中国人工知能(AI)スタートアップ、ディープシークのロゴ[ロイター=聯合ニュース]
中国本土での新規株式公開(IPO)は、証券会社が企業の支配構造や会計・内部統制を点検する「上場指導」を経た後、取引所に申請書を提出し、その後、取引所による審査と中国証券監督管理委員会による登録手続きを踏む。ただ、主幹事証券会社の選定は、ディープシークの上場が単なるアイデアの段階を超え、実際の手続きとして動き始めたことを示すシグナルだ。ディープシークは今年中に関連手続きを開始すると伝えられているが、公募規模や具体的な上場時期はまだ決まっていない。
◆「企業価値100兆ウォン」…ディープシークはどれほど稼いでいるのか
市場が最も関心を見せているのはディープシークの「企業価値」とそれを裏付ける業績だ。ディープシークは今年6月、初めて大規模な外部資金調達を行い、約500億元(約1兆1500億円)を確保したと伝えられている。創業者の梁文鋒(リャン・ウェンフォン)が200億元、テンセントが100億元、世界最大のバッテリーメーカーCATLが50億元を投資した。現在進められているプレIPO投資では企業価値が約97兆5000億ウォン(5000億元)に達する可能性があるとの報道まで出ている。もちろん、まだ投資交渉の過程での評価額であり、確定した数字ではない。
問題は、100兆ウォン近い企業価値を実際の事業がどれほど支えているかという点だ。非上場企業のディープシークは具体的な財務諸表を公開していないが、米ITメディア「The Information」によると、今年1~7月の売上高は約4億7500万元で、昨年の年間売上高の約10倍に達した。しかし同じ期間の純損失も約7億1500万元という。単純計算をすると、売上高1元を上げる間に約1.5元の損失が発生したことになる。7カ月間の売上高を年間ベースに換算すると約8億1400万元となり、約5000億元の企業価値は年間売上高の600倍を超える。いずれも監査報告書で確認された数字ではないため参考値として見る必要があるが、上場が現実となれば市場がディープシークに投げかける質問は明確だ。世界を驚かせた技術力に見合うだけの「稼ぐ力」も証明できるのかということだ。
◆「低コストAI」も結局は資金が必要
ディープシークが世界のAI業界を揺るがした出発点は「低コスト」だった。ディープシークは昨年、自社AIモデルの最終的なトレーニングに557万6000ドル(約8億5800万円)かかったと明らかにした。米国のビッグテックがAIモデルの開発やデータセンターに天文学的な資金を投入していた状況でこの数字は衝撃的だった。「600万ドルでGPT級のAIを作った」という評価が広がり、ディープシークは一躍、中国AIの象徴となった。
しかし557万6000ドルという数字がディープシークという企業を作るためにかかった総費用を意味するわけではない。これは、エヌビディアのH800 GPUの使用料を1時間あたり2ドルとして計算した最終モデルの公式なトレーニング費用であり、それ以前にかかった先行研究やモデル構造の実験、失敗した学習、データ構築、研究人材の人件費、サーバー購入費などは含まれていない。サービスを運営し、利用者の質問に答えるために継続的に発生する推論コストも別にかかる。したがってディープシークが示した技術的成果は「AIには大金が必要ない」というよりも「同じ金額ではるかに多くのことができる」というのに近い。
むしろディープシークの逆説はここから始まる。モデルを効率的に作ることには成功したが、そのモデルが成功すればするほど、より多くの資本が必要になる。利用者が増えれば推論を担うサーバーが必要になり、企業顧客を取り込むにはデータセンターやセキュリティーインフラを拡充しなければならない。何よりもAI競争の核心的な資産である人材を引き留めなければいけない。すでにディープシークでは一部の研究者がバイトダンスやシャオミなど資金力のある企業に移ったと伝えられている。梁文鋒氏が上場を通じて調達した資金を研究者への報酬や人材確保に活用しようとしているとの見方が出ている背景だ。
◆なぜ香港でなく上海か
ディープシークが香港ではなく、上海の科創板を選択したことも注目すべき点だ。上海証券取引所は今年6月、AI大規模モデル企業が科創板の「第5号上場基準」が適用されるよう別途の審査指針を設けた。十分な売上高や利益を上げていなくても、技術的優位性と成長性が認められれば上場できるよう道を開いたのだ。少なくとも1つ以上の大規模モデルを出して大規模な利用を実現し、明確な商業化計画を備えることを求めている。まだ赤字を出しているものの世界的な技術力が認められているディープシークのような企業が活用できる制度的ルートということだ。
ほかの中国AIスタートアップの動きとは対照的だ。Z.aiは今年1月に香港取引所に上場し、ミニマックス(MiniMax)も翌日に香港市場へ上場した。ムーンショットAI(月之暗面)も香港でのIPOを進めている。国際的な資金への接近が容易な香港ではなく、ディープシークが中国本土の資本市場を選ぶのであれば、AIモデルからデータセンター、国産AI半導体、そして資本市場へとつながる「中国国内のAI生態系」を構築しようとする中国の産業政策とも合致する。
ディープシーク上場の本当の注目点は、これまでベールに包まれていたディープシーク内部の財務諸表だ。APIで実際にどれだけ稼いでいるのか、企業顧客の割合はどの程度か、無料サービスを維持するためにいくらかかり、研究開発やサーバーにどれだけの資金を使っているのかを確認できる。何よりもオープンソースで強力なモデルを公開して利用者を集めた後、それを有料APIや企業向けサービスにつなげるディープシークの方式が、一つの持続可能なビジネスモデルになるかどうかが試されるだろう。
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