米ペンシルベニア州クレアトンにあるUSスチールのコークス工場 [AFP=聯合ニュース]
このため橋本会長はUSスチールが独自で生産できない電磁鋼板など最先端設備投資を推進し、新規製鉄所も建設する計画だ。現在の年産1400万トンの粗鋼生産も2028年までに2000万トンまで増やす計画だ。また米国2位の高炉鉄鋼企業クリーブランド・クリフスの市場シェアを引き込んで現在15%水準の市場シェアを倍に増やすと宣言した。
グローバルネットワークも一挙に完成したと明らかにした。世界で最も成長性が高いインド市場はすでにアルセロール・ミッタルと合弁で高炉2基を建設している。東南アジアの拠点のタイでは電気炉鉄鋼2社を買収した。欧州はUSスチールのスロバキア工場を現在の年産450万トンから1000万トンに増やす計画だ。
鉄鋼業界の地殻変動を予告する日本製鉄のUSスチール買収は攻撃的な戦略のため可能だった。2023年12月にUSスチール買収を発表したが、米国鉄鋼労働組合などの反発でバイデン前大統領は買収不可を決定した。トランプ大統領も4月、「買収不許可」再検討を当局に命令した。しかしこれに屈することなく橋本会長が勝負に出た。2028年までに計110億ドルの新規投資をすると約束し、米国政府に経営上の重要事案に拒否権を行使できる「黄金株」を付与するとしてトランプ大統領を説得し、買収に成功した。
◆余剰生産能力を減らして固定費革新
日本製鉄の変身において橋本会長のストーリーは欠かせない。橋本会長は名門の一橋大学商学部を卒業して同年(1979年)新日本製鉄に入社したが、正統派(東京大金属工学科)ではなかった。また、直言する性格で上司とは葛藤があり、海外事務所や戦略部署に配置された。組織内で非主流だったということだ。しかしむしろこれを通じてグローバル感覚と戦略的な視点を身につけた。2019年に日本製鉄の社長に就任した後、自身の特技を発揮し、わずか3年で会社を劇的に反転させた。
橋本会長が最初に注目したのは固定費の革新と自動車鋼板の価格だった。製造業分野で固定費削減と販売価格の上昇が最も重要だが、これを実行するのは容易でない。固定費支出を画期的に減らすため、橋本会長は生産能力の構造調整に着手した。すべての非効率の根源である余剰生産能力の改善に取り組んだのだ。日本国内6カ所の製鉄所の生産製品と市場を分析し、高炉15基を10基に減らし、粗鋼生産能力を20%も減らした。熱延・メッキ表面処理など休・廃止した設備は6カ所の製鉄所の計32ラインにのぼった。その結果、2020年の決算で約2兆2300億ウォンを削減し、2022年の決算では追加で9000億ウォンを減らした。
実際、固定費の削減は難しいが、経営陣が統制権を持つものだ。これよりも難しいのが製品価格の上昇だ。橋本会長は20年以上続いていた「先に出荷、後に精算」方式の問題点を捕捉し、2021年にトヨタをはじめとする大手自動車企業と交渉して「先に価格設定、後に出荷」方式に変更するのに成功した。このため主要自動車企業の細部調達リストを把握し、日本国内外の鉄鋼企業の供給条件も精密に分析した。
一方では日本製鉄の電磁鋼板特許を侵害したという理由で、中国宝山鋼鉄とトヨタ自動車を相手に日本の地裁に訴訟を提起した。このように情報を分析して相手の弱点を把握した後、2021年5月に「価格上昇なしには供給もない」と宣言した。自動車部品が一つでも不足すれば自動車企業では車を完成できないという事実をレバレッジとして積極的に活用し、望み通りに交渉を進めた。
◆技術高度化で利益創出
同時に高級鋼の比率を高め、2022年決算では限界利益を2020年比で40%も増加させた。結果的に社長に就任した後、2019年の決算で日本製鉄は4兆3000億ウォンの赤字を出したが、2年が経過した2021年の決算では6兆2000億ウォンの純利益を出した。
橋本会長は水素還元製鉄の領域でも推進力を見せている。日本製鉄は2023年の小型水素還元試験炉を利用した実験で二酸化炭素排出量を33%削減したと発表した。また、還元炉内の水蒸気発生による吸熱反応を克服するため水素を1000度以上の高温にして吹き込む技術も開発中だ。一方では還元炉内の高温確保のために2023年11月に水素還元に適合した石炭を生産するカナダのエルクバレーリソーシズの株式を20%取得した。
内部革新を通じて体質を改善した橋本会長は鉄鋼業界の変化した雰囲気に注目した。最近、世界鉄鋼業界に新たな地殻変動が起き始めた。このような変化を呼んだ原料は鉄鉱石でなく還元材だ。
還元材は酸化鉄(Fe2O3)から酸素(O)を切り離すのに必要な原料をいう。現在最もよく使用されている還元材は石炭(C)を高温に加熱したコークスだが、これが溶鉱炉の中で酸化鉄の酸素(O)と結合して二酸化炭素(CO2)を発生させ、鉄鋼が作られる。
2015年のパリ協定を契機に脱炭素の流れは世界的にすべての産業領域に拡大し、莫大な量の炭素を排出する鉄鋼業界にも代替還元材に対する要求が強まった。鉄鋼の脱炭素の観点で最も脚光を浴びる還元材はグリーン水素(H2)だ。水素は鉄から酸素を分離して水(H2O)になるため、温室効果ガスを全く発生させない。
【コラム】脱炭素・電気自動車を狙って…日本製鉄、USスチール買収で世界1位奪還を摸索(2)
この記事を読んで…