改革はすべての政治家の「スローガン」だが、実際に改革を実践して成功する人は少ない。シュレーダー元ドイツ首相は改革を夢見る政治家の「典型」に挙げられる。シュレーダー元首相はドイツ統一の後遺症が累積してドイツが「欧州の病人」と呼ばれた1998年に執権し、7年間にわたり赤緑連合(社会民主党-緑の党の連立政権)を率いた。
シュレーダー元首相が集中したのは「アジェンダ2010(Agenda 2010)」と呼ばれる強力な社会・労働・年金改革を通じた国家大改造だった。過度な社会保障負担を減らす一方、解雇要件の緩和と減税を通じてドイツの競争力を高めようという戦略だった。シュレーダー元首相は時代の課題だった改革案を通過させたが、選挙で敗北して政権を失った。しかしその改革は今日のドイツ再飛躍の土台となった。今でも「ドイツ改革の旗手」に挙げられる理由だ。
『ゲアハルト・シュレーダー自叙伝:文明国家への帰還』韓国語版の出版に合わせて韓国を訪問したシュレーダー元首相は9日、金永熙(キム・ヨンヒ)中央日報論説委員との対談で「政治指導者は選挙で敗れることがあっても国益のために決断を下さなければいけない」とし「国家利益は権力意志よりはるかに重要」と述べた。80分間の対談でシュレーダー元首相はドイツと分断経験を共有する韓国に格別の愛情を表した。
金永熙=今日(11日)、旧日本軍慰安婦被害者が居住する京畿道広州(クァンジュ)のナヌムの家を訪問し、韓国語版自叙伝の印税のうち1000万ウォン(約95万円)を寄付すると聞いた。今回の訪問は日本に対する非常に強いメッセージになると思うが、どういう思いでそのような決定をしたのか。
シュレーダー=日本に何らかのメッセージを伝えることができるのなら、決して間違っているとは思わない。ドイツはナチスの残虐な歴史を十分に討論し、反省し、過去を清算するために多くの努力をした。こうした歴史的な苦痛を受けた人たちの運命に対する関心の表明だ。韓国を何度か訪問し、韓国人と韓国に愛情を持っている。こうしたジェスチャーをするうえで下等な別の理由はありえず、外交的問題を起こすとも思わない。現首相ではないが、たとえ現首相だとしてもこれは客観的事実と歴史的に傷を受けた人たちの運命に対する関心の表明という側面で、外交的な慣例とは違うと考える。
金永熙=ドイツはユダヤ人虐殺について無限定の謝罪をしている。日本はそうでない。なぜ日本はドイツのようにできないと思うか。
シュレーダー=おそらくこれは日本式の考え方(mentalty)と関係があるのではないかと思う。日本の若い世代は過去の世代の犯罪行為への参加者ではない。ところが歴史を習うのは歴史から教訓を得ようするためだ。したがって過去の犯罪行為に加担しなかったとしても、歴史的に起きたことに対する責任を後の世代が痛感し、責任を負う必要がある。ドイツではドイツが過去に犯した誤った行為を後世代が繰り返さないよう記憶させ、学ぼうとする。後世代は罪を犯していないとしても歴史的に責任を負わなければいけない。
金永熙=ドイツの後世代は責任を負うことに同意するということか。
シュレーダー=そうだ。
金永熙=首相は新自由主義に批判的な立場を取りながら文明社会の実現を政治の重要な目標に設定した。文明社会とは何か。
シュレーダー=文明社会というのは選挙というプロセス以前に、多くの人々が最大限に意思決定過程に参加できる社会だ。例えば自由に話せる社会、政治や政府に反対してデモができる社会、自由な言論が世論形成に参加できるよう開かれた社会が、私の考える文明社会の核心だ。
金永熙=首相は権力意志を持つ成功した政治家だった。ところが社会民主党(SPD)内でも反対があり、社会民主党の最大支持基盤である労働組合が猛烈に反対する過激な労働・年金改革が盛り込まれた「アジェンダ2010」を推進した。その結果、ドイツの深刻な統一後遺症を解決したが、権力は失った。今でも同じ選択をすると思うか。
シュレーダー=私は今日でも同じ決定を下すだろう。権力というものは選挙を通じて合法的に得た権力であり、政治指導者ならそのような権力意志がなければいけない。しかし政治指導者が知っておくべき部分がある。国家利益は権力意志よりはるかに重要だ。政治指導者は自発的に自分の権力を放棄しないだろう。しかし自分の政策のために選挙で敗れることがあっても、その政策が国益と大義のためのものならリスクを負ってこそ政治指導者ということができる。優先順位を決めろというなら国益が最優先であり、その次が政党の利益または自分の権力意志になるだろう。
金永熙=民主主義という国でもその優先順位を逆に見る指導者が多いのが現実だ。
シュレーダー=(笑)その通りだ。
金永熙=社会民主党で労働者の影響力はほとんど絶対的だ。アジェンダ2010に対する労働者の強い反対をどう克服したのか。
シュレーダー=オランダの改革プロセス(1982年のワッセナー協約)が良い例だ。政・労・使が集まって妥協案を作ったこのオランダモデルを参考にしたのがドイツの政労使委員会、「雇用のための同盟(Bundnis fur Arbeit)というものだった。政・労・使の3者が集まってコンセンサスを作ってみよう、改革政策プロセスで3者が合意をしてみようという試みだった。ところが使用者団体も、労働組合も政府に要求ばかりし、妥協する考えはなかった。政府は国益のために双方が妥協できないことを貫徹するしかなかった。我々の政府がそれをした。
金永熙=アジェンダ2010の成果を最も大きく享受しているのは皮肉にも相手の党のメルケル首相のようだ。
シュレーダー=逆説ではないが、少し悔しいところはある(笑)。政治指導者は時には多数の反対を押し切って改革政策を貫徹しなければいけない。ところがそのような決定の結果は3-5年ほど経過して表れる。選挙はたいていそのような成果が出る前に実施される。すると改革政策を進めた政治家は落選する可能性がある。私がそのようなケースだ。
金永熙=韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領もポピュリズムという批判を受けながら社会福祉、労働改革を推進している。文大統領に助言したいことは。
シュレーダー=助言という言葉は適切でないようだ。ドイツで「公開的助言(Ratschlag)」は助言(Rat)より殴打(Schlag)に近いといわれたりもする。今回、文大統領に会う機会があり、その時に個人的な助言が求められればするかもしれない。
金永熙=キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル首相が2005年から長期執権しているが、社会民主党がよくないからか、それともメルケル首相がよくやっているのか。
シュレーダー=メルケル首相が非常によくやっている。それでもあらゆることには終末がある(笑)。
金永熙=西ヨーロッパでドイツSPDを含む中道左派政党が低調だ。欧州の社会民主主義(social democracy)が黄昏を迎えたのか。
シュレーダー=欧州中道左派の劣勢については経済的な力(economical competence)不足のためだと考える。中道左派政党が社会分配問題に集中したところ、分配するものを生産することへの集中的な努力が不足したようだ。
金永熙=マックス・ウェーバーは政治家が備えるべき資質として情熱、責任意識、均衡感覚の3つを挙げた。首相が考える政治家の条件は。
シュレーダー=情熱と責任意識は必須だ。自分がすること(政治)に対する情熱と責任意識は欠かせない。ところが3つ目の均衡感覚はドイツ語らしい表現では「バランスが取れた見方」だが、私はそれがコミュニケーション能力だと考える。今日の政治は疎通が重要であり、政治家の能力としても重要な部分だ。
金永熙=首相時代はどのような原則の下で疎通をしたのか。
シュレーダー=ドイツでは統治者にはビルト(ドイツ大衆紙)、ビルト・アム・ゾンターク(ビルトの日曜版)、グロチェ(Glotze、テレビだけ見る人を軽蔑していう言葉)が3つが必要だという言葉がある。このうち家庭にメッセージを伝える役割をするのがテレビだった。まず自分の考えに確信を持ってメディアで大衆に伝えなければいけない。次にテレビに登場する時は清楚な服装が重要だ。私が何の話をしたかはすべて忘れて、私がどんなネクタイをしていたかを記憶している人が多かった。テレビはとても残忍なメディアだ。絶対にテレビで嘘をついてはいけない。自分が確信していること、真実だけを話さなければいけない。自己確信がない話、真実でない話をすれば視聴者がすぐに分かる。
<インタビュー> シュレーダー元独首相「政治指導者なら国益のため選挙敗北も甘受」(2)
シュレーダー元首相が集中したのは「アジェンダ2010(Agenda 2010)」と呼ばれる強力な社会・労働・年金改革を通じた国家大改造だった。過度な社会保障負担を減らす一方、解雇要件の緩和と減税を通じてドイツの競争力を高めようという戦略だった。シュレーダー元首相は時代の課題だった改革案を通過させたが、選挙で敗北して政権を失った。しかしその改革は今日のドイツ再飛躍の土台となった。今でも「ドイツ改革の旗手」に挙げられる理由だ。
『ゲアハルト・シュレーダー自叙伝:文明国家への帰還』韓国語版の出版に合わせて韓国を訪問したシュレーダー元首相は9日、金永熙(キム・ヨンヒ)中央日報論説委員との対談で「政治指導者は選挙で敗れることがあっても国益のために決断を下さなければいけない」とし「国家利益は権力意志よりはるかに重要」と述べた。80分間の対談でシュレーダー元首相はドイツと分断経験を共有する韓国に格別の愛情を表した。
金永熙=今日(11日)、旧日本軍慰安婦被害者が居住する京畿道広州(クァンジュ)のナヌムの家を訪問し、韓国語版自叙伝の印税のうち1000万ウォン(約95万円)を寄付すると聞いた。今回の訪問は日本に対する非常に強いメッセージになると思うが、どういう思いでそのような決定をしたのか。
シュレーダー=日本に何らかのメッセージを伝えることができるのなら、決して間違っているとは思わない。ドイツはナチスの残虐な歴史を十分に討論し、反省し、過去を清算するために多くの努力をした。こうした歴史的な苦痛を受けた人たちの運命に対する関心の表明だ。韓国を何度か訪問し、韓国人と韓国に愛情を持っている。こうしたジェスチャーをするうえで下等な別の理由はありえず、外交的問題を起こすとも思わない。現首相ではないが、たとえ現首相だとしてもこれは客観的事実と歴史的に傷を受けた人たちの運命に対する関心の表明という側面で、外交的な慣例とは違うと考える。
金永熙=ドイツはユダヤ人虐殺について無限定の謝罪をしている。日本はそうでない。なぜ日本はドイツのようにできないと思うか。
シュレーダー=おそらくこれは日本式の考え方(mentalty)と関係があるのではないかと思う。日本の若い世代は過去の世代の犯罪行為への参加者ではない。ところが歴史を習うのは歴史から教訓を得ようするためだ。したがって過去の犯罪行為に加担しなかったとしても、歴史的に起きたことに対する責任を後の世代が痛感し、責任を負う必要がある。ドイツではドイツが過去に犯した誤った行為を後世代が繰り返さないよう記憶させ、学ぼうとする。後世代は罪を犯していないとしても歴史的に責任を負わなければいけない。
金永熙=ドイツの後世代は責任を負うことに同意するということか。
シュレーダー=そうだ。
金永熙=首相は新自由主義に批判的な立場を取りながら文明社会の実現を政治の重要な目標に設定した。文明社会とは何か。
シュレーダー=文明社会というのは選挙というプロセス以前に、多くの人々が最大限に意思決定過程に参加できる社会だ。例えば自由に話せる社会、政治や政府に反対してデモができる社会、自由な言論が世論形成に参加できるよう開かれた社会が、私の考える文明社会の核心だ。
金永熙=首相は権力意志を持つ成功した政治家だった。ところが社会民主党(SPD)内でも反対があり、社会民主党の最大支持基盤である労働組合が猛烈に反対する過激な労働・年金改革が盛り込まれた「アジェンダ2010」を推進した。その結果、ドイツの深刻な統一後遺症を解決したが、権力は失った。今でも同じ選択をすると思うか。
シュレーダー=私は今日でも同じ決定を下すだろう。権力というものは選挙を通じて合法的に得た権力であり、政治指導者ならそのような権力意志がなければいけない。しかし政治指導者が知っておくべき部分がある。国家利益は権力意志よりはるかに重要だ。政治指導者は自発的に自分の権力を放棄しないだろう。しかし自分の政策のために選挙で敗れることがあっても、その政策が国益と大義のためのものならリスクを負ってこそ政治指導者ということができる。優先順位を決めろというなら国益が最優先であり、その次が政党の利益または自分の権力意志になるだろう。
金永熙=民主主義という国でもその優先順位を逆に見る指導者が多いのが現実だ。
シュレーダー=(笑)その通りだ。
金永熙=社会民主党で労働者の影響力はほとんど絶対的だ。アジェンダ2010に対する労働者の強い反対をどう克服したのか。
シュレーダー=オランダの改革プロセス(1982年のワッセナー協約)が良い例だ。政・労・使が集まって妥協案を作ったこのオランダモデルを参考にしたのがドイツの政労使委員会、「雇用のための同盟(Bundnis fur Arbeit)というものだった。政・労・使の3者が集まってコンセンサスを作ってみよう、改革政策プロセスで3者が合意をしてみようという試みだった。ところが使用者団体も、労働組合も政府に要求ばかりし、妥協する考えはなかった。政府は国益のために双方が妥協できないことを貫徹するしかなかった。我々の政府がそれをした。
金永熙=アジェンダ2010の成果を最も大きく享受しているのは皮肉にも相手の党のメルケル首相のようだ。
シュレーダー=逆説ではないが、少し悔しいところはある(笑)。政治指導者は時には多数の反対を押し切って改革政策を貫徹しなければいけない。ところがそのような決定の結果は3-5年ほど経過して表れる。選挙はたいていそのような成果が出る前に実施される。すると改革政策を進めた政治家は落選する可能性がある。私がそのようなケースだ。
金永熙=韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領もポピュリズムという批判を受けながら社会福祉、労働改革を推進している。文大統領に助言したいことは。
シュレーダー=助言という言葉は適切でないようだ。ドイツで「公開的助言(Ratschlag)」は助言(Rat)より殴打(Schlag)に近いといわれたりもする。今回、文大統領に会う機会があり、その時に個人的な助言が求められればするかもしれない。
金永熙=キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル首相が2005年から長期執権しているが、社会民主党がよくないからか、それともメルケル首相がよくやっているのか。
シュレーダー=メルケル首相が非常によくやっている。それでもあらゆることには終末がある(笑)。
金永熙=西ヨーロッパでドイツSPDを含む中道左派政党が低調だ。欧州の社会民主主義(social democracy)が黄昏を迎えたのか。
シュレーダー=欧州中道左派の劣勢については経済的な力(economical competence)不足のためだと考える。中道左派政党が社会分配問題に集中したところ、分配するものを生産することへの集中的な努力が不足したようだ。
金永熙=マックス・ウェーバーは政治家が備えるべき資質として情熱、責任意識、均衡感覚の3つを挙げた。首相が考える政治家の条件は。
シュレーダー=情熱と責任意識は必須だ。自分がすること(政治)に対する情熱と責任意識は欠かせない。ところが3つ目の均衡感覚はドイツ語らしい表現では「バランスが取れた見方」だが、私はそれがコミュニケーション能力だと考える。今日の政治は疎通が重要であり、政治家の能力としても重要な部分だ。
金永熙=首相時代はどのような原則の下で疎通をしたのか。
シュレーダー=ドイツでは統治者にはビルト(ドイツ大衆紙)、ビルト・アム・ゾンターク(ビルトの日曜版)、グロチェ(Glotze、テレビだけ見る人を軽蔑していう言葉)が3つが必要だという言葉がある。このうち家庭にメッセージを伝える役割をするのがテレビだった。まず自分の考えに確信を持ってメディアで大衆に伝えなければいけない。次にテレビに登場する時は清楚な服装が重要だ。私が何の話をしたかはすべて忘れて、私がどんなネクタイをしていたかを記憶している人が多かった。テレビはとても残忍なメディアだ。絶対にテレビで嘘をついてはいけない。自分が確信していること、真実だけを話さなければいけない。自己確信がない話、真実でない話をすれば視聴者がすぐに分かる。
<インタビュー> シュレーダー元独首相「政治指導者なら国益のため選挙敗北も甘受」(2)
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