米国政府が中国に技術輸出を制限したが、中国の人工知能（ＡＩ）企業ディープシークはチャットＧＰＴの５．６％という極めて少ない費用で米国のビッグテック企業水準のモデルを開発した。この状況は次の３つの質問を投げかける。

最初に、米国の対中技術輸出制裁に効果があるのか。短期的に中国の技術成長を牽制できるが、長期的には効果が限定的かもしれない。１８世紀の産業革命当時、英国は技術流出を禁止したが、労働者サミュエル・スレイターは農夫に変装して米国に渡って紡績工場を設立し米国製造業の父となった。米国がＡＩチップと半導体装備などの対中輸出を制限する措置も１８世紀の英国と似ている。当面は中国ＡＩ企業の成長を制限するが、中国の技術自立を促進している。ディープシークは輸入できない高性能チップの代わりに低仕様チップを使いながらも学習方法とアルゴリズムを発展させコストパフォーマンスの高いモデルを作った。

輸出制限措置は人と知識を通じた技術拡散を防ぐことはできない。米国で学んだ中国人研究者らの交流やオープンソースを活用した知識拡散は政府規制で防げない。米国の輸出制限は中国だけでなく米国にも否定的影響を与える。対中輸出が減り国同士の交流を通じた革新を阻害する。技術覇権は制裁ではなく技術発展と革新で確保するほかない。


２番目に、ＡＩ産業はどのように変わるだろうか。ＡＩ市場はさらに成長するだろうが、勝者と敗者は変わるかもしれない。米国のビッグテック業界はディープシークの成功が「ジェボンズのパラドックス」に続くと予想する。技術発展で効率性が高まればコストが下がり需要が増加するということだ。ディープシークのオープン型モデルは多様な応用事例を促進しＡＩ市場を拡大できるということだ。

どの方式の技術がより速く成功するかをめぐり激しい競争が起きている。費用効率をより重視することになり、運営費用が少ないオープンソース、小規模言語モデルなどがさらに活用されるだろう。ＡＩに対する投資がハードウエアからソフトウエアに一部転換されるかもしれない。ビッグテックが高性能チップ中心の投資競争をしたとすればディープシークの場合はアルゴリズムとソフトウエアを最適化したものとされる。一部ビッグテック企業は規模の競争を持続するものとみられる。トランプ政権はＡＩインフラに５０００億ドルを投資するスターゲート計画を発表した。

３番目に、韓国にはどのような影響を与えるだろうか。韓国は対中・対米輸出で直接影響を受ける。トランプ政権が低仕様チップの対中輸出まで制裁するならば、これに部品を供給する韓国企業の売り上げが減少する。米国は韓国の最大輸出品目である半導体に関税を導入し、韓国の半導体企業に支給することにした補助金を撤回する可能性まで言及した。

広帯域メモリー（ＨＢＭ）供給で優位を占めているＳＫハイニックスの場合、関税は大きなリスクにならないかもしれないが、企業ごとに状況は異なる。韓国は米国の製造業復興に必要なパートナーで、地域経済と雇用創出に寄与する点を米国側に主張しなければならない。

ＡＩ産業の側面ではディープシークの低費用オープンソースモデルが参入障壁を下げ機会要因になり得る。韓国から第２のオープンＡＩが出てくるのは難しくても第２のディープシークが出てくることはできる。しかし「ＡＩ３強」という野心に満ちた目標にも米中との技術格差は非常に大きい。技術競争力確保がカギだ。

韓米同盟を基盤に米国のＡＩ生態系とバリューチェーンに組み込まれた上で韓国政府は民間がシナリオ別対策を用意するよう支援しなければならない。「安くて安全なＡＩモデル」のような韓国がうまくできる分野の発掘とともにＡＩ人材養成と重用、研究開発支援を含んだビジョンを出さなければならない。ＡＩ半導体競争力にも役立てられる「半導体特別法」も早く国会で通過しなければならない。

さまざまな分野をつなげられる政策リーダーシップが必要だ。国際経済は技術・通商・産業・金融・安保など多方面につながっている。政策を扱うリーダーシップも進化しなければならない。もう技術覇権対立の渦中に国内産業と技術競争力確保にもっと焦点を合わせなければならない。

チェ・ジウン／延世（ヨンセ）大学兼任教授、世界銀行選任デジタル開発専門官

◇外部執筆者のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。