文在寅(ムン・ジェイン)大統領は先週、6・10抗争33周年を迎え、故朴鍾哲(パク・ジョンチョル)さんが拷問で死亡したソウル南営洞(ナミョンドン)対共分室を訪れた。「葛藤と合意は民主主義の別の名前」とし「日常の民主主義のためによりいっそう努力する」と述べた。実情はどうか。2500年にわたり進化した民主主義の長所である多元的価値の共存は揺れている。政権の言路はふさがっている。
巨大与党はチョ・グク前法務長官と尹美香(ユン・ミヒャン)議員の偽善と堕落に対する内部の批判を防いでいる。高位公職者犯罪捜査処設置法案に棄権票を投じた琴泰燮(クム・テソプ)元議員を「強制的党論を違反した」として警告処分したのは憲法否定だ。憲法第46条第2項は「国会議員は国家の利益を優先して良心に従って職務を行う」としている。176議席の政党が一糸乱れぬ単一隊伍のために憲法機関の国会議員の所信を断罪すれば、自ら命をかけて戦った軍事独裁と何が違うのか。
国会法第114条の2(自由投票)は「議員は国民の代表者として所属政党の意思に拘束されず、良心に従って投票する」としている。金大中(キム・デジュン)大統領が結成した新千年民主党が2002年に主導して新設した条項だ。文大統領も大統領選候補当時は「強制的党論をやめる」と約束した。このように自ら作った敬けんな成文律と約束は紙くずになってしまった。
文大統領と民主党は「金大中精神を継承する」と言うが、口だけだ。金大中元大統領はいつも両足をしっかりと地につけていた。熱烈な民主主義崇拝者だったが、独裁者の真意も理解しようと努めたリアリストだった。
今の民主党は初めての有利な政治環境を手に入れてもどたばたしている。単独で第21代国会を開会すると、自分たちで国会議長を選出し、18の常任委員長を独占する姿だ。ふさがったアポリアの状況で共同体の突破口を開くには、妥協と自己否定の決断を出さなければいけない政治の本質を把握していない。巨人の不在が残念だ。
民主党国会議員の金大中は1964年に朴正熙(パク・ジョンヒ)大統領が推進した韓日国交正常化に反対しなかった。野党と各界代表200人余りが「対日屈辱外交反対汎国民闘争委員会」を構成し、尹ボ善(ユン・ボソン)が「朴正熙は売国奴」と宣戦布告した当時だった。時流に便乗せず逆走した。
金大中は北朝鮮・中国・ソ連に囲まれた韓国が日本まで潜在的な敵にすることはできないと判断した。経済強国に成長する日本との関係正常化を先延ばしにすれば世界の流れを逃し、自分たちだけが孤立すると懸念した。それで「政府案が出てきただけに野党も適切な代案を用意して戦わなければいけない」とし「相互利益が保障された協議案なら野党も反対してはいけない」と述べた。
金大中は「与党スパイ」「サクラ」と呼ばれた。「朝興銀行南大門支店から3000万ウォンを受けた」として小切手番号まで出回った。金大中は屈することなく木浦(モクポ)市民1万人を相手に「国家利益のために避けられない」と説得した。反感を抱いた梨花(イファ)女子大生とも討論した。2人の息子は学校で除け者にされた。金大中は「苦しさが全身を刺した」と自叙伝で表現した。朴正熙は「尹ボ善氏の売国論は時代錯誤的であり無視すればよいことだ。しかし金大中議員のように韓日会談の原則には賛成しながらも代案を持って論駁してくれば対応するのが難しくなる」と吐露した。
苦難の歳月を共に乗り越えた同志意識で一つになった文在寅政権は「我々だけが正しい」という集団思考の罠に陥っている。時代錯誤だ。民主対反民主の単純な図式では、この広くて複雑な世界を把握することはできない。米国の言論人ウォルター・リップマンは「みんなが同じように考えているときは、誰も深く考えていないときだ」と言った。異質な人の経験と論理を助詞一つ逃さず傾聴し、自分の考えを必死に変えていかなければいけない。
この政権が直面した経済と防疫の危機は深刻だ。米中は選択を強要し、北朝鮮は対南報復と軍事行動で脅迫している。韓日関係は悪化の一途だ。人と政策をともに変えるべきだが、「うまくいっている」という龍飛御天歌(朝鮮を称える詩)ばかりが聞こえる。むしろ総選挙で惨敗した未来統合党が変わっている。金鍾仁(キム・ジョンイン)氏を非常対策委員長として迎えた後、保守一辺倒だった慣性を破って中道にも目を向け始めた。民心が背を向ければ恐ろしい結果ももたらすこともある。
反対の意見に耐えられない政治家は民主主義と親しくなれない。ジョン・F・ケネディ米大統領は1962年のキューバ危機当時、弟のロバート・ケネディ司法長官に「悪魔の弁護人」の役割を任せた。強硬派が主導した集団思考を破って第3次世界大戦を防いだ。現在、韓国の日常の民主主義は虹の向こうの抽象的な旗よりも遠くにある。文大統領は「サクラ」金大中を保護した朴順天(パク・スンチョン)総裁の包容力を見習う必要がある。
歴史の試験台に立った大統領は、腕章をはめて目をむきながらすごむ軍紀班長とは違わなければいけない。気に障っても琴泰燮元議員の勇気と所信を赦免しなければいけない。それがふさがった言路を開いて日常の民主主義を実現する道だ。
李夏慶(イ・ハギョン)/主筆
巨大与党はチョ・グク前法務長官と尹美香(ユン・ミヒャン)議員の偽善と堕落に対する内部の批判を防いでいる。高位公職者犯罪捜査処設置法案に棄権票を投じた琴泰燮(クム・テソプ)元議員を「強制的党論を違反した」として警告処分したのは憲法否定だ。憲法第46条第2項は「国会議員は国家の利益を優先して良心に従って職務を行う」としている。176議席の政党が一糸乱れぬ単一隊伍のために憲法機関の国会議員の所信を断罪すれば、自ら命をかけて戦った軍事独裁と何が違うのか。
国会法第114条の2(自由投票)は「議員は国民の代表者として所属政党の意思に拘束されず、良心に従って投票する」としている。金大中(キム・デジュン)大統領が結成した新千年民主党が2002年に主導して新設した条項だ。文大統領も大統領選候補当時は「強制的党論をやめる」と約束した。このように自ら作った敬けんな成文律と約束は紙くずになってしまった。
文大統領と民主党は「金大中精神を継承する」と言うが、口だけだ。金大中元大統領はいつも両足をしっかりと地につけていた。熱烈な民主主義崇拝者だったが、独裁者の真意も理解しようと努めたリアリストだった。
今の民主党は初めての有利な政治環境を手に入れてもどたばたしている。単独で第21代国会を開会すると、自分たちで国会議長を選出し、18の常任委員長を独占する姿だ。ふさがったアポリアの状況で共同体の突破口を開くには、妥協と自己否定の決断を出さなければいけない政治の本質を把握していない。巨人の不在が残念だ。
民主党国会議員の金大中は1964年に朴正熙(パク・ジョンヒ)大統領が推進した韓日国交正常化に反対しなかった。野党と各界代表200人余りが「対日屈辱外交反対汎国民闘争委員会」を構成し、尹ボ善(ユン・ボソン)が「朴正熙は売国奴」と宣戦布告した当時だった。時流に便乗せず逆走した。
金大中は北朝鮮・中国・ソ連に囲まれた韓国が日本まで潜在的な敵にすることはできないと判断した。経済強国に成長する日本との関係正常化を先延ばしにすれば世界の流れを逃し、自分たちだけが孤立すると懸念した。それで「政府案が出てきただけに野党も適切な代案を用意して戦わなければいけない」とし「相互利益が保障された協議案なら野党も反対してはいけない」と述べた。
金大中は「与党スパイ」「サクラ」と呼ばれた。「朝興銀行南大門支店から3000万ウォンを受けた」として小切手番号まで出回った。金大中は屈することなく木浦(モクポ)市民1万人を相手に「国家利益のために避けられない」と説得した。反感を抱いた梨花(イファ)女子大生とも討論した。2人の息子は学校で除け者にされた。金大中は「苦しさが全身を刺した」と自叙伝で表現した。朴正熙は「尹ボ善氏の売国論は時代錯誤的であり無視すればよいことだ。しかし金大中議員のように韓日会談の原則には賛成しながらも代案を持って論駁してくれば対応するのが難しくなる」と吐露した。
苦難の歳月を共に乗り越えた同志意識で一つになった文在寅政権は「我々だけが正しい」という集団思考の罠に陥っている。時代錯誤だ。民主対反民主の単純な図式では、この広くて複雑な世界を把握することはできない。米国の言論人ウォルター・リップマンは「みんなが同じように考えているときは、誰も深く考えていないときだ」と言った。異質な人の経験と論理を助詞一つ逃さず傾聴し、自分の考えを必死に変えていかなければいけない。
この政権が直面した経済と防疫の危機は深刻だ。米中は選択を強要し、北朝鮮は対南報復と軍事行動で脅迫している。韓日関係は悪化の一途だ。人と政策をともに変えるべきだが、「うまくいっている」という龍飛御天歌(朝鮮を称える詩)ばかりが聞こえる。むしろ総選挙で惨敗した未来統合党が変わっている。金鍾仁(キム・ジョンイン)氏を非常対策委員長として迎えた後、保守一辺倒だった慣性を破って中道にも目を向け始めた。民心が背を向ければ恐ろしい結果ももたらすこともある。
反対の意見に耐えられない政治家は民主主義と親しくなれない。ジョン・F・ケネディ米大統領は1962年のキューバ危機当時、弟のロバート・ケネディ司法長官に「悪魔の弁護人」の役割を任せた。強硬派が主導した集団思考を破って第3次世界大戦を防いだ。現在、韓国の日常の民主主義は虹の向こうの抽象的な旗よりも遠くにある。文大統領は「サクラ」金大中を保護した朴順天(パク・スンチョン)総裁の包容力を見習う必要がある。
歴史の試験台に立った大統領は、腕章をはめて目をむきながらすごむ軍紀班長とは違わなければいけない。気に障っても琴泰燮元議員の勇気と所信を赦免しなければいけない。それがふさがった言路を開いて日常の民主主義を実現する道だ。
李夏慶(イ・ハギョン)/主筆
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