韓国の李炯日(イ・ヒョンイル)企画財政部第1次官(中央)が7月29日、「2025年税制改編案」の詳細を説明している。[写真 聯合ニュース]
李在明(イ・ジェミョン)大統領の就任以降、7月までにKOSPIはおよそ17%上昇した。「KOSPI5000時代」の達成を宣言し、企業が得た利益が株主に還元されるように企業ガバナンスを改善し、株式市場を活性化させて国民の資産を増やし、過度な不動産集中を緩和しようとする「李在明式マネームーブ」に投資家が呼応した結果だった。経済界の反発を押し切って通過させた「株主忠実義務」を盛り込んだ商法改正案は、その約束の証拠でもあった。
だが、李在明政権と株式投資家との蜜月は長く続かない様相だ。個人投資家たちが「株式市場の戒厳令」と命名した7月31日の「2025年税制改編案」のためだ。増税を基調としつつ、株式譲渡所得税の課税対象となる大株主の基準を再び引き下げ〔保有額基準を1銘柄あたり50億ウォン(約5億3400万円)から10億ウォンへ〕、来年から導入される配当所得の分離課税における最高税率も立法(20%)よりも高い35%にした。証券取引税も再び引き上げた。
株式市場の活性化に逆行するこれらの措置は、投資家の激しい反発を招いた。大株主指定を避けようとする売却の動きによって株価が下がるという、韓国市場特有の慢性的問題が再発するとの懸念が広がった。配当所得の分離課税も、敷居の高さと引き上げられた最高税率によって、市場が期待する実質的な効果を得るのは難しいとの批判の声が上がった。
市場の反発は株価の下落へとつながった。8月1日の一日だけで、韓国株式市場から時価総額116兆ウォンが消失した。大株主譲渡税の拡大(2兆3000億ウォン)と証券取引税(2000億ウォン)の引き上げによる年間の税収増加効果も、失われた時価総額に比べれば「蚊に刺された程度」だ。直ちに「政府が国民生活支援金の支給(13兆ウォン)による資金不足で増税に踏み切り、15万ウォンの支援金と数十万~数百万円の投資資金を取り換えた」という不満の声が噴き出した。
何よりも政策に対する信頼は地に落ちた。政権によってゴムのように伸び縮みする大株主基準にもあきれるが、それ以上にあきれることは、投資家を愚弄するかのような与党議員たちの“ピンポンゲーム”だ。投資家の激しい反発を受け、金炳基(キム・ビョンギ)共に民主党代表代行兼院内代表は8月1日、税制改編案の再検討を示唆した。しかし翌日には、陳声準(チン・ソンジュン)政策委員長が「李在明政府の国政目標はKOSPI5000だけではなく、国政課題のためには数百兆ウォンの財源も確保しなければならない」として改編案を強行する姿勢を見せた。
国会の”拙速立法“は昨日今日のことではない。それにもかかわらず、投資家の反発が目に見えて明らかな法案を推進し、実際に反発が起きると慌てて「再検討」と言い出すのは、無能な与党による“立法独裁”としか言いようがない。巨大与党の立場では法案を変えることは手のひらを返すよりも簡単なことなのだろう。「直せばいいだけのことなのに何が問題なのだ」と言うかもしれないが、法律・制度の安定性と信頼なしに、不確実性に満ちた市場に積極的に投資する者などいない。
さらに、度を超した企業たたきも株式市場への期待を萎えさせる不安要因となっている。市場を牽引(けんいん)する最も強力なエンジンは、企業の業績だ。問題は、その企業の業績の足を引っ張る“メガトン級”の悪材料が次々と待ち構えていることだ。景気低迷による業績不振で昨年企業が納めた法人税が減少したことを受けて、韓国政府は減った税収を埋めるため法人税率を1ポイント引き上げた。
与党が本会議通過を目指している、より強力な商法改正案と「黄色い封筒法」も企業を締めつけている。特に、「使用者」の範囲と「労働争議」の対象を拡大し、下請け労働者が元請け業者と労使交渉できるようにし、構造調整や工場の海外移転を理由にストライキも可能になるという同法により、段階的な協業体制で成り立っている造船や自動車産業は、争議の泥沼にはまりかねない。競争力の低下と業績悪化は避けられず、産業の空洞化さえも懸念されている。
損得を論じるのは時期尚早かもしれないが、とにかく関税交渉のツケも企業の肩にのしかかることになるだろう。今回の交渉により、韓米自由貿易協定(FTA)が形骸化し、企業が耐えるべき負担は一層重くなった。韓国企業に宿命とも言える「国家への忠誠義務」に縛られ、交渉に積極的に臨んだ企業が差し出さなければならないものも少なくないだろう。
信頼できない政府、背を向ける投資家、競争力を失い業績が悪化する企業--。もしこの組み合わせのまま進んでいくならば、KOSPI5000は当面の間、到達が困難な高みとなる。選択肢は二つしかない。この組み合わせを防ぐための前向きな法・制度の改善か、それともKOSPI5000時代を諦めるか。ほかに選択肢があるかと言われれば--さて、どうだろうか。
ハ・ヒョンオク/論説委員
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