監督はカタールワールドカップ最終予選舞台に入ってからも戦術基調を維持した。代わりに主砲孫興民に「変速ギア」の役割を任せて流れを変えた。相手守備選手を引きつけてチームメイトにチャンスを提供する「おとり」の役割を減らし、積極的なシュートと突破でゴール狩りに先に立つようにした。孫興民のシュートの試みが増えると韓国攻撃陣の自信と相手守備陣の緊張度がともに上昇した。

代表的な例がイラン戦だ。ＫＢＳのハン・ジュンヒ解説委員は「（先制ゴールにつながった）孫興民の強力な無回転性中距離シュートはなぜ彼が孫興民なのかを示した。強豪イランを相手に何かをやり遂げようという闘志が威力的なシュートに現れた」と評価した。

ワールドカップ・アジア最終予選の舞台でベント監督の最後の挑戦課題は無敗通過だ。２９日のＵＡＥ戦で引き分け以上となれば２０１０年の南アフリカワールドカップ最終予選から１２年ぶりの無敗達成が可能だ。１２年前に４勝４分けで最終予選を通過した韓国は南アフリカでもベスト１６に入り、「史上初の遠征ベスト１６」という歴史を書いた。

今後ベント監督は一次元高い挑戦に出なければならない。組み合わせ抽選結果を基にワールドカップ本戦の舞台に見合った水準に競争力を引き上げることが急務だ。６月のＡマッチ２連戦が最初の試験台になる見通しだ。大韓サッカー協会は２００２年韓日ワールドカップ２０周年を迎えドイツ、フランスなどワールドクラスの競合チームを呼んでＡマッチ親善試合を行う計画だ。２０１９年にブラジルを相手に試合力の差を実感し０－３の完敗となったベント監督のビルドアップサッカーが３年でどれだけ進化したのか確認する機会だ。