今年初め、グリーンランドの首都ヌークに不審な外国人男性らが姿を現した。彼らはグリーンランドの政治家、事業家、一般市民をそそのかし、秘密裏に情報を収集した。

この期間、ＳＮＳ（ソーシャル・ネットワーキング・サービス）でグリーンランドのつらい記憶が露呈した。１９６０年代、デンマークが「社会実験」としてグリーンランドの子供たちを拉致および性暴行した事件が再び言及されたのだ。当時デンマークは４～９歳のグリーンランド原住民のイヌイット族の子どもたち数十人をデンマーク人にするとして拉致した。同時期、産児制限を名分にイヌイット族の女性を強制的に避妊させた事実も議論になった。


ヌークを訪れた謎の男性たち、彼らの背後には誰がいたのだろうか。


２７日（現地時間）、デンマークの公営放送ＤＲは、トランプ米政府と関連した米国人がグリーンランドでスパイ活動をしたと報じた。これらの米国人はトランプ政権に友好的な住民、反対する住民の名簿を作成した。住民を通じて米国メディアでデンマークが否定的に映る事例を収集したりもした。「影響力工作（ｉｎｆｌｕｅｎｃｅ　ｏｐｅｒａｔｉｏｎ）」という一種の世論操作だ。

ＤＲによると、名簿作成を主導した米国人は、公の場でトランプ大統領と数回ともにした人物だ。ＤＲは名前を公開しなかったが、その人物が「最近の米国安保政策に影響を及ぼす役割を担うことになった」と説明した。ＤＲは、過去にトランプ大統領と仕事をしたことのある他の米国人２人もグリーンランドを定期的に訪問し、情報当局の関心を集めていると伝えた。

デンマーク政府は米国大使代理を呼び出し、強く抗議した。デンマークのフレデリクセン首相は「米国は報道内容を否定していない。これは非常に深刻な事案だ」とし、「いかなる内政干渉も容認できない」と述べた。デンマーク保安情報局（ＰＥＴ）は「グリーンランドは依然として（米国の）多様な影響力キャンペーンの標的になっている」とし「これはグリーンランドとデンマーク間の不和を造成する目的のためだ」と述べた。

◇グリーンランド、「鯨の戦い」に背を向けるのか

トランプ大統領はこれまで水や石油、天然ガスなど資源が豊富なグリーンランドに向ける野心を隠さなかった。トランプ大統領は政権１期目にグリーンランドを買い入れるとしてデンマークと衝突したが、再選に成功した後は武力使用も辞さないと述べた。

グリーンランドを狙った工作の背後にトランプ大統領がいるのだろうか。疑わしい活動を行った米国人の背後が誰なのかは、まだ知られていない。米国政府は今回の事件に「個人の行動」と線を引いた。デンマーク駐在米国大使館は「米国人個人はグリーンランドに対して利害関係を持つことができる。米国政府は個人の行動を統制したり指示したりしない」と反論した。ただし、ウォールストリートジャーナル（ＷＳＪ）は５月、米情報当局にグリーンランドとデンマーク内で米国の編入目標を支持する人物を把握するように指示が下されたと報じた。

当事者のグリーンランドは、怒ったデンマークとは違って生ぬるい反応を見せた。グリーンランド自治政府のヴィヴィアン・モッツフェルト外相はグリーンランドの全国紙センミッツィアックに「米国がグリーンランドに影響を与えようとする不審な活動について報告を受けていない」とし、「そのような証拠は見たことがない」と線引きした。

グリーンランドは３００年近くデンマークの支配を受けた。その後、植民地統治から脱し、デンマークの一部に編入され、２００８年に自治権を取り戻した。３月の総選挙で勝利した自由主義政党のデモクラティット党は親米性向だ。デンマークで独立を標榜している。しかし、グリーンランドは依然として経済的自立性が弱く、デンマーク政府の補助金に依存している状況だ。

数十年以上、自らの犯行に背を向けてきたデンマーク政府は、急ぎ過去の問題の解決に乗り出した。同日、フレデリクセン首相は、グリーンランドのフレデリク・ニエルセン首相と共同声明を出し、かつてグリーンランドの女性に対し行った強制避妊措置について公式謝罪した。