ワシントンポストのボブ・ウッドワード副編集長の新著『RAGE(怒り)』には、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が韓国を見下げる内容がある。金正恩委員長は昨年8月5日、トランプ米大統領に送った親書で「現在も未来も韓国の軍隊は私の敵にはならない」とし「我々は特別な手段がなくても強い軍隊を持ち、実際、韓国軍は私の軍隊の相手にならない」と主張した。2018年3月には、平壌(ピョンヤン)を訪問した当時のポンペオ米中央情報局(CIA)長官に対し、米国と戦争をする準備ができたという趣旨の発言をしたという。金正恩委員長が韓国軍を軽視する理由は、北朝鮮が核兵器を保有しているからだ。金正恩委員長の考えでは、核兵器を保有する北朝鮮は戦略国家として米国と対等な位置で交渉や戦争ができるが、核兵器がない韓国は将棋の歩兵のように戦略国家の争いで運命が決まるということだ。
金正恩委員長の主張は錯覚だ。韓国は通常戦力で北朝鮮を圧倒する。韓半島(朝鮮半島)上空を監視する烏山(オサン)の空軍作戦司令部中央防空統制所(MCRC)のレーダーを見ると、韓国の上空には多くの戦闘機と旅客機が表示されるが、北朝鮮の上空には飛行機がほとんどない。北朝鮮は航空燃料が不足し、戦闘機パイロットは訓練がほとんどできない。韓国が保有するF35やF15の戦闘機の性能は北朝鮮の主力戦闘機ミグ29を大きく上回る。海軍と陸軍の武器や装備も韓国が優れている。兵力の面では北朝鮮(約128万人)が韓国(約59万人)の倍以上だが、現代戦では軍人数より情報・先端武器が決定的な役割をすることを考慮すると、大きな意味があるとは考えにくい。軍事力を後押しする経済力で韓国は北朝鮮の50倍を超える。
韓国は核兵器を保有していないが、米国の核の傘の保護を受ける。金正恩委員長も韓国を核兵器で攻撃できるとは考えないだろう。そうすれば米国の核の報復で金正恩政権が崩壊するのはもちろん、北朝鮮は回復しがたい打撃を受ける。
それでも金正恩委員長が韓国を見下げるのには、文在寅(ムン・ジェイン)政権が自ら招いた側面がある。文政権はその間、北朝鮮との対話にこだわって北朝鮮の挑発にまともに対処してこなかった。北朝鮮が核を伝家の宝刀のように振りかざして韓国の生存を脅かす状況でも、米国・欧州など国際社会に制裁緩和を要請して抗議を受けたりもした。
李仁栄(イ・インヨン)統一部長官は16日、9・19平壌共同宣言2周年を控えて板門店を訪問し、「北側もそれなりに(9・19南北軍事)合意を遵守する意志があると考える」と述べた。昨年11月の西海(ソヘ、黄海)昌麟島(チャンリンド)海岸砲射撃訓練、今年6月の開城(ケソン)南北共同連絡事務所爆破など北朝鮮の一方的な軍事合意破棄を考慮すると、あきれるような発言だ。政府の対北朝鮮政策が北朝鮮非核化を目標にしているのか、それとも南北対話自体を目標にしているのか、混乱してしまうほどだ。
文政権は現実を直視する必要がある。文大統領は韓国戦争(朝鮮戦争)70年記念式で「南北間の体制競争はすでにかなり以前に終わった」と宣言した。金正恩委員長は正反対の考えを持っている。核兵器が南北体制競争で北朝鮮を優位に立たせたと信じている。北朝鮮が韓国を核で威嚇できないようにするには北朝鮮非核化を実現しなければいけない。そうしてこそ韓国の安全保障の不安が消え、自然に南北関係が改善する。
金正恩委員長にとって核は体制生存のための「万能の宝剣」だ。金正恩委員長に核を放棄させるには、強い対外圧力を通じて放棄するしかないよう導く必要がある。国連安保理の制裁で人道的支援を除いた経済協力の道はふさがっている。文政権がこれを避けて支援策を見いだそうとするのは、北朝鮮の非核化を事実上放置するのと変わらない。国民と子孫に大きな罪を犯すことになる。
今は国際社会と協調して対北朝鮮制裁の網を細かく張り、北朝鮮が持ちこたえられない程度にしなければいけない。北朝鮮が目も向けない協力提案で韓国の国格を自ら落とし、国際社会の冷たい視線を浴びるという失敗は避けなければいけない。制裁がまともに作動するよう米中の協力を誘導し、国際社会の一致した対応のために外交力量を注ぐ時だ。
申ガク秀(シン・ガクス)元外交部次官は「今は経済的・外交的な対北圧力に重点を置く時」とし「金正恩委員長に核・経済並進路線では生存が不可能だという点を気づかせるべきだ」と強調した。韓国政府は北朝鮮の非核化という戦略目標を確実にし、その実現に向けていかなる政策が必要かを考慮して取り組む必要がある。
チョン・ジェホン/国際外交安保エディター
金正恩委員長の主張は錯覚だ。韓国は通常戦力で北朝鮮を圧倒する。韓半島(朝鮮半島)上空を監視する烏山(オサン)の空軍作戦司令部中央防空統制所(MCRC)のレーダーを見ると、韓国の上空には多くの戦闘機と旅客機が表示されるが、北朝鮮の上空には飛行機がほとんどない。北朝鮮は航空燃料が不足し、戦闘機パイロットは訓練がほとんどできない。韓国が保有するF35やF15の戦闘機の性能は北朝鮮の主力戦闘機ミグ29を大きく上回る。海軍と陸軍の武器や装備も韓国が優れている。兵力の面では北朝鮮(約128万人)が韓国(約59万人)の倍以上だが、現代戦では軍人数より情報・先端武器が決定的な役割をすることを考慮すると、大きな意味があるとは考えにくい。軍事力を後押しする経済力で韓国は北朝鮮の50倍を超える。
韓国は核兵器を保有していないが、米国の核の傘の保護を受ける。金正恩委員長も韓国を核兵器で攻撃できるとは考えないだろう。そうすれば米国の核の報復で金正恩政権が崩壊するのはもちろん、北朝鮮は回復しがたい打撃を受ける。
それでも金正恩委員長が韓国を見下げるのには、文在寅(ムン・ジェイン)政権が自ら招いた側面がある。文政権はその間、北朝鮮との対話にこだわって北朝鮮の挑発にまともに対処してこなかった。北朝鮮が核を伝家の宝刀のように振りかざして韓国の生存を脅かす状況でも、米国・欧州など国際社会に制裁緩和を要請して抗議を受けたりもした。
李仁栄(イ・インヨン)統一部長官は16日、9・19平壌共同宣言2周年を控えて板門店を訪問し、「北側もそれなりに(9・19南北軍事)合意を遵守する意志があると考える」と述べた。昨年11月の西海(ソヘ、黄海)昌麟島(チャンリンド)海岸砲射撃訓練、今年6月の開城(ケソン)南北共同連絡事務所爆破など北朝鮮の一方的な軍事合意破棄を考慮すると、あきれるような発言だ。政府の対北朝鮮政策が北朝鮮非核化を目標にしているのか、それとも南北対話自体を目標にしているのか、混乱してしまうほどだ。
文政権は現実を直視する必要がある。文大統領は韓国戦争(朝鮮戦争)70年記念式で「南北間の体制競争はすでにかなり以前に終わった」と宣言した。金正恩委員長は正反対の考えを持っている。核兵器が南北体制競争で北朝鮮を優位に立たせたと信じている。北朝鮮が韓国を核で威嚇できないようにするには北朝鮮非核化を実現しなければいけない。そうしてこそ韓国の安全保障の不安が消え、自然に南北関係が改善する。
金正恩委員長にとって核は体制生存のための「万能の宝剣」だ。金正恩委員長に核を放棄させるには、強い対外圧力を通じて放棄するしかないよう導く必要がある。国連安保理の制裁で人道的支援を除いた経済協力の道はふさがっている。文政権がこれを避けて支援策を見いだそうとするのは、北朝鮮の非核化を事実上放置するのと変わらない。国民と子孫に大きな罪を犯すことになる。
今は国際社会と協調して対北朝鮮制裁の網を細かく張り、北朝鮮が持ちこたえられない程度にしなければいけない。北朝鮮が目も向けない協力提案で韓国の国格を自ら落とし、国際社会の冷たい視線を浴びるという失敗は避けなければいけない。制裁がまともに作動するよう米中の協力を誘導し、国際社会の一致した対応のために外交力量を注ぐ時だ。
申ガク秀(シン・ガクス)元外交部次官は「今は経済的・外交的な対北圧力に重点を置く時」とし「金正恩委員長に核・経済並進路線では生存が不可能だという点を気づかせるべきだ」と強調した。韓国政府は北朝鮮の非核化という戦略目標を確実にし、その実現に向けていかなる政策が必要かを考慮して取り組む必要がある。
チョン・ジェホン/国際外交安保エディター
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