「お茶を飲むメドベージェフ大統領」

ロイター通信が２０１１年９月２８日に報道した写真記事の見出しだ。

ロイターはロシアのメドベージェフ大統領（当時、現首相）がモスクワ人民友好大学を訪問した際に写真を撮影した。写真が韓国の食品業界の話題を集めたのは大統領のティーカップの横に置かれたチョコパイのためだった。


このようにオリオンのチョコパイは６０カ国余りで販売されるグローバル人気製品だ。６０カ国で年間４１５０億ウォン相当が売れる。

◇「カビの生えたチョコパイ」燃やし禍転じて福となす

世界的な人気を得ているオリオンのチョコパイは偶然の機会に作られた。１９７０年代初めに食品工業協会（現食品産業協会）の主管でオリオン研究所のスタッフは米国など先進国を視察する。ここで訪問したあるカフェテリアで牛乳とともに出てきたチョココーティング菓子を味わい彼らは新製品のアイデアを得た。約２年にわたる実験・開発を通じ１９７４年４月にチョコパイが誕生した。

発売から４５年にわたりチョコパイは食品を超え韓国人の心を癒やす媒介体として活躍した。「情」キャンペーン広告のおかげだ。オリオンは１９８９年から２０本以上のチョコパイ情シリーズ広告を公開してきた。「引っ越しの日」「叔父が軍隊に行く日」「おばあちゃんの家訪問」など、現代人が忘れている家族や隣人同士の情を思い出させる広告だ。こうしたキャンペーンの一環で１９９４年から１９９８年まで机とイス交換キャンペーンを行い、小学校の机とイス２万組以上を交換した。

また、２０１７年には建軍６９周年国軍の日を迎えて国軍将兵にチョコパイギフトセット１万箱を送った。直径７０センチ、高さ２０センチ、重さ２１キログラムを超える超大型チョコパイが建国６９周年国軍の日記念式に使われたりもした。

チョコパイが韓国を超えて世界の人たちの人気を集める過程では曲折もあった。１９９５年に中国生産工場を建設した当時、チョコパイからかびが見つかった。同年夏に中国南部地域で発生した梅雨のためだ。当時チョコパイは韓国より高温多湿な現地の気候に耐え抜くことができなかった。

これに対しオリオンは生産製品全量をリコールし、回収された製品１０万個を１カ所に集めて焼却した。相当な損失だったが、「チョコパイを焼却処分した」といううわさが中国全域に広がり、むしろオリオンは中国の消費者の信頼を得ることができた。

チョコパイ焼却事件はオリオン本社がかびに対し考え直す契機だった。１９９６年にチョコパイ開発チームは１年余りにわたり新製品を発売しないでチョコパイに取り組んだ。最適な水分含有量を探すために手術用メスを使って精巧にパイを分解した。水分含有量（１０～１５％）を調節し微生物の繁殖状態を研究した。１年にわたる研究の末に最適な水分含有量１３％を見つけ出した。おかげで防腐剤やアルコールを全く使わずにチョコパイは酷寒のロシアから熱砂の土地中東まで６カ月間変わらない品質を維持できた。

◇６０カ国で年間４１５０億ウォン売れる

おかげでオリオンのチョコパイは世界６０カ国で年間２０億個以上売れる。オリオンはチョコパイが売れる国を開拓し、これを「パイロード」と呼ぶ。中国が西域と貿易してシルクロードを開拓したように、チョコパイが世界共通の交通路になっているという自負心のためだ。

韓国人に「情」が格別なように、中国人が人間関係で最も重視する価値が「仁」だ。オリオンはこの点に着眼し、２００８年末から「好麗友」（チョコパイの中国名、良い友人の意）の包装紙に「仁」の字を挿入している。２０１６年８月にはお茶を好んで飲む中国人の特性に合わせ、抹茶味の「チョコパイ抹茶」を発売した。チョコパイは４年連続で中国ブランド　パワー指数（Ｃ－ＢＰＩ）のパイ部門で１位だ。

ベトナムでは２００９年から現地語で「情」を意味する「Ｔｉｎｈ」という単語を活用したマーケティング活動を展開した。一部のベトナム人は祭祀で祭壇への供え物としてチョコパイを愛用するという。

ロシアは家族や友人が集まってお茶とともにチョコレート、ケーキ、ビスケットなどを食べる文化が発達した。人間関係を重視するロシア人の性向に注目したオリオンはみんなでチョコパイを分け合って食べる仲むつまじい姿を広告で演出した。

このほか豚肉を食べないイスラム文化圏の国ではチョコパイに牛皮ゼラチンを使ってハラル認証を受け、ヒンズー教を信じるインドでは海草類から抽出した植物性ゼラチンを原料に使って人気製品に浮上した。