◇米中海軍の矛と盾
米軍は新年早々から南シナ海で「航行の自由作戦」を行った。英国も米国の作戦に合流した。中国の反発は激しい。空母が撃沈されれば乗組員5000人が命を失うとして脅しをかけた。言葉の爆弾だが中国が米軍空母の撃沈を口にする状況にまできたのだ。両国は直接衝突こそ避けているが、南シナ海の領有権認定をめぐり緊張のレベルは高まっている。紛争の海に変わっている南シナ海の米中軍事対立の現況を調べてみよう。
南シナ海の米中対立の根は人民解放軍の劉華清上将が提起した列島線戦略だ。島を結ぶ線という意味の列島線は太平洋上に位置した島々をつなぐ仮想の線だ。この線を一種の垣根に設定して外部海洋勢力の接近を遮断し、垣根の中の海洋を支配するというのが中国の列島線戦略だ。マラッカ海峡-フィリピン-台湾-九州-クリル列島を結ぶ第1列島線、パプアニューギニア-サイパン-グアム-小笠原諸島を結ぶ第2列島線、アリューシャン列島-ハワイ-ニュージーランドを結ぶ第3列島線で構成される。
第1列島線戦略の核心武器は中国が「空母キラー」と呼ぶ東風-21D(DF-21D)対艦弾道ミサイル(ASBM)と潜水艦戦力だ。米国防総省はこのASBMが最小1500キロメートル以上の射程距離とマッハ10に達する終末速度を持つと把握している。DF-21Dの弾頭は在来式弾頭だが核弾頭の搭載も可能だ。中国が第1列島線内で米空母戦団の動きを確実に遮断できると自信を持つ理由だ。
中国は2種9隻の攻撃用原子力潜水艦と4種58隻の在来式潜水艦を保有している。攻撃用原子力潜水艦は新型の093型だ。093型潜水艦は旧ソ連のビクターIIIの技術を応用して開発し、在来式潜水艦である039シリーズはロシアのキロ級潜水艦の拡大改良型だ。これらの潜水艦は米国と日本などの新型潜水艦と比較すると静粛性やセンサー能力など全般的な性能は落ちるものと評価される。だが中国近海や第1列島線内で待ち伏せ・遮断任務を遂行するならば相当な威力を発揮すると予想される。
第2列島線防衛には航空機が動員される。最近中国は既存のH-6爆撃機を大幅に改良したH-6K爆撃機とH-6N爆撃機を東部と南部戦区の航空部隊に集中配備している。H-6K爆撃機には射程距離400キロメートル、巡航速度マッハ4に達する鷹撃-12(YJ-12)超音速対艦ミサイル6発が搭載される。一般的に対艦ミサイルの速度がマッハ0.9を超えるケースは多くない点を考慮すると、音速の4倍の速度で飛んでくるYJ-12は極めて脅威だ。中国はここに満足せずASBMのDF-21Dを空中発射型に改造した射程距離2000~3000キロメートル級の空中発射弾道ミサイル搭載H-6N爆撃機も配備している。
第3列島線防衛の核心戦力は空母戦団だ。中国は旧ソ連の未完成空母を購入して改造した遼寧号、これを拡大改良した山東号の2隻の空母を保有している。ここに2030年までに独自開発した大型航母2隻をさらに確保し、30隻以上の大型駆逐艦を建造して4個以上の空母戦団を保有する予定だ。この空母船団に載せる新型ステルス戦闘機と電子線攻撃機も実戦配備が進行中であるか開発完了が迫っている状態だ。
米国は慌ただしくなった。米軍は中国の列島線戦略を接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略と命名し対応戦略と戦力確保に拍車をかけている。
当初米国が中国のA2/ADに対抗して立案した対応概念は公海戦闘(Air-Sea Battle)だった。公海戦闘は海軍・空軍の戦力を有機的に統合して相乗効果を最大化し、これを通じて中国のA2/AD手段を制圧することにより作戦地域内で米軍戦力の円滑な勢力投射を保障するという概念だ。しかしこの公海戦闘概念は中国の軍事力手段破壊にあまりに重点を置くもので、ややもすると中国が意図する長期消耗戦に巻き込まれる可能性が大きいという懸念から、2015年にJAM-GC概念に事実上代替された。JAM-GCは「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想」で、公海戦闘概念と違い中国の「意志」を無力化することにさらに重点を置いている。
JAM-GCの第1段階は電子戦とサイバー戦を含む全方向的な大規模情報戦だ。中国の軍事的行動が迫っていると判断すればすぐに大々的なサイバー攻撃と電子戦攻撃を通じ中国の国家・軍電算網を完全にまひさせることで軍事行動自体を遮断し戦争拡大を抑制するという概念だ。このため米軍は高度なサイバー戦で敵の軍電算網と武器システムそのものを無力化させる「発射の左側(Left of launch)」概念を導入した。ミサイル発射を「準備→発射→上昇→下降」の段階に分けた時に発射より左側にある準備段階でかく乱するという意味のコード名だ。また、長距離ミサイルに高出力マイクロウエーブ(HPM)放出装置を搭載し広い地域のレーダーと兵器の回路を焼いてしまう別名「CHAMP(Counter-electronics High Power Microwave Advanced Missile Project)」という武器も開発している。
もし第1段階作戦が失敗すれば第2段階作戦へ移る。この段階は先端兵器を利用して中国の攻撃を防御し、素早く攻勢に転換して中国の主要戦力を速やかに破壊することを目標にする。中国の攻撃を防御するための手段としては衛星と早期警報機、偵察機、イージス艦など多様な監視偵察資産とSM-3、THAADなど多様な迎撃手段をひとつのネットワークとしてまとめリアルタイムで同時統制するシステムが開発されている。打撃手段としてはF-35戦闘機とこれを補助するMQ-25ステルス無人空中給油機、JASSM-XR長距離打撃ミサイルなどが相次いで登場している。
最後の第3段階では陸軍と海兵隊が中心となって中国の核心拠点に対する強制進入作戦を開始する。これを通じ中国の戦争遂行の意志を確実に破壊するということだ。
3つの列島線と3段階の反列島線戦略がぶつかり合っている。この構図の中では無限大の軍備競争を避けることはできない。どちらかひとつが決定的な優位を占めるまでこの角逐は止まらない。貿易と違い交渉ではなく実力差だけがこの疾走を止まらせるだろう。ゲームチェンジャーはだれが先に作ることになるのか、世界が注目している。
イ・イルウ/自主国防ネットワーク事務局長
米軍は新年早々から南シナ海で「航行の自由作戦」を行った。英国も米国の作戦に合流した。中国の反発は激しい。空母が撃沈されれば乗組員5000人が命を失うとして脅しをかけた。言葉の爆弾だが中国が米軍空母の撃沈を口にする状況にまできたのだ。両国は直接衝突こそ避けているが、南シナ海の領有権認定をめぐり緊張のレベルは高まっている。紛争の海に変わっている南シナ海の米中軍事対立の現況を調べてみよう。
南シナ海の米中対立の根は人民解放軍の劉華清上将が提起した列島線戦略だ。島を結ぶ線という意味の列島線は太平洋上に位置した島々をつなぐ仮想の線だ。この線を一種の垣根に設定して外部海洋勢力の接近を遮断し、垣根の中の海洋を支配するというのが中国の列島線戦略だ。マラッカ海峡-フィリピン-台湾-九州-クリル列島を結ぶ第1列島線、パプアニューギニア-サイパン-グアム-小笠原諸島を結ぶ第2列島線、アリューシャン列島-ハワイ-ニュージーランドを結ぶ第3列島線で構成される。
第1列島線戦略の核心武器は中国が「空母キラー」と呼ぶ東風-21D(DF-21D)対艦弾道ミサイル(ASBM)と潜水艦戦力だ。米国防総省はこのASBMが最小1500キロメートル以上の射程距離とマッハ10に達する終末速度を持つと把握している。DF-21Dの弾頭は在来式弾頭だが核弾頭の搭載も可能だ。中国が第1列島線内で米空母戦団の動きを確実に遮断できると自信を持つ理由だ。
中国は2種9隻の攻撃用原子力潜水艦と4種58隻の在来式潜水艦を保有している。攻撃用原子力潜水艦は新型の093型だ。093型潜水艦は旧ソ連のビクターIIIの技術を応用して開発し、在来式潜水艦である039シリーズはロシアのキロ級潜水艦の拡大改良型だ。これらの潜水艦は米国と日本などの新型潜水艦と比較すると静粛性やセンサー能力など全般的な性能は落ちるものと評価される。だが中国近海や第1列島線内で待ち伏せ・遮断任務を遂行するならば相当な威力を発揮すると予想される。
第2列島線防衛には航空機が動員される。最近中国は既存のH-6爆撃機を大幅に改良したH-6K爆撃機とH-6N爆撃機を東部と南部戦区の航空部隊に集中配備している。H-6K爆撃機には射程距離400キロメートル、巡航速度マッハ4に達する鷹撃-12(YJ-12)超音速対艦ミサイル6発が搭載される。一般的に対艦ミサイルの速度がマッハ0.9を超えるケースは多くない点を考慮すると、音速の4倍の速度で飛んでくるYJ-12は極めて脅威だ。中国はここに満足せずASBMのDF-21Dを空中発射型に改造した射程距離2000~3000キロメートル級の空中発射弾道ミサイル搭載H-6N爆撃機も配備している。
第3列島線防衛の核心戦力は空母戦団だ。中国は旧ソ連の未完成空母を購入して改造した遼寧号、これを拡大改良した山東号の2隻の空母を保有している。ここに2030年までに独自開発した大型航母2隻をさらに確保し、30隻以上の大型駆逐艦を建造して4個以上の空母戦団を保有する予定だ。この空母船団に載せる新型ステルス戦闘機と電子線攻撃機も実戦配備が進行中であるか開発完了が迫っている状態だ。
米国は慌ただしくなった。米軍は中国の列島線戦略を接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略と命名し対応戦略と戦力確保に拍車をかけている。
当初米国が中国のA2/ADに対抗して立案した対応概念は公海戦闘(Air-Sea Battle)だった。公海戦闘は海軍・空軍の戦力を有機的に統合して相乗効果を最大化し、これを通じて中国のA2/AD手段を制圧することにより作戦地域内で米軍戦力の円滑な勢力投射を保障するという概念だ。しかしこの公海戦闘概念は中国の軍事力手段破壊にあまりに重点を置くもので、ややもすると中国が意図する長期消耗戦に巻き込まれる可能性が大きいという懸念から、2015年にJAM-GC概念に事実上代替された。JAM-GCは「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想」で、公海戦闘概念と違い中国の「意志」を無力化することにさらに重点を置いている。
JAM-GCの第1段階は電子戦とサイバー戦を含む全方向的な大規模情報戦だ。中国の軍事的行動が迫っていると判断すればすぐに大々的なサイバー攻撃と電子戦攻撃を通じ中国の国家・軍電算網を完全にまひさせることで軍事行動自体を遮断し戦争拡大を抑制するという概念だ。このため米軍は高度なサイバー戦で敵の軍電算網と武器システムそのものを無力化させる「発射の左側(Left of launch)」概念を導入した。ミサイル発射を「準備→発射→上昇→下降」の段階に分けた時に発射より左側にある準備段階でかく乱するという意味のコード名だ。また、長距離ミサイルに高出力マイクロウエーブ(HPM)放出装置を搭載し広い地域のレーダーと兵器の回路を焼いてしまう別名「CHAMP(Counter-electronics High Power Microwave Advanced Missile Project)」という武器も開発している。
もし第1段階作戦が失敗すれば第2段階作戦へ移る。この段階は先端兵器を利用して中国の攻撃を防御し、素早く攻勢に転換して中国の主要戦力を速やかに破壊することを目標にする。中国の攻撃を防御するための手段としては衛星と早期警報機、偵察機、イージス艦など多様な監視偵察資産とSM-3、THAADなど多様な迎撃手段をひとつのネットワークとしてまとめリアルタイムで同時統制するシステムが開発されている。打撃手段としてはF-35戦闘機とこれを補助するMQ-25ステルス無人空中給油機、JASSM-XR長距離打撃ミサイルなどが相次いで登場している。
最後の第3段階では陸軍と海兵隊が中心となって中国の核心拠点に対する強制進入作戦を開始する。これを通じ中国の戦争遂行の意志を確実に破壊するということだ。
3つの列島線と3段階の反列島線戦略がぶつかり合っている。この構図の中では無限大の軍備競争を避けることはできない。どちらかひとつが決定的な優位を占めるまでこの角逐は止まらない。貿易と違い交渉ではなく実力差だけがこの疾走を止まらせるだろう。ゲームチェンジャーはだれが先に作ることになるのか、世界が注目している。
イ・イルウ/自主国防ネットワーク事務局長
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