金与正(キム・ヨジョン)労働党総務部長 [朝鮮中央テレビ キャプチャー、聯合ニュース]
この1カ月間(8月19日~9月20日)に北朝鮮が発表した主な対外メッセージは計10件だった。金正恩委員長の実質的な代弁者の役割をしている金与正(キム・ヨジョン)労働党部長の立場表明や談話が5件で半数を占め、外務省が3件、国防省が2件と続いた。中央日報がこれらをすべて分析した結果、北朝鮮は非核化要求の撤回と対北朝鮮敵視政策の転換を迫る一方、核保有国としての地位を前提とした新たな朝米交渉の構図をつくるため「多層的な談話戦」を展開していることが分かった。
◆対米圧力の先頭に立つ金与正氏
最も目を引くのは金与正部長の登場頻度だ。全10件のメッセージのうち半数を発表した。対米・対南政策の中心人物であり、金正恩委員長の「口」とされる金与正部長を前面に出すことで、トランプ大統領の対北朝鮮メッセージに対して事実上、金正恩委員長が間接的に応じる効果を狙ったという分析だ。
金与正部長は先月19日、トランプ大統領が言及した朝米首脳間の意思疎通について「知らない」と線を引き、米韓合同軍事演習の縮小についても「言及する価値もない」と一蹴した。首脳間の親交や一時的な融和措置だけでは交渉に応じないという意思を明確にした姿だ。
今月に入ってからは米国が乗り越えるべきハードルをさらに具体的に示した。18日には米国主導の各種合同軍事演習を一つ一つ取り上げながら「敵対行為の新記録」と批判し、19日には国際原子力機関(IAEA)の北朝鮮に対する非核化要求決議を「国家安全上の最重要事案」と規定しながら全面的に拒否した。金正恩委員長が2月の第9回党大会で示した「非核化議題の放棄」と「対北朝鮮敵視政策の撤回」を朝米対話再開の前提条件として改めて釘を刺したのだ。
◆談話の後にはミサイル…言葉と行動の結合
最近の談話戦は言葉にとどまらず、実際の武力示威と連動する様相も明確になっている。7年前の朝米間の「非核化交渉」の枠組みから脱して、高度化した核・ミサイル能力を背景に、新たな交渉の局面をつくろうとしているとの分析が出ている。
金与正部長は先月20日、北朝鮮が短距離弾道ミサイル(SRBM)約10発を奇襲発射した直後に談話を発表し、下半期の韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(UFS)」が「トランプの一言で空っぽの演習になった」と主張した。李在明(イ・ジェミョン)大統領に対しても「内外で異なる二重的な言動」と名指しで批判し、合同軍事演習の縮小をめぐる韓米間の温度差に言及した。
18日に「反応行動」を予告した談話も、2日後の20日に2度の弾道ミサイル発射へとつながった。慶南大極東問題研究所のイム・ウルチュル教授は「北が7年前に比べて高度化した核・ミサイル能力を示すのは、メッセージの強度を最大化すると同時に、自国の不可逆的な核保有国としての地位を固めようとする戦略的意図が反映されたものだ」と述べた。
◆「レッドライン」は避け、対話の火種を維持
その一方で、北朝鮮はメッセージと武力示威の程度を緻密に調整している。事案に応じて金与正部長だけでなく、外務省や国防省の報道官を前面に出し、記者との質疑応答や報道官の立場表明など形式も変えている。米国を直接刺激する表現は控え、トランプ大統領の対話提案も明確には拒否していない。交渉条件は引き上げながらも対話の扉は閉ざさないということだ。
武力示威においても、米国が敏感に受け止める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射など、いわゆる「レッドライン」を越える行動は避けている。最近のミサイル発射を金正恩委員長が視察していないことについても、今後の対米対話の可能性を念頭に置いたものという解釈が出ている。
結局、北朝鮮は今すぐトランプ大統領の対話提案に応じるよりも、情勢を見守りながら、高まった戦略的地位をてこに自らに有利な交渉局面をつくろうとしているとみられる。金正恩委員長が第9回党大会で「社会主義建設をさらに力強く推し進めていく上で有利な条件と環境も整った」と述べた情勢認識も、こうした自信の背景に挙げられる。
統一研究院のオ・ギョンソプ研究委員は「北が中ロとの関係強化を通じて高まった戦略的地位を活用し、米国との交渉で有利な立場を得ようとしている」とし「当面は朝米対話の条件を引き上げながら、高度化した核・ミサイル能力によって存在感を示す可能性が高い」と述べた。
この記事を読んで…