「21対0」。日本と韓国の自然科学分野のノーベル賞受賞の成績表だ。日本人が今年もノーベル物理学賞と医学・生理学を受賞しながら、韓国では「なぜ私たちは受賞者を輩出できないのか」という質問が多く出ている。研究費をもっと投じようという主張も出てくる。こうした見解には「ノーベル賞を必ず受賞しなければならない」という前提が敷かれている。だが本当にそうなのか。
日本が数多くの受賞者を輩出した背景には、「変わり者」が暮らせる社会的環境があるからだ。独創的なアイデアと職人精神を尊重する。何度も失敗しても地道に挑戦して長期的な研究活動が可能な環境だ。もちろん国家や企業の支援も多い。
日本は、必ずしも東京大学出身のエリートでなくても生きていける社会だ。学生時代の成績は全科目A単位をとらなくてもいい。数学や物理学の成績は優れているが、ほかの科目の成績は思わしくない人も多い。親や教師は「国語も社会も全てA単位を取りなさい」と圧迫しない。それぞれの優秀分野で才能を伸ばすように促す。誰も関心を持たない分野で1人打ち込む研究者が、その職業を理由に結婚をあきらめたり将来を悲観したりしない。
日本と比べて韓国はかなり違う。私は小学校1年生の息子と韓国で生活して2年半になる。息子は2年間、韓国の幼稚園に通い今は韓国の子供たちに混じって英語・珠算・水泳・サッカーなどをしながら忙しい日々を送っている。こうした生活を通じて韓国がどれほど大変な競争社会なのかを毎日肌で感じている。
息子は週2時間コースの英語塾に通っているが毎週宿題があり毎月テストがある。それでもこの塾は保護者の間で学習負担がとても小さい塾として知られている。幼稚園では良いことをすれば「称賛ステッカー」をもらう。子供たちは誰が何枚もらったのか無意識のうちに競争する。日本人たちが多く暮らすソウルの東部二村洞(トンブイチョンドン)で子供たちが小学校に進学する時は、競争の激しい韓国の学校の代わりにほとんど全員が日本人学校に入学する。
韓国人は激しい競争を終わりなく続けながら生きる。大学入試の成績が一生ついて回り、大企業就職の有無が結婚の有無を左右する。勝者と敗者の経済格差はあまりにも大きくて、人生を挽回するチャンスは極めて少ない。一生競争を続けなければならない社会構造では、失敗を繰り返しながら長期間の基礎研究をする人を育てるのは事実上不可能ではないだろうか。
もちろんこうした激しい競争社会には強みもあると思う。韓国人と共に仕事をしてみた日本人たちはよく「韓国人は最後の集中力が優れている」と話す。緊張感を克服して何でもやり遂げることができるこのような集中力が、韓国の発展を支えてきた原動力ではないだろうか。
毎年ノーベル賞発表シーズンごとに「韓国からはなぜ1人も出てこないのか」という質問が繰り返される。だが、このような質問を繰り返すことよりも韓国には韓国ならではの魅力があるという事実を悟る必要がある。韓国らしく輝かしい道を見出すことを望む。
大貫智子 毎日新聞ソウル特派員(中央SUNDAY第448号)
日本が数多くの受賞者を輩出した背景には、「変わり者」が暮らせる社会的環境があるからだ。独創的なアイデアと職人精神を尊重する。何度も失敗しても地道に挑戦して長期的な研究活動が可能な環境だ。もちろん国家や企業の支援も多い。
日本は、必ずしも東京大学出身のエリートでなくても生きていける社会だ。学生時代の成績は全科目A単位をとらなくてもいい。数学や物理学の成績は優れているが、ほかの科目の成績は思わしくない人も多い。親や教師は「国語も社会も全てA単位を取りなさい」と圧迫しない。それぞれの優秀分野で才能を伸ばすように促す。誰も関心を持たない分野で1人打ち込む研究者が、その職業を理由に結婚をあきらめたり将来を悲観したりしない。
日本と比べて韓国はかなり違う。私は小学校1年生の息子と韓国で生活して2年半になる。息子は2年間、韓国の幼稚園に通い今は韓国の子供たちに混じって英語・珠算・水泳・サッカーなどをしながら忙しい日々を送っている。こうした生活を通じて韓国がどれほど大変な競争社会なのかを毎日肌で感じている。
息子は週2時間コースの英語塾に通っているが毎週宿題があり毎月テストがある。それでもこの塾は保護者の間で学習負担がとても小さい塾として知られている。幼稚園では良いことをすれば「称賛ステッカー」をもらう。子供たちは誰が何枚もらったのか無意識のうちに競争する。日本人たちが多く暮らすソウルの東部二村洞(トンブイチョンドン)で子供たちが小学校に進学する時は、競争の激しい韓国の学校の代わりにほとんど全員が日本人学校に入学する。
韓国人は激しい競争を終わりなく続けながら生きる。大学入試の成績が一生ついて回り、大企業就職の有無が結婚の有無を左右する。勝者と敗者の経済格差はあまりにも大きくて、人生を挽回するチャンスは極めて少ない。一生競争を続けなければならない社会構造では、失敗を繰り返しながら長期間の基礎研究をする人を育てるのは事実上不可能ではないだろうか。
もちろんこうした激しい競争社会には強みもあると思う。韓国人と共に仕事をしてみた日本人たちはよく「韓国人は最後の集中力が優れている」と話す。緊張感を克服して何でもやり遂げることができるこのような集中力が、韓国の発展を支えてきた原動力ではないだろうか。
毎年ノーベル賞発表シーズンごとに「韓国からはなぜ1人も出てこないのか」という質問が繰り返される。だが、このような質問を繰り返すことよりも韓国には韓国ならではの魅力があるという事実を悟る必要がある。韓国らしく輝かしい道を見出すことを望む。
大貫智子 毎日新聞ソウル特派員(中央SUNDAY第448号)
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