韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁が来年3月末の退任までに基準金利を2回ほど引き上げるものとみられる。周辺には引火性物質が散在している。不動産市場は急騰するマンション価格が襲い、11月の消費者物価上昇率は3.7%まで沸き上がった。家計負債は1800兆ウォンを超え危険水位だ。いずれも追加金利引き上げを呼ぶ要因だ。
すでに来年1月の基準金利引き上げは既定路線になった。問題は3月末だ。3月9日の大統領選挙直後の3月31日に韓国銀行総裁任期満了が重なるためだ。李総裁は専門性と柔軟性をいずれも備えた人物に挙げられる。しかし知人らは外柔内剛だと口をそろえる。象徴的な場面が2017年11月にサプライズで基準金利を引き上げた時だ。当時の消費者物価上昇率は1.8%にとどまっていたが、彼は先延ばししていた宿題を片づけるかのように請け負った。隠されたタカ派の本能だ。
来年3月も同じだ。常識通りならば次期大統領が座を固める5~6月まで韓国銀行は総裁代行体制を敷くことになる。3カ月ほどのリーダーシップ空白ができるのだ。李総裁は「最後の希望というならばバブルを残した中央銀行総裁として記憶されたくない」という立場という。したがって退任前にもう一度金利引き上げの悪役を一手に引き受ける公算が大きい。異常なマイナス実質金利と資産バブルをそのまま残して去りそうにはない。
日本の「失われた20年」でも悪魔はディテールに隠れていた。バブルが始まった1987年10月、日本銀行は金利引き上げカードを手にした。だが3つの事件に足を引っ張られた。まずプラザ合意で円の価値が2倍になり輸入物価が大幅に落ちた。物価上昇率0.1%では金利を上げる名分が弱かった。ここに同年9月に米国の貿易赤字が過去最大を記録した。10月19日には米国のブラック・マンデーで株価暴落まで重なった。日本は米国の顔色をうかがい自ら手足を縛ってしまった。そうしてためらっていた2年間にバブルは手の付けられないほど膨らんだ。人災に違いなかった。
日本の不動産崩壊が長期化したのにも隠れた秘密がある。不動産暴落にも住宅供給が減らないのだ。むしろ90年以降毎年の供給は140万~160万戸に達した。2009年に100万戸以下に落ちた。そのなぞは自らの手足を縛ったことにある。日本はバブルが崩壊すると景気浮揚を繰り返し、財政支出の相当部分を機械的に公共住宅に注ぎ込んだ。不動産バブル崩壊→景気浮揚→公共住宅供給増加→不動産下落の悪循環が重なったのだ。米国は全く違う状況だった。2007年にサブプライムローン問題が起きるとそれまで年平均170万戸だった住宅着工件数があっという間に87万戸と半減した。民間部門を中心に住宅供給が底を打ち追加崩壊を防いだのだ。
日本銀行のように動くべき時に動かない中央銀行は存在自体が迷惑だ。幸い韓国銀行は7月から基準金利を上げ始めた。振り返れば昨年のコロナ事態は封鎖と消費萎縮で深刻なデフレを招いた。今年のデルタ株とオミクロン株事態は正反対だ。超低金利に世界的なサプライチェーン不安まで起こり急激なインフレを呼んでいる。来年には世界的に流動性吸収と金利引き上げが大勢になるほかない。何より明らかな事実はゼロ金利が幕を下ろし歴史上例がなかった流動性パーティーが終わる兆しということだ。
シカゴ大学経済学科のラグラムラジャン客員教授は「金融緩和が終わる時に苦痛があらわれる」と警告する。低金利の禁断症状は深刻だ。バブルのまた別の問題は管理が困難という点だ。老練に空気だけ抜かなくてはならないのに粗雑にバブルを弾けさせてしまうのが常だ。歴史的に軟着陸より硬着陸がはるかに多い。こうした恐怖のせいなのか韓国国内でも尚早な不動産急落論が頭をもたげている。ソウル大学のキム・ギョンミン教授は「基準金利が1.5%になれば住宅価格は2021年6月より10~17%下がるだろう」とした。
韓国も来年だれが大統領になっても現政権が大盤振る舞いした流動性祭り後の皿洗いに耐えなければならない。万一バブルが弾ければ金融システムが揺らぐのが最も大きなリスクだ。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授も「過度な負債は常に金融危機で終わった」と指摘する。このような時、最後の劇薬処方が公的資金投入だ。財政は最後の頼りだ。
それでも大統領選挙の局面で財政を動員するばらまき公約ばかりがあふれている。青瓦台(チョンワデ、大統領府)報道官が「蔵に財政を積めば腐る」としてあちこちから非難を受けたのを忘れたようだ。財政は大切な種子だ。票を得るためにむやみに使い果たす対象ではない。昔から「農夫餓死枕厥種子」という。農夫は飢えて死んでも種は食べず枕にして死ぬという意だ。私たちの先祖は『周易』の「碩果不食」(種になる実は食べない)という一節を生命のように考えた。このごろの政界は数百年前の農夫の知恵にも至らない。政策対決どころか低劣な人身攻撃とポピュリズムだけ乱舞している。ますます大統領選挙が安っぽくなっている。
イ・チョルホ/中央日報コラムニスト
すでに来年1月の基準金利引き上げは既定路線になった。問題は3月末だ。3月9日の大統領選挙直後の3月31日に韓国銀行総裁任期満了が重なるためだ。李総裁は専門性と柔軟性をいずれも備えた人物に挙げられる。しかし知人らは外柔内剛だと口をそろえる。象徴的な場面が2017年11月にサプライズで基準金利を引き上げた時だ。当時の消費者物価上昇率は1.8%にとどまっていたが、彼は先延ばししていた宿題を片づけるかのように請け負った。隠されたタカ派の本能だ。
来年3月も同じだ。常識通りならば次期大統領が座を固める5~6月まで韓国銀行は総裁代行体制を敷くことになる。3カ月ほどのリーダーシップ空白ができるのだ。李総裁は「最後の希望というならばバブルを残した中央銀行総裁として記憶されたくない」という立場という。したがって退任前にもう一度金利引き上げの悪役を一手に引き受ける公算が大きい。異常なマイナス実質金利と資産バブルをそのまま残して去りそうにはない。
日本の「失われた20年」でも悪魔はディテールに隠れていた。バブルが始まった1987年10月、日本銀行は金利引き上げカードを手にした。だが3つの事件に足を引っ張られた。まずプラザ合意で円の価値が2倍になり輸入物価が大幅に落ちた。物価上昇率0.1%では金利を上げる名分が弱かった。ここに同年9月に米国の貿易赤字が過去最大を記録した。10月19日には米国のブラック・マンデーで株価暴落まで重なった。日本は米国の顔色をうかがい自ら手足を縛ってしまった。そうしてためらっていた2年間にバブルは手の付けられないほど膨らんだ。人災に違いなかった。
日本の不動産崩壊が長期化したのにも隠れた秘密がある。不動産暴落にも住宅供給が減らないのだ。むしろ90年以降毎年の供給は140万~160万戸に達した。2009年に100万戸以下に落ちた。そのなぞは自らの手足を縛ったことにある。日本はバブルが崩壊すると景気浮揚を繰り返し、財政支出の相当部分を機械的に公共住宅に注ぎ込んだ。不動産バブル崩壊→景気浮揚→公共住宅供給増加→不動産下落の悪循環が重なったのだ。米国は全く違う状況だった。2007年にサブプライムローン問題が起きるとそれまで年平均170万戸だった住宅着工件数があっという間に87万戸と半減した。民間部門を中心に住宅供給が底を打ち追加崩壊を防いだのだ。
日本銀行のように動くべき時に動かない中央銀行は存在自体が迷惑だ。幸い韓国銀行は7月から基準金利を上げ始めた。振り返れば昨年のコロナ事態は封鎖と消費萎縮で深刻なデフレを招いた。今年のデルタ株とオミクロン株事態は正反対だ。超低金利に世界的なサプライチェーン不安まで起こり急激なインフレを呼んでいる。来年には世界的に流動性吸収と金利引き上げが大勢になるほかない。何より明らかな事実はゼロ金利が幕を下ろし歴史上例がなかった流動性パーティーが終わる兆しということだ。
シカゴ大学経済学科のラグラムラジャン客員教授は「金融緩和が終わる時に苦痛があらわれる」と警告する。低金利の禁断症状は深刻だ。バブルのまた別の問題は管理が困難という点だ。老練に空気だけ抜かなくてはならないのに粗雑にバブルを弾けさせてしまうのが常だ。歴史的に軟着陸より硬着陸がはるかに多い。こうした恐怖のせいなのか韓国国内でも尚早な不動産急落論が頭をもたげている。ソウル大学のキム・ギョンミン教授は「基準金利が1.5%になれば住宅価格は2021年6月より10~17%下がるだろう」とした。
韓国も来年だれが大統領になっても現政権が大盤振る舞いした流動性祭り後の皿洗いに耐えなければならない。万一バブルが弾ければ金融システムが揺らぐのが最も大きなリスクだ。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授も「過度な負債は常に金融危機で終わった」と指摘する。このような時、最後の劇薬処方が公的資金投入だ。財政は最後の頼りだ。
それでも大統領選挙の局面で財政を動員するばらまき公約ばかりがあふれている。青瓦台(チョンワデ、大統領府)報道官が「蔵に財政を積めば腐る」としてあちこちから非難を受けたのを忘れたようだ。財政は大切な種子だ。票を得るためにむやみに使い果たす対象ではない。昔から「農夫餓死枕厥種子」という。農夫は飢えて死んでも種は食べず枕にして死ぬという意だ。私たちの先祖は『周易』の「碩果不食」(種になる実は食べない)という一節を生命のように考えた。このごろの政界は数百年前の農夫の知恵にも至らない。政策対決どころか低劣な人身攻撃とポピュリズムだけ乱舞している。ますます大統領選挙が安っぽくなっている。
イ・チョルホ/中央日報コラムニスト
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