久しぶりに東京のコリアタウン新大久保を訪れた。新型コロナの影響で多くの地域では人通りが少ないが、新大久保はコロナ以前のように多かった。昼食の時間に韓国チキン店に入ったところ2階まで満席だった。
昨年から日本では韓国チキン店が増えている。もともと日本でチキンはクリスマスに食べる程度だった。日本には鶏の唐揚げがあるが、韓国のチキンとは違う。チキン専門店はケンタッキーフライドチキン(KFC)以外はほとんどなかった。
韓国チキン店が増えた理由の一つは韓国ドラマの人気のためだ。特に昨年日本で大ヒットしたドラマ『愛の不時着』の影響が大きい。『愛の不時着』では主人公ユン・セリ(ソン・イェジン)がチキン好きで、北朝鮮から来た中隊長のリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と部下の中隊員も韓国チキンの魅力にはまる。
◆「若者の韓流ファン、韓日関係を気にせず」
韓国ドラマをよく知る人なら「またPPL(間接広告)か」と思うだろうが、日本ではPPLがほとんどないため「韓国では本当にチキンをよく食べるようだ」「おいしそう。私も食べてみたい」という反応が多い。昨年春、私が韓国にいた当時、日本の友人からよく「チキンを食べに韓国に行きたい」という連絡があり、最初は理由がよく分からなかったが、後に『愛の不時着』の影響だということを知った。
私が今回訪ねたところは「ホシギ2羽チキン」3号店。新大久保駅の近くにある。オク・ドンホ代表は新大久保に2015年に1号店を出し、2016年に3号店をオープンした。オク代表は「コロナのため大半の飲食店が厳しい状況を迎えているが、新大久保はまだましな方だ。特にチキンブームはドラマの影響も大きいようだ」と話した。
新型コロナでなければ新大久保は今よりはるかに混雑しているだろう。2012年に李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島(ドクト、日本名・竹島)を訪問した後、新大久保では韓国と在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチ(特定集団に対する嫌悪発言)があり、新大久保を訪れる人が急減した。ところが、この数年間は韓日関係とは関係なく訪問者が多い。オク代表は「韓流ファンに若い世代が増えたが、若者たちは韓日関係に左右されない」と話した。
鳥インフルエンザのため鶏肉は韓国から輸入できず日本国内で調達しているが、ヤンニョム(味付け)は韓国のホシギトゥマリチキン(=ホシギ2羽チキン)と同じものを使っているという。今回一緒に食べに行った日本の友人もヤンニョムチキンは初めてで、韓国旅行に来たようだと喜んでいた。オク代表は今年も新しい店舗を出す計画という。
チキン店が増えたもう一つの原因は新型コロナだ。日本では新型コロナ以前まではデリバリーが韓国ほど普及していなかったが、最近は急速に飲食品のデリバリーが増えている。その中でも人気のメニューがチキンだ。
Mr.チキンはデリバリー専門のチキン店で、2019年は2店舗だったが現在は10店舗に増えている。近いうちに追加で2店舗を増やす予定という。韓国フランチャイズではなく日本生まれのチキン店だ。パク・ジョンヒ代表は「日本の大規模なショッピングモールで『韓国風甘辛ソース唐揚げ』という名前でヤンニョムチキンに似たものを売っているのを見て日本でも売れそうだと思った」という。
Mr.チキンで人気メニューはヤンニョムチキンとハニーバターチキンだ。味は韓国風だが、量と価格は日本式に合わせた。日本では1人前のデリバリーが少なくないからだ。M、Lサイズに分け、Mサイズを780円と安い価格で売り始めた。これまで韓国チキンは1羽が基準で、価格もそれだけ高かった。店を始めてすぐに新型コロナが流行し、注文は大きく増えた。東京だけでなく神奈川や埼玉など首都圏にも店舗は広がっている。
日本で飲食品のデリバリーが増えたのは主に「ウーバーイーツ」を通じてだ。最近はウーバーイーツ(Uber Eats)と書かれた大きなバッグを背負って自転車で走る配達員をよく見かける。飲食店内の客は多くないが、配達員らが頻繁に店を出入りしている。日本では新型コロナ前まで見られなかった風景だ。
Mr.チキンが広く知られるようになったのはユーチューバーの動画が関係している。Mr.チキンはウーバーイーツアワード最優秀賞に選ばれたほど人気だ。パク代表は、新型コロナが落ち着いた後にも一度定着した配達文化は続くと予想し、「クラウドキッチン」事業も計画している。Mr.チキン以外の飲食店のメニューも共有のキッチンで料理して配達するサービスだ。
韓国ドラマで人気を得たのはチキンだけでない。例えば『愛の不時着』の次に人気があった「梨泰院(イテウォン)クラス』では、スンドゥブチゲなど韓国料理への関心が高まった。
昨年12月にはドラマに登場した料理のレシピを紹介する本『韓国ドラマ食堂』が日本で出版され、すでに第2刷が発行された。『椿の花咲く頃』に出てきたドゥルチギ、『サイコだけど大丈夫』に登場したうずら卵の醤油煮など、今まで日本であまり知られていなかった家庭料理も紹介された。この本には日本で手に入る材料で作れる料理のレシピが多い。
◆「サムギョプサルを食べて韓国庶民料理に関心」
韓国料理研究家の本田朋美氏が主にレシピを考案した。本田氏は商社で勤務していた当時、韓国への出張が多く、韓定食など高級韓国料理を食べる機会が多かった。ところが本田氏は「新大久保でサムギョプサルを食べて庶民的な韓国料理に魅力を感じた」という。その後、韓国に関心がある人たちが集まって韓国料理を作り始め、本格的に研究することになった。『韓国ドラマ食堂』では、できるだけ簡単に作ることができるレシピを考えた。出版後、料理が苦手な人たちからも「作ることができた」という声を聞くのがうれしいという。
コラムはコリアンフードコラムニストの八田靖史氏が担当した。もともと八田氏はSNSを通じて韓国ドラマに登場する韓国料理に関する写真と文を掲載していたが、反響が大きかったことが今回の出版のきっかけになった。八田氏は1999年に韓国に留学し、当時から韓国料理に関心を持ち始め、今まで日本で韓国料理に関する本を出版してきた。コラムはドラマの中の飲食がどんな役割をしているのか、その料理にはどんな意味が込められているのかなど、ドラマだけでは分からない解説を添えた。ドラマも料理も楽しむことができる内容だ。
新型コロナのため韓国には行けないが、韓国ドラマブームの中で代理満足のようにコリアタウンに行ったり、デリバリーで韓国料理を楽しんだり、家で韓国料理に挑戦する人が増えている。私も韓国に戻れないこの数カ月間、韓国料理の実力が向上したようだ。実際、韓国に滞在中は外食ができるため韓国料理をほとんど作っていなかったが、日本では自分で料理をする機会が増えた。ところでこの代理満足はいつ終わるのでしょうか。
成川彩/元朝日新聞記者
昨年から日本では韓国チキン店が増えている。もともと日本でチキンはクリスマスに食べる程度だった。日本には鶏の唐揚げがあるが、韓国のチキンとは違う。チキン専門店はケンタッキーフライドチキン(KFC)以外はほとんどなかった。
韓国チキン店が増えた理由の一つは韓国ドラマの人気のためだ。特に昨年日本で大ヒットしたドラマ『愛の不時着』の影響が大きい。『愛の不時着』では主人公ユン・セリ(ソン・イェジン)がチキン好きで、北朝鮮から来た中隊長のリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と部下の中隊員も韓国チキンの魅力にはまる。
◆「若者の韓流ファン、韓日関係を気にせず」
韓国ドラマをよく知る人なら「またPPL(間接広告)か」と思うだろうが、日本ではPPLがほとんどないため「韓国では本当にチキンをよく食べるようだ」「おいしそう。私も食べてみたい」という反応が多い。昨年春、私が韓国にいた当時、日本の友人からよく「チキンを食べに韓国に行きたい」という連絡があり、最初は理由がよく分からなかったが、後に『愛の不時着』の影響だということを知った。
私が今回訪ねたところは「ホシギ2羽チキン」3号店。新大久保駅の近くにある。オク・ドンホ代表は新大久保に2015年に1号店を出し、2016年に3号店をオープンした。オク代表は「コロナのため大半の飲食店が厳しい状況を迎えているが、新大久保はまだましな方だ。特にチキンブームはドラマの影響も大きいようだ」と話した。
新型コロナでなければ新大久保は今よりはるかに混雑しているだろう。2012年に李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島(ドクト、日本名・竹島)を訪問した後、新大久保では韓国と在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチ(特定集団に対する嫌悪発言)があり、新大久保を訪れる人が急減した。ところが、この数年間は韓日関係とは関係なく訪問者が多い。オク代表は「韓流ファンに若い世代が増えたが、若者たちは韓日関係に左右されない」と話した。
鳥インフルエンザのため鶏肉は韓国から輸入できず日本国内で調達しているが、ヤンニョム(味付け)は韓国のホシギトゥマリチキン(=ホシギ2羽チキン)と同じものを使っているという。今回一緒に食べに行った日本の友人もヤンニョムチキンは初めてで、韓国旅行に来たようだと喜んでいた。オク代表は今年も新しい店舗を出す計画という。
チキン店が増えたもう一つの原因は新型コロナだ。日本では新型コロナ以前まではデリバリーが韓国ほど普及していなかったが、最近は急速に飲食品のデリバリーが増えている。その中でも人気のメニューがチキンだ。
Mr.チキンはデリバリー専門のチキン店で、2019年は2店舗だったが現在は10店舗に増えている。近いうちに追加で2店舗を増やす予定という。韓国フランチャイズではなく日本生まれのチキン店だ。パク・ジョンヒ代表は「日本の大規模なショッピングモールで『韓国風甘辛ソース唐揚げ』という名前でヤンニョムチキンに似たものを売っているのを見て日本でも売れそうだと思った」という。
Mr.チキンで人気メニューはヤンニョムチキンとハニーバターチキンだ。味は韓国風だが、量と価格は日本式に合わせた。日本では1人前のデリバリーが少なくないからだ。M、Lサイズに分け、Mサイズを780円と安い価格で売り始めた。これまで韓国チキンは1羽が基準で、価格もそれだけ高かった。店を始めてすぐに新型コロナが流行し、注文は大きく増えた。東京だけでなく神奈川や埼玉など首都圏にも店舗は広がっている。
日本で飲食品のデリバリーが増えたのは主に「ウーバーイーツ」を通じてだ。最近はウーバーイーツ(Uber Eats)と書かれた大きなバッグを背負って自転車で走る配達員をよく見かける。飲食店内の客は多くないが、配達員らが頻繁に店を出入りしている。日本では新型コロナ前まで見られなかった風景だ。
Mr.チキンが広く知られるようになったのはユーチューバーの動画が関係している。Mr.チキンはウーバーイーツアワード最優秀賞に選ばれたほど人気だ。パク代表は、新型コロナが落ち着いた後にも一度定着した配達文化は続くと予想し、「クラウドキッチン」事業も計画している。Mr.チキン以外の飲食店のメニューも共有のキッチンで料理して配達するサービスだ。
韓国ドラマで人気を得たのはチキンだけでない。例えば『愛の不時着』の次に人気があった「梨泰院(イテウォン)クラス』では、スンドゥブチゲなど韓国料理への関心が高まった。
昨年12月にはドラマに登場した料理のレシピを紹介する本『韓国ドラマ食堂』が日本で出版され、すでに第2刷が発行された。『椿の花咲く頃』に出てきたドゥルチギ、『サイコだけど大丈夫』に登場したうずら卵の醤油煮など、今まで日本であまり知られていなかった家庭料理も紹介された。この本には日本で手に入る材料で作れる料理のレシピが多い。
◆「サムギョプサルを食べて韓国庶民料理に関心」
韓国料理研究家の本田朋美氏が主にレシピを考案した。本田氏は商社で勤務していた当時、韓国への出張が多く、韓定食など高級韓国料理を食べる機会が多かった。ところが本田氏は「新大久保でサムギョプサルを食べて庶民的な韓国料理に魅力を感じた」という。その後、韓国に関心がある人たちが集まって韓国料理を作り始め、本格的に研究することになった。『韓国ドラマ食堂』では、できるだけ簡単に作ることができるレシピを考えた。出版後、料理が苦手な人たちからも「作ることができた」という声を聞くのがうれしいという。
コラムはコリアンフードコラムニストの八田靖史氏が担当した。もともと八田氏はSNSを通じて韓国ドラマに登場する韓国料理に関する写真と文を掲載していたが、反響が大きかったことが今回の出版のきっかけになった。八田氏は1999年に韓国に留学し、当時から韓国料理に関心を持ち始め、今まで日本で韓国料理に関する本を出版してきた。コラムはドラマの中の飲食がどんな役割をしているのか、その料理にはどんな意味が込められているのかなど、ドラマだけでは分からない解説を添えた。ドラマも料理も楽しむことができる内容だ。
新型コロナのため韓国には行けないが、韓国ドラマブームの中で代理満足のようにコリアタウンに行ったり、デリバリーで韓国料理を楽しんだり、家で韓国料理に挑戦する人が増えている。私も韓国に戻れないこの数カ月間、韓国料理の実力が向上したようだ。実際、韓国に滞在中は外食ができるため韓国料理をほとんど作っていなかったが、日本では自分で料理をする機会が増えた。ところでこの代理満足はいつ終わるのでしょうか。
成川彩/元朝日新聞記者
この記事を読んで…