尹錫悦（ユン・ソクヨル）大統領が高位公職者犯罪捜査処（公捜処）の「不法逮捕」を主張して裁判所に請求した逮捕適否審理を、ソウル中央地裁が昨日午後に棄却した。公捜処が２度にわたりソウル西部地裁から受けた逮捕状に問題はないというのが、ソウル中央地裁の判断だ。その間、尹大統領は公捜処には内乱罪捜査権がないと主張し、公捜処の調査を事実上拒否してきた。一方、公捜処は公職者職権乱用に関連した犯罪であり内乱罪まで捜査することが可能という立場であり、裁判所も昨日、公捜処に軍配を上げた。

また、尹大統領は公捜処の管轄裁判所はソウル中央地裁であるため、公捜処がソウル西部地裁から受けた逮捕状は無効だと主張してきたが、裁判所の判断は違った。公捜処設置法に基づき、正当な理由がある場合は他の裁判所でも問題にならないと、ソウル中央地裁は結論を出した。今回の決定で公捜処の捜査範囲と管轄裁判所をめぐる論争が一段落しただけに、今後、尹大統領は公捜処の捜査に積極的に協力する必要がある。

尹大統領は内乱首謀容疑で逮捕された後も黙秘権（陳述拒否権）を行使し、捜査に協力していない。公捜処は昨日午後、尹大統領をまた呼んで調査する計画だったが、尹大統領側は「これ以上調査を受けることはない」として公捜処の調査に応じなかった。一昨日、公捜処の検事らが１０時間以上の調査をし、あらかじめ準備しておいた２００枚分の質問をしたが、尹大統領は終始、黙秘権を行使した。現職大統領が憲政史上初めて捜査機関に逮捕されただけでも惨憺たる状況だが、黙秘権を盾にして捜査に協力しない姿は極めて遺憾だ。


黙秘権行使や逮捕適否審理請求は容疑者なら誰でも憲法が保障する権利でもある。しかし一個人として権利を行使するのと、国政最高責任者の大統領として国民の責任を負うことは全く異なる問題だ。特に軍兵力を投入した国会無力化の動きなどに尹大統領がどこまで関与したのか、必ず真実を明らかにしなければいけない。金竜顕（キム・ヨンヒョン）元国防部長官の検察の起訴状には、尹大統領が李鎮遇（イ・ジンウ）前首都防衛司令官に「銃を撃ってでも（国会本会議場の）扉を壊して進入し、引っ張り出せ」と指示したという内容がある。尹大統領の主張のように警告性で戒厳を宣言したのなら矛盾する部分だ。なら誰が嘘をついているのか。

尹大統領がやるべきことは支持者を扇動する世論戦でなく、１２・３非常戒厳事態をめぐる真実を詳細に明らかにすることだ。戒厳発動が本当に正当だったと考えるなら、捜査陣の前で堂々と陳述できない理由はない。国民が尹大統領に望むのは自身の弁解でなく謝罪と反省ということを肝に銘じなければいけない。それが大統領選挙で尹大統領を信じた国民に対する最小限の道理だ。