ウイスキーの資料写真。[pixabay]
最近、スコットランドに「ウイスキーの湖(whisky loch)」が出現した。実際の湖ではなく、供給過剰で倉庫にウイスキーがあふれている状況を指す表現だ。現在、スコットランドでオーク樽に詰めて熟成させているウイスキーは約14億リットルに上る。10年前は4億リットルにも満たなかったが、この10年で3.5倍以上に膨らんだ。現在の世界全体の消費ペースで計算すると、約3年分に相当する。
過去10年余り、酒類業界は、ジョニーウォーカーを製造する英国のディアジオに代表されるように、「より高価な酒を売る」高級化戦略を前面に打ち出してきた。ディアジオの売上高全体に占めるプレミアム級以上の製品の割合は、2019年の56%から2025年には65%に高まった。
問題は、ウイスキーは数年間の熟成が必要なため、短期間では需給を調整できないことだ。好況期に樽に詰めたウイスキーが、需要が急減した今になって一斉に出荷時期を迎え、倉庫に積み上がっている。
業界は生産に急ブレーキをかけている。スコットランドの多くの蒸留所が生産量を3分の1以上減らし、ディアジオはティーニニック蒸留所の生産を停止した。約160カ所の蒸留所のうち、最大40カ所が売りに出される可能性があるとの推計もある。ジャックダニエルを製造する米ブラウンフォーマンも、生産量と蒸留量を減らしている。
しかし、ウイスキーは今生産を減らしても、効果が表れるのは数年後だ。一方、現在販売されているウイスキーには、数年前の高い製造原価が反映されている。減産で工場の稼働率が下がれば、当面のコスト負担はかえって増す可能性がある。
酒類消費の減少が景気低迷だけによるものではなく、構造的な変化でもあることが、業界の重荷となっている。米国の酒類販売量は2019年比で13%減少した。ドイツ銀行の調査では、飲酒を減らす理由として、価格の負担(17%)よりも健康やウェルビーイング(29%)を挙げた人がはるかに多かった。さらに、肥満治療薬の普及に伴い、食欲とともに飲酒欲求も低下する現象が見られた。
世界の酒類大手は戦略の見直しに乗り出した。ディアジオは超高価格帯を中心とした戦略を転換し、中低価格帯の商品や缶入りハイボール、低アルコール・ノンアルコール製品を強化するとともに、10億ドル(約1539億4000万円)規模のコスト削減に着手した。米国と中国で売上高が2桁減少したフランスのペルノ・リカールは、前年比7%成長したインド市場に重点を移している。特に、英国とインドの自由貿易協定(FTA)により、スコッチウイスキーの関税が従来の150%から75%へと大幅に引き下げられたことが、商機とされている。ブラウンフォーマンは、まず生産量と蒸留量の削減を進めている。
つまり、コロナ禍で打ち出した「高級酒で高成長を目指す」戦略を、低成長市場に合わせて練り直しているということだ。倉庫に滞留する14億リットルの酒が「売れる酒」になるのか、それとも「売れ残る酒」になるのかは、米国の消費者心理の回復と、人口14億人を抱えるインドでの需要拡大のペースにかかっているとの分析が出ている。ただし、UBSやドイツ銀行など主要投資銀行は、これらの企業の株価が歴史的な安値圏まで下落したにもかかわらず、投資判断を「中立」または「保有」に据え置いた。株価が割安になっただけでは不十分で、販売量が実際に回復するかを見極める必要があるとの判断だ。
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