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すべての物体には、自身の運動状態をそのまま維持しようとする性質がある。静止した物体はいつまでも静止しようとし、動く物体は元々のスピードと方向で進みつづけようとする。ガリレイが発見しニュートンが「運動の第一法則」で体系化した、いわゆる「慣性(inertia)の法則」だ。自然界の物体は自ら止めたり方向を変えたりすることができない。慣性を制御するのは外部の力だ。 飛んでいく野球のボールは、自身の意志ではなく空気の抵抗と重力という外部の力によって地に落ちる。
慣性が人間の生に投影されれば惰性になる。 常にしてきた方式を踏襲し、並大抵のことでは変えようとしない傾向だ。 惰性的になってしまった人は変化を恐れ、誤った習慣を直せない。 改善もなく、発展もない。 物体の慣性は質量が大きいほど大きくなるのに比べて、人間の惰性は時間がたつほど抜け出しがたい。 だから、自分の癖を他人に譲れず、三歳の習慣は80歳になっても身から離れない(スズメ百まで踊り忘れずと、の意)。
慣性は社会の制度と組織でも発見される。 どんな制度や組織も、いったん設けられた後は、なかなかなくしたり変えたりすることができない。 規模が大きくなり歴史が積まれれば、運営方式が慣行として固着し、自ら拡大再生産しようとする傾向まで生じる。 社会的慣性は時間がたつほど規模が大きいほど粘り強い。 社会科学ではこれを経路依存性(Path Dependency)と呼ぶ。 一連の諸事件が初期に特定の方式で進められれば、その後は制度と組織を変更できなくなるほど硬直する現象のことだ。 かつて通ってきた経路により、未来の進行方向が決まるとのこと。 イギリス連邦で車の左側通行の慣行はもう変えられない制度になった。 運転台の位置と交通システムがそれに合わされているからだ。 1868年、ショールズが創案したクェーティ・キーボード(QWERTY=クワティー)が英文タイプライタの標準タイプのキーボードになったのは、単にそれが初めて発売されたものだからだ。 その後、いくらに良い代案が出されても、すでに制度に定着したキーボードの配列を変えることができなかった。
経路依存性が強ければ、外部の環境が変わっても自ら方向を変えられない。 これまでの参加政府(現政府のこと)の行跡は明確な経路依存性を示してくれる。 多くの混乱と失敗にもかかわらず、かつて定めた枠組みから一歩も抜け出さない。 「憲法のように変えがたい不動産政策」は経路依存性をいっそのこと法制化したものだ。 支持率が10%に落ち込んだ環境の変化にもかかわらず、考え方や政策を変える気がない。 自ら変えられなければ、外部の力に依存せざるを得ない。
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