イーロン・マスク氏
スターマー首相は「嘘」と反論したが、憤った民心に逆らうことはできなかった。この状況に乗じてマスク氏が支援するタカ派の右派政党英国改革党がわずか1%ポイントの差で執権労働党に追いついたという世論調査結果も出た。
マスク氏が再点火したグルーミング・ギャング事件は1997~2013年の間、英国北部のロザラムで11歳の女児を含む少なくとも1400人の英国少女が主にパキスタン系男性で構成された組織暴力団にお酒と薬物などを投与された後、性的暴行を受けた事件だ。被害少女たちはパキスタン系暴力団に人身売買され、薬物や銃器と取り引きされたりもしたという。
被害規模が大きくなったのは、政府の過ちが大きい。不審なパキスタン系の運転手が英国の少女たちをタクシーに乗せていくという疑惑が住民の間で提起されたが、地方政府はこれに目をつぶり、警察も無視した。一部の警察は通報を受けても少女らに向かって「売春婦」「個人の逸脱に過ぎない」と反応したという。
事件が実際には1990年代後半ではなく、1980年代後半から始まったという主張もあり、隠れた被害者はさらに多いという見方もある。後で捜査で明らかになったが、実際にロザラムの他の地域でも移民者暴力団の性暴行事例が大量に発覚された。
2010年代初め、事件が後になって公論化し、捜査機関が乗り出して犯罪者を処罰した。しかし、英国社会は廃墟と化した。特に地方政府と警察がこの事件を数十年間にわたりもみ消した背景には、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス(Political Correctness)」があったのではないかという疑惑が広範にわたって提起された。移民者を相手に積極的に捜査に乗り出したが、ややもすると「人種差別主義者」と言われるのではないか恐れていたということだ。
実際、当時起訴された犯罪者の一人は裁判官に向かって「人種差別主義者」と言ったという。ニューヨーク・タイムズは当時、これを報道し「加害者はほとんどパキスタン系男性、被害者は白人少女という点で人種、民種、宗教の側面で否定的なスポットライトが照らされている」と指摘した。
マスク氏が10年が過ぎた事件を再び持ち出し、政界と民心を揺さぶると、英国の進歩メディアは心地悪い気配を隠さずにいる。当時、一部事件の起訴を引き受けたスターマー首相が事件を隠蔽したというマスク氏の主張は根拠がないという点に焦点を当てている。また、捜査当時は保守党政府が政権を握っていたという点も強調した。ガーディアン紙は「マスク氏が性犯罪事件を政治化した」として「警察など政府が事件を隠蔽したという証拠はない」と反論した。
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