これに対し文在寅政権はなぜこのように今回の事態に消極的なのか、元秘書室長らは首をかしげた。その上で用心深く２種類を指摘した。ひとつは大統領の性向だ。文大統領がもしかすると朴槿恵前大統領のように社交的でなく他の人たちとの交流を避けているのではないかということだ。文大統領は朴前大統領のように文字中心の書類報告が多いという。もうひとつは、大統領が北朝鮮を過度に意識したために参謀が報告をためらったのかもしれないと指摘した。文大統領は２０１８年６月１４日の米朝首脳会談直後と２０１９年３月４日のハノイ会談直後の２回だけＮＳＣ全体会議を開いた。大統領が主宰し首相と行政安全部長官まで参加するＮＳＣ全体会議は、それから１年半以上開かれていない。６月に北朝鮮が開城（ケソン）南北共同連絡事務所を爆破した時も、今回の公務員銃殺事件の時もＮＳＣ全体会議は開かなかった。代わりに安保室長が主宰するＮＳＣ常任委員会で代替された。南北首脳会談以降北朝鮮を刺激しないようにする意図がにじみ出る。

元秘書室長らは「振り返れば朴槿恵政権時代から青瓦台が何かおかしく変わった感じだった」と口をそろえた。弾劾後の検察調査で明らかになった秘線統治・密室政治の実状にはびっくりしたといった。チョン・ホソン元秘書官は「いわゆる『門番３人衆』という言葉をどう思うのか？」という検事の質問にこう答えた。「朴大統領は社交的であったり他の人との交流が多い方ではない。そのため私たちを通じて言葉を伝えてほしいという人も増え、大統領に会ったり電話するために私たちを通じることになるケースが多くなりそういう言葉ができたようだ」。

だがこの無味乾燥な陳述の裏にはセウォル号の悲劇が置かれている。検察の調査によると、２０１４年４月１６日に金章洙（キム・ジャンス）安保室長は午前１０時ごろ朴大統領の携帯電話に２度電話したがつながらなかった。彼はアン・ボングン秘書官に「大統領に報告されるよう措置してほしい」と頼んだ。もうひとつの経路はシン・インホ危機管理センター長が状況兵にセウォル号の急報を官邸に伝えるよう指示したものだ。状況兵が７分間走って持っていった報告書は官邸警護官の内室要員（当時７１歳、女性）を経て寝室前のテーブルに置かれた。この書類を大統領が読んだのかは不明だ。


アン秘書官は急いで青瓦台本館から車に乗り１０時２０分ごろ官邸に到着した。彼は寝室の前で大統領を数回呼んだ。その声を聞いて出てきた朴大統領に「国家安保室長が急いで通話を望んでいる」と報告した。朴大統領が「そうですか」として金章洙室長に電話をかけた時刻は午前１０時２２分。ゴールデンタイムが過ぎた後だった。

だが元秘書室長らがさらに驚いたことは別にある。検察の調査で事件当日に朴大統領が「Ａ級保安客」として官邸に入ってきた崔順実（チェ・スンシル）、そして門番３人衆とセウォル号会議をしたと明らかにされた。この会議で大統領の中央災害対策本部訪問が決定した。これに対し金淇春（キム・ギチュン）秘書室長は午後４時１０分に緊急首席秘書官会議を主宰したが大統領は参加しなかった。決定的な瞬間に、朴大統領はまともに行われていたリアルタイム情報から自ら隔離されてしまったのだ。そして経験が多く老練な金淇春秘書室長と金章洙安保室長の代わりに、官邸でアマチュアの裏勢力と額を突き合わせて最も重要な意志決定をした格好だ。弾劾と没落の不吉な兆しがちらつく部分だ。元秘書室長らは「秘線統治・密室政治の象徴的断面」と舌打ちした。

元秘書室長らによると、金泳三（キム・ヨンサム）、金大中（キム・デジュン）、盧武鉉（ノ・ムヒョン）、李明博大統領は勤勉で積極的だった。討論を楽しみ、報告チャンネルも常に開いていたという。大統領が秘書官らと一緒にたばこも吸って、気さくに秘書官の肩を叩いて「この前の報告書良かったよ」と励ましたりもした。元秘書室長らは「そういう雰囲気は大統領と秘書陣がともに作り出したもの」と振り返った。

青瓦台内部の疎通と報告は重要だ。今回の西海での公務員銃殺事件でその過程がねじれたため、いまになって与党議員が乗り出して無茶をしている。悲劇的事件まで陣営の論理で扱う。犠牲になった公務員が越北したと追い詰め、天人共怒する銃殺と遺体焼却を「コロナ防疫」で包み隠している。そこで元秘書室長らに最後に尋ねた。

Ｑ：いま青瓦台に聞かせたい話はあるか。

Ａ：「安保には進歩も保守もない。南北間ではささいな事件でもいつでも残酷な大規模武力衝突に飛び火しかねない。他の事案と違いとても鋭敏に扱い先制的に管理・対処しなければならない。そうでなければ安保が揺らぎ国民が不安に思うということを必ず記憶しておいてほしい」。

イ・チョルホ／中央日報コラムニスト


【コラム】元秘書室長ら「最近の韓国大統領府はおかしい」（１）