昨年9月、韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は茫然自失した。一時的だと思われた雇用不振が前月に続いて現れたためだった。8月の就業者増加規模は3000人。7月の5000人増加より悪化した。雇用惨事だった。「7月の就業者増加は極度に振るわなかったが一時的現象と思われた。翌月には反騰すると考えたがそうでなかった。明確な理由を探すことはできなかった」(韓国銀行関係者)。
普段20万件以上が容易に生じていた雇用が突然1万件前後に落ち込んだのは韓国経済のミステリーだ。ただ無理な最低賃金引き上げを主軸とする韓国政府の所得主導成長が問題を起こしたという点は否定しがたい。多くの主流経済学者が所得主導成長が市場をゆがめて雇用状況を厳しくさせたという批判に加勢したのもこうした認識のためとみられる。
もちろん所得主導成長に対する叱責が過度だという反論もある。そのうちのひとつは過去の政権でさまざまな危機を扱った元長官の分析だ。「世界11番目の規模の経済がいくつかの政府政策で成長率が下落し企業の意欲が折れたというのは話にならない。ほとんど諸葛孔明が来てもできないことだ。いまの批判は下り坂で転ぶ直前なのに後から手を当てられたとして『おまえが押し倒したんだろう!』というのと同じだ」。
しかししっかりとつかんでいてもうまくいかない下り坂に生半可に手を付けたのは誤りだ。しかも最低賃金の急速な引き上げに対する市場の警告を無視して走った責任は軽くない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は最近青瓦台(チョンワデ、大統領府)を訪れた自営業者に「最低賃金が先に引き上げられ補完措置は国会立法事項のため同じ速度に合わせられずにいる。小商工人や自営業者にいつも申し訳ない気持ちだ」と謝った。文大統領が話す補完措置はカード手数料引き下げ、雇用安定資金支援、4大保険料支援、商店街賃貸借保護などだ。準備不足の最低賃金引き上げが現場でどのような混乱を生じさせたかに対する大統領の認識は妥当だ。所得主導成長が絶対不可侵の聖域同然だった政権発足当初と比較すると相当な変化だ。彼の謝罪も心からのものだろう。しかしそうした補完策なく所得主導成長を押し進めたこともやはり認めているので聞く人の胸を苦しくする。国の経済と民生が新しい政策の実験対象であってはならない。
通貨危機以降最悪を記録した1月の雇用動向を見ると政府の雇用対策はまだ見当違いをしているようだ。韓国経済の主軸である30代と40代では昨年より就業者が29万2000人減った。家庭の家長である彼らの就職難は家計に濃厚な暗雲を垂らすだろう。業種別では製造業の就業者が17万人減り、卸・小売業が6万7000人、宿泊・飲食業が4万人減少した。建設業も1万9000人減った。
懸念があるのはこのマイナス行進が短期間に反転する雰囲気ではない点だ。製造業の不振は容易に回復できそうになく、内需は底を知らずに急落している。建設業は不動産市場冷え込みの直撃弾を受けている。市場が凍りつき取引ができないので家を作ろうという動きが萎縮している。今年雇用15万件を増やすという政府の目標は水泡に帰したようにみられる。政府が財政を緩和して雇用を増やした保健・社会福祉サービス業のほかに就業者が明確に増えた分野は情報通信業(9万4000人)だ。第4次産業革命が盛んに進んでいる分野だ。数億ウォン台の負債を抱えて破産した40~50代の自営業者はいったいどの分野で新しい仕事を見つけるのか。彼らの再起を助けることができるオーダーメード型雇用対策が急がれるばかりだ。
最近文大統領の盛んな経済関連の歩みの報道で注目すべきことは出席者が大統領に吐き出す直接的な話だ。普段おとなしかったベンチャー企業家は文大統領に「韓国ベンチャーがグローバル企業に比べ逆差別を受けている」「週52時間はもうひとつの規制」「政府が支援してでも市場経済の健全性を維持させてほしい」などの要求を浴びせた。自営業者は「来年の最低賃金を据え置いてほしい」と訴えた。大統領の前ではばかることのない彼らの建議の実状は「助けてくれ」という絶叫と変わらない。
ベンチャー第1世代に挙げられるソカーのイ・ジェウン代表が「社会的大妥協」を強調する洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相を狙って「どの時代の副首相かわからない」と批判したのも、これ以上まごついていては共有経済競争で一瞬にして押し出されかねないという危機感の発露とみられる。現在の経済的難題を解く解決策はもしかしたら単純かもしれない。文大統領が企業家と自営業者から聞いたことを十分にかみしめてそのまま実行すれば良い。生活が苦しいから最低賃金引き上げを当分保留しようということが、既得権がかかった利害関係者ではなく恩恵を受けることになる国民を考えて規制を廃止しようということがそんなに難しいのか。
イ・サンリョル/エディター
普段20万件以上が容易に生じていた雇用が突然1万件前後に落ち込んだのは韓国経済のミステリーだ。ただ無理な最低賃金引き上げを主軸とする韓国政府の所得主導成長が問題を起こしたという点は否定しがたい。多くの主流経済学者が所得主導成長が市場をゆがめて雇用状況を厳しくさせたという批判に加勢したのもこうした認識のためとみられる。
もちろん所得主導成長に対する叱責が過度だという反論もある。そのうちのひとつは過去の政権でさまざまな危機を扱った元長官の分析だ。「世界11番目の規模の経済がいくつかの政府政策で成長率が下落し企業の意欲が折れたというのは話にならない。ほとんど諸葛孔明が来てもできないことだ。いまの批判は下り坂で転ぶ直前なのに後から手を当てられたとして『おまえが押し倒したんだろう!』というのと同じだ」。
しかししっかりとつかんでいてもうまくいかない下り坂に生半可に手を付けたのは誤りだ。しかも最低賃金の急速な引き上げに対する市場の警告を無視して走った責任は軽くない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は最近青瓦台(チョンワデ、大統領府)を訪れた自営業者に「最低賃金が先に引き上げられ補完措置は国会立法事項のため同じ速度に合わせられずにいる。小商工人や自営業者にいつも申し訳ない気持ちだ」と謝った。文大統領が話す補完措置はカード手数料引き下げ、雇用安定資金支援、4大保険料支援、商店街賃貸借保護などだ。準備不足の最低賃金引き上げが現場でどのような混乱を生じさせたかに対する大統領の認識は妥当だ。所得主導成長が絶対不可侵の聖域同然だった政権発足当初と比較すると相当な変化だ。彼の謝罪も心からのものだろう。しかしそうした補完策なく所得主導成長を押し進めたこともやはり認めているので聞く人の胸を苦しくする。国の経済と民生が新しい政策の実験対象であってはならない。
通貨危機以降最悪を記録した1月の雇用動向を見ると政府の雇用対策はまだ見当違いをしているようだ。韓国経済の主軸である30代と40代では昨年より就業者が29万2000人減った。家庭の家長である彼らの就職難は家計に濃厚な暗雲を垂らすだろう。業種別では製造業の就業者が17万人減り、卸・小売業が6万7000人、宿泊・飲食業が4万人減少した。建設業も1万9000人減った。
懸念があるのはこのマイナス行進が短期間に反転する雰囲気ではない点だ。製造業の不振は容易に回復できそうになく、内需は底を知らずに急落している。建設業は不動産市場冷え込みの直撃弾を受けている。市場が凍りつき取引ができないので家を作ろうという動きが萎縮している。今年雇用15万件を増やすという政府の目標は水泡に帰したようにみられる。政府が財政を緩和して雇用を増やした保健・社会福祉サービス業のほかに就業者が明確に増えた分野は情報通信業(9万4000人)だ。第4次産業革命が盛んに進んでいる分野だ。数億ウォン台の負債を抱えて破産した40~50代の自営業者はいったいどの分野で新しい仕事を見つけるのか。彼らの再起を助けることができるオーダーメード型雇用対策が急がれるばかりだ。
最近文大統領の盛んな経済関連の歩みの報道で注目すべきことは出席者が大統領に吐き出す直接的な話だ。普段おとなしかったベンチャー企業家は文大統領に「韓国ベンチャーがグローバル企業に比べ逆差別を受けている」「週52時間はもうひとつの規制」「政府が支援してでも市場経済の健全性を維持させてほしい」などの要求を浴びせた。自営業者は「来年の最低賃金を据え置いてほしい」と訴えた。大統領の前ではばかることのない彼らの建議の実状は「助けてくれ」という絶叫と変わらない。
ベンチャー第1世代に挙げられるソカーのイ・ジェウン代表が「社会的大妥協」を強調する洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相を狙って「どの時代の副首相かわからない」と批判したのも、これ以上まごついていては共有経済競争で一瞬にして押し出されかねないという危機感の発露とみられる。現在の経済的難題を解く解決策はもしかしたら単純かもしれない。文大統領が企業家と自営業者から聞いたことを十分にかみしめてそのまま実行すれば良い。生活が苦しいから最低賃金引き上げを当分保留しようということが、既得権がかかった利害関係者ではなく恩恵を受けることになる国民を考えて規制を廃止しようということがそんなに難しいのか。
イ・サンリョル/エディター
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