パンソリ「沈清歌」で、父・沈奉事（シム・ボンサ）が娘の清（チョン）を懐かしがるのは５－６月ごろだ。

「春が過ぎて夏になると緑陰芳草の時節／山河は静寂で、水の音だけが静かに聞こえる／娘と一緒に遊んでいた女の子らがあいさつをすると／娘への思いが深まる」茂った木の陰と草の香りは花よりもよい時という意味で、初夏は「緑陰芳草勝花時」と表現される。この時降る雨は緑雨であり、茂みからそよそよ吹くのは薫風と呼ばれる。 沈奉事のやるせない父情は、非命に倒れた娘が「この美しい世界」を見られないという切なさから始まった。


土亭・李之ハム（イ・ジハム）は「緑陰芳草に楼へ上がって酒杯を傾けると、山鳥が飛んできて楽しく歌う」とし、人生の絶頂期を緑陰芳草に例えた。 「徳を持って楽しく過ごせば、毎日幸せが増し、いつの間にか集めた財物は千金に増える」とし、豊かさの象徴とも考えた。 明るい春と肌寒い秋の中間にある緑陰芳草の季節に賢人逹師らは山へ行き、岩に自分の名前を彫って立身揚名を誓った。同時に俗世を抜け出して風流を楽しむ時でもある。 伽椰琴竝唱の代表曲の一つが‘緑陰芳草’であるのも似た理由のようだ。

緑陰芳草は人の体を健康にし、精神を清めてくれる。 森林欲が脚光を浴びるのは木が発散する香りにその秘密があるという。 葉から出てくる璃ィトンチッドなどの芳香性物質はストレス解消はもちろん、心臓や肺の機能を強めてくれるとといわれる。 緑陰芳草が与えてくれる安らぎは心を癒し、精神を清めてくれる。 性徹（ソンチョル）僧侶は「淡い森の香りを深く吸い込んでみると、心の片隅に閉じこもっていたもどかしさと迷いがいつのまにか消える」と述べた。 緑陰芳草は今日を生きているわれわれにとっても良い精神的避難処というわけだ。

朴智元（パク・ジウォン）元大統領秘書室長が２０００年の南北（韓国・北朝鮮）首脳会談を推進した過程での不法行為で、また囚われの身になった。 彼は「花は四度散っても緑陰芳草の季節はまた来た」とし、自身の心境を吐露した。 ３年前、検察に拘束されながら「花が散ったとしても風のせいにはできない」と述べ、趙芝薫（チョ・ジフン）の詩「落花」を引用した彼の今回の発言で、権力のはかなさを改めて実感する。 惜しまれる点があるとすれば、緑陰芳草の時期に花が落ちる意味を分かっていればという点だ。 今知ったことをその時も分かっていれば･･･。