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最初に、関税が発表された時にすでに米国に向けて船積み中だった製品には新たな関税は適用されない。このため5~6月初めに米国に輸入されたアジア製品の相当数は以前の関税率がそのまま適用された。2番目に、関税が実際に課される港湾から消費者に製品が届くまでさらに時間がかかる。平均的に供給網に沿って移動するのに約3カ月が必要とされる。したがって4月に発効された関税の負担は一部の場合、9月になってから消費者物価に反映されることになる。同じように8月1日から適用される追加関税もやはり来年1月ごろ消費者価格に影響を与える可能性が大きい。
それでも米国の消費者物価の細部項目では関税効果が徐々に現れている。代表的な例が家電製品だ。洗濯機と冷蔵庫など主要品目の価格は3月以降に3.6%上昇した。このような価格上昇には2つの要因が作用した。まず世界の家電業界が対米輸出製品のドル建て価格を下げず関税負担が消費者にそのまま転嫁された。また、米国のメーカーも製品価格を引き上げたが、これは輸入鉄鋼など原材料にも関税が課され生産コストが上昇したためとみられる。同時に関税によって海外の競合会社の製品価格が上がった隙を利用して利潤拡大を狙った戦略の可能性もある。関税の直接的・間接的効果が結びついて結局消費者価格が上がることになったのだ。
それならなぜこのような関税によるインフレにも米国の消費者は特別な反応を見せないのだろうか。理由は単純だ。消費者が価格変化を体感しにくいためだ。洗濯機や冷蔵庫は毎週買う生活必需品ではなく、何年か前に購入した価格を記憶している人も珍しい。
その上民主党支持性向の消費者のうち一部は関税施行前の今年初めに購入を繰り上げたりもした。関税の否定的効果を警告する報道が民主党性向メディアを通じて広がり消費スタイルに影響を与えたとみられる。彼らはすでに購入を終えているのでその後の価格上昇に鈍感なのかもしれない。
だが時間が流れれば状況は変わるかもしれない。家電製品で始まった関税効果は次第に他の消費財に広がるだろう。いまはわずかに見えるインフレの兆しが多様な分野に広がる場合、米国の消費者の不満も本格化する恐れがある。現在家電部門で起きている変化は今後の物価の流れを見せる信号かもしれない。関税政策の余波はいままさに始まったばかりだ。
ポール・ドノバン/UBSグローバルウェルスマネジメント・チーフエコノミスト
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