トランプ米大統領
米ロが主導するウクライナ戦争終戦交渉に当の戦争当事国は不在という「ウクライナ・パッシング」論争を巡りロバート・アインホーン元米国務省対北朝鮮・対イラン制裁調整官は19日(現地時間)、韓国中央日報とのインタビューでこのように述べた。また、「北朝鮮へのアプローチの仕方は米国と韓国の十分な調整によってしか正解に近づけないが、『コリア・パッシング』状況で行われた米朝交渉は誤った選択をもたらす可能性が大きくなる」と懸念を示した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は米ロ終戦交渉に自国が排除された状況について「ウクライナなしで合意されたいかなる交渉も認めることはできない」と強く反発している。にもかかわらず、トランプ大統領は強行の意志を曲げない姿勢だ。むしろゼレンスキー大統領に対して「独裁者」など刺激的な表現を使って非難の度合いを大きく強めた。
◇トランプ氏「独裁者ゼレンスキー」猛攻撃
18日、戦争責任をウクライナのせいにするような発言をしたトランプ大統領は翌日、フロリダ州マイアミで開かれた「未来投資イニシアチブ(FII)プライオリティサミット」の演説でゼレンスキー大統領について「まあまあ成功したコメディアン」と称し、毒舌を浴びせた。
また、「選挙を行わない独裁者ゼレンスキーは急がなければ国を失うことになる」と述べた。ゼレンスキー大統領は昨年3月20日に任期が終わったが、戦争中に戒厳という特殊状況で大統領選挙を延期したが、「ウクライナ大統領選挙」を主張してきたロシア側に立つようなニュアンスだった。終戦の要求に応じなければ、米国の支援を中断するという脅しでもあった。
◇ゼレンスキー大統領「トランプ、虚偽情報の空間に生きている」
これまで水位調節をしてきたゼレンスキー大統領も黙って見過ごせないというように鋭い発言をした。この日、自国のテレビに出演し「トランプ大統領は虚偽情報の空間に生きている」と攻撃した。トランプ大統領が前日、自身について「支持率4%に過ぎない大統領」と攻撃したことに対する反撃だった。ゼレンスキー大統領は「ロシアが広めた虚偽の数値」とも述べた。
この日、ウクライナのキーウ国際社会学研究所が国民1000人を対象にした世論調査結果は「ゼレンスキー大統領を信頼する」という回答が57%、「信頼しない」という回答が37%で、トランプ大統領の主張とはほど遠い結果だった。ゼレンスキー大統領は米国が安全保障を名分にウクライナのレアアースの持株50%を要求したことについても「国を売ることはできない」と一蹴した。
欧州でもトランプ大統領の速度戦とウクライナ責任論を受け入れ難いという反応だ。フランスのプリマ政府報道官は「米国の論理は理解し難い」とし、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相はトランプ大統領の発言について「とんでもない」と述べた。来週初めにワシントンを訪問する予定の英国のキア・スターマー首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領も、トランプ大統領にロシアのプーチン大統領との密着に対する憂慮のメッセージを出すものとみられる。
◇「ウクライナ・パッシング」韓半島にも示唆点
2022年2月24日にロシアの全面侵攻を受けたウクライナは、これまで米国(バイデン政権)と欧州の支援の中でロシアに対抗して3年間抗戦してきた。しかし、米国のトランプ政権発足後、状況が急変したことを受け、ウクライナは安全保障のために要求してきたNATO(北大西洋条約機構)加入が失敗に終わる恐れがあるなど危機感が高まっている。
今回の「ウクライナ・パッシング」論争は国際外交舞台で地政学的弱小国が自国の運命を自ら決める機会を剥奪された新たな事例と評価される。これは韓半島に示唆するところも大きい。トランプ大統領が北朝鮮とも直接対話を試みる可能性が高いという点からだ。トランプ大統領は先月23日、FOXニュースとのインタビューで、北朝鮮の金正恩委員長を「スマートガイ」と呼び、北朝鮮に対する首脳外交再開の意志を示した。
◇「多国間外交の強化など事前に備えなければ」
アインホーン元調整官は「金正恩氏との会談への関心を示したトランプ大統領は、近く北朝鮮との関係模索に乗り出す可能性が高い」とし「おそらく今回も(首脳間の)対話が行われる可能性が高い」と予想した。このように米朝が直接取引を試みれば、当事国の韓国が議論の構造から除外される「コリア・パッシング」が現実化するおそれがある。
2018年のシンガポール朝米首脳会談直後「費用がかかりすぎる」という理由で韓米合同演習の中断を示唆したトランプ大統領が今回は非核化の代わりに核凍結などを条件に「スモールディール」に出る恐れもあるという憂慮も出ている。キャスリーン・スティーブンス元駐韓米国大使もこの日「トランプ大統領が北朝鮮と直接対話を試みれば、『ソウル・パッシング』に対する不安が高まるだろう」と述べた。
コリア・パッシングを受けないためには何をすればいいのか。トランプ政権の至上課題の対中国牽制のためにも韓米同盟、韓米日安保協力の戦略的価値が絶対的に大きいという点を引き続き刻印させなければならない。アインホーン前調整官は「韓国は多国間協議体を積極的に活用し、域内パートナーシップを拡大するなど多国間主義外交をあらかじめ強化しておく必要がある」と助言した。
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