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1990年代後半に多国籍製薬大手、ファイザー・インコーポレーテッド(Pfizer Inc.)の研究チームは、新しく開発中だった心臓病治療薬の臨床試験を中断した。心臓血管を拡張させて血圧を下げるシルデナフィルという成分に期待ほどの効果がなかったからだ。
ところが、実験中断を通告された男性患者らが異様な反応を見せた。「何故やめるのか」と不満を示したのだ。それらは飲み残しの薬を返すのも拒んだ。研究チームは、実験対象者らに、もう少し詳しく、気の毒な質問を投げてみた。
その結果、思いがけない副作用が分かった。心臓だけでなく性器の血管まで拡張させ、ぼっ起を持続させる効果があったのだ。大儲けを予感したファイザーは、ぼっ起不全(ED)に焦点をあわせて開発に成功する。商標名はバイアグラ(Viagra)。活力(Vigor)がナイアガラ(Niagara)の滝のようにあふれていくという意味だ。
98年3月27日、米食品医薬品局(FDA)が販売を承認した。明日になれば、市販から第10周年を迎える。
バイアグラは、医薬品市場で前例を見ない大ヒットとなり、ファイザーを世界一の製薬メーカーに成長させた。実際に効果がある経口剤のぼっ起不全治療薬としては唯一の製品だったからだ。それ以前は注射剤と、シリコンや脂肪を注入する方法のほかには解決策がなかった。バイアグラはこの10年間18億錠が消費され、公式には世界で3500万人の男性が服用している。現在も1秒に6錠が消費されているという。韓国内での販売が許可されたのは、99年10月からだ。
バイアグラは20世紀の「性革命」を終えさせる薬といわれる。一次的革命を率いたものは50年代に登場した避妊薬。妊娠に対する女性の不安を消し、性生活の扉を大きく開けた。二次的革命の主役はバイアグラ。高齢化社会の到来によって、特に高齢者らに決定的な支援を行ない、波及効果が大きかった。英紙・インディペンデントは、バイアグラの登場を薬の色にたとえて「青い奇跡」と表現したことがある。
バイアグラには、多様な付随効果があることが確認されている。時差ボケ、心不全、早漏、糖尿、記憶喪失、脳卒中(卒中)などに効き目があるといわれる。「現代版の万病円」とされるアスピリン(アセチルサリチル酸の薬品名。もとは商標名)に匹敵する、と評価される理由だ。
問題は、副作用も少なくない、との点である。クシャミや頭痛、消化不良、心臓バクバク、恐怖症、ぼっ起するものの射精時に精液が出なかったり量が少ない状態、低血圧、心筋梗塞など多様だ。失明と死亡という致命的事例も報告されている。
だからといって服用を忌避する人は稀だ。精神分析学者フロイトの言うとおり「人間は性的動物」というわけだ。もっとも学者らによれば、発情期が別になく、四季いつでも交尾が可能な動物は、自然界で人間とボノボ(ピグミーチンパンジー)だけらしいから。
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