韓国の安山市元谷洞(アンサンシ・ウォンゴクドン)「多文化飲食通り」の風景。元谷洞は住民2万人余りのうち70%に当たる約1万4000人が外国人居住者だ。[写真 安山市]
韓国の地下鉄4号線安山(アンサン)駅1番出口を出ると、一風変わった風景が広がっている。路地の両側には食料品をはじめさまざまな食べ物を売る店が立ち並ぶ。ベトナム・ロシア・インドネシアなど各国の文字がハングルと仲良く表記された看板が目に飛び込んでくる。路地の奥にはハラル(ムスリムに許された食品や消費財)精肉店がある。異国情緒あふれるこの場所は、京畿道(キョンギド」安山市元谷洞(ウォンゴクドン)にある「多文化飲食通り」だ。週末にはソウルや首都圏の他都市に住む外国人までもが集まってくる。元谷洞は「京畿道の梨泰院(イテウォン)」「国境のない村」と呼ばれている。
ここへの外国人移住が始まったのは1990年代半ばだ。低賃金のきつい仕事によって韓国人が敬遠して離れていった半月・始華(パンウォル・シファ)工業団地の空席を、中国や東南アジア出身の移住労働者が埋めるようになっていった。2010年代からは居住者の国籍が多様化し、世界各国の食材や生活用品を売る卸・小売店が本格的に入ってきて、現在の姿となった。
元谷洞は外国人最多密集地域だ。住民2万人余りのうち70%にあたる約1万4000人が外国人だ。元谷洞行政福祉センター(住民センター)には各種案内文が英語・中国語・ロシア語・ウズベク語・ベトナム語・インドネシア語・カザフ語などさまざまな言語で用意されている。近くの元谷小学校は全校生徒450人余りのうち(2024年基準)420人余りが20余国籍の多文化家庭の背景を持つ。学校前で会ったカザフスタン出身の保護者は「学校から家庭へのお便りが2カ国語で来るので、担任の先生と相談するのも難しくない」と語った。全国の小・中・高における多文化学生数は20万人を超えた。10年前の2015年の約8万2000人の2.5倍だ。現在、韓国国内で生まれる新生児100人のうち6人は多文化家庭出身だ。
◇三つの多文化トリガー…工業団地・結婚・グローバル化
韓国は単一民族国家の神話からすでに遠く離れた国になっている。通常、外国人在留者が人口の5%を超えれば多文化国家とされる。韓国の外国人在留者は273万人(2025年上半期基準)で、全人口の約5.3%を占める。43万9000世帯に達する多文化家庭を含めれば、全体の外国人・多文化人口は350万人をはるかに超えると推定される。2000年代初めまで外国人は全人口のわずか1%余りにすぎなかったが、20年余りで5倍以上に増え、国籍も多様化した。外国人比率はフランス・英国・カナダ(6~8%)と大差なくなってきた。
1992年の韓中国交正常化は、外国人が本格的に韓国に向かうきっかけとなった。中国国籍を持つ同胞が大量に流入した。94年、金泳三(キム・ヨンサム)政権の「世界化宣言」基調も外国人の韓国移住を後押しする背景となった。自治体主導で農村の独身男性の国際結婚が急増し始めたのも90年代半ばからだ。
93年に設けられた「産業研修生制度」を通じて多くの外国人労働者が入ってきた。だが、不法滞在者や外国人労働者の人権侵害などさまざまな問題を生んだため、2004年から「雇用許可制」が導入された。外国人労働力を合法的に雇用できるよう、韓国政府が許可・管理する制度だ。20余年間で雇用許可制を通じて流入した外国人数は累計100万人(2024年基準)に達する。韓国が世界最高の競争力を誇る造船業でさえ、外国人労働力なしでは維持するのが難しい。昨年新たに投入された造船業人力の86%が外国人だった。全羅南道霊岩郡三湖邑(チョルラナムド・ヨンアムグン・サムホウプ)は人口全体(3万人余り)の30%を超える1万人余りが外国人で、そのほとんどは造船所で働いている。
移民・多文化専門家のイ・ソンファ博士は「韓国は2000~2008年の8年間で外国人居住者が4倍近く増えた」とし「共存意識と意思疎通の方法の不足で差別と葛藤があちこちで現れた」と語った。韓国は準備ができていない状態で急速に多文化社会へと転換したという。外国人と多文化家庭に対する認識は改善されてきているが、葛藤と差別はいまだに存在している。今年2月、全羅南道羅州(ナジュ)では移住労働者を貨物に縛り付けフォークリフトで吊り上げて虐待する事件があった。15年前に韓国で初めて「移民学」を明知(ミョンジ)大学に開設したチョン・ジユン教授(国際多文化専攻)は「内国人のための多文化認識教育の方が重要だ」とし「移住の背景を持つ人々は韓国社会のれっきとした構成員で、未来を共に設計するパートナーだと語った。
「外国人=工団労働者」という等式も徐々に崩れている。留学生・研究者・専門技術者なども少なくないからだ。韓国在留外国人留学生数は約27万人(2024年基準)で、韓国居住外国人10人に1人に該当する。専門家は、韓国の多文化社会が国家競争力の一つの軸へと進化すべき時だと語る。
<創刊企画「大韓民国トリガー60」㉜>外国人居住者20年で5倍に…国家競争力を育てる多様性の力(2)
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